表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第1章 4色の接触

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/128

第13話 黒い接触

 季節は六月初旬。

 

 忌まわしい悪魔共と同じ高校になって最初は震えて過ごしたが、今では平穏無事に過ごせている。当初の予定と違い赤と青に関わってしまったがどちらも不可抗力なので仕方ない。仕方ないとしておこう。


 赤澤夕陽とはそこそこ仲のいいクラスメイトという関係だ。挨拶はするし、たまに雑談もするが遊ぶほどの関係ではない。


 青山海未はたまにGPEXをする関係だ。学校ではクラスが違うのでこれといった接点はなく、すれ違った時に挨拶をする程度の関係である。


 恐れているのは「俺=無川翔太」とバレることだ。

 

 それに比べれば多少接近したくらいは許容範囲である。

 

 連中は昔と違ってトゲがないように感じた。女神とか言いたくないが、人を陥れるような雰囲気はなかった。


 赤澤は誰に対してもアイドルのように振る舞って生徒達を笑顔にする。青山はいつも元気で生徒達に活力を与えている。その姿は女神と崇められるにふさわしいものだった。


 反省して足を洗ったのかもしれない。


 もし、俺が無川翔太と知ったらあの二人はどう動くんだろう。


 ……仮定の話は止めよう。


 今の俺は虹谷翔太だ。あの時の記憶と感情を忘れるわけじゃないが、すでに別人である。


 残りの悪魔とは未だに接触がない。


 これは朗報だ。どちらも別のクラスだし、部活をしていない俺と連中の接点はない。今後も関わることはないだろう。


 さてその日。


 俺はチャリでバイト先に向かっていた。


 今の父親はいいところに勤めているので毎月お小遣いを貰えるのだが、世話になりすぎるのは良くない。


 中間テストが終わったのをきっかけにバイト探しを本格化させ、本日めでたく家から離れた場所にある本屋で働く運びとなった。


 そして迎えた初バイトの日。


 教育係として出てきたのは。


「っ、転校生の虹谷さん?」

「……」


 黒の女神――黒峰月夜だった。


 マジかよ。


 家から離れた場所を選んだのは万が一の事態に備えるためだ。家の近くだと【4色の悪魔】に見つかる可能性があった。


 中学の頃の同級生にも見つかりたくなかった。もし中学の頃の知り合いがバイト先にでもいたらうっかり情報が筒抜けになり、俺だと気付かれる恐れがあった。


 だから家から離れた本屋を選んだ……選んだのに。


 想定外の事態に固まってしまった。


 ここでただ黒峰が出てくるだけなら最悪だと自分の不運を嘆いただろう。想定外だったのはその姿にある。学校とは大分違う。違いすぎるのだ。


 転校直後、悪魔の名前を聞いた俺は念のために連中の顔を確認した。奇跡的に同姓同名であってくれと願ったからだ。名前が特徴的なので確認するまでもなかったが、一人だけ過去と顔が合わなかった人間がいた。


 それが黒峰月夜である。

 

 昔のあいつは地味で根暗、メガネを掛けたおさげの女だった。真面目といえば言葉はいいが、おしゃべりも嫌いで行動力もないので暗い女という印象しかなかった。常に読書していたこともその印象を加速させた。


 だが、天華院学園で見かけた黒峰は全くの別人のようだった。

 

 サバサバ系女子と言えばいいのか、そういったタイプの女性だった。ポケットに手を突っ込み、堂々とした立ち振る舞い。制服を着崩し、薄いメイクを施し、クールな雰囲気を漂わせているスタイル抜群の長身黒髪美女。それが黒の女神だった。


 見かけたとき、丁度あいつは告白されていた。


『好きです。付き合ってください』

『……はぁ? 嫌なんだけど』

『っ』

『鏡見てから出直してきな』


 棒飴を舐めながら男子をばっさり切り捨てていた。


 別人かと思ったくらいだ。今でもちょっとそう思っている。もっとも、変化している具合からすれば俺も大差ないわけだが。


 で、現在だ。


 目の前に立っている黒峰はメガネを掛けていた。メイクはしていない。光沢ある黒髪はおさげになっている。


 この地味子は紛れもなく中学生時代の黒峰だった。


 転校生と呼んできた今この時点でようやく、こいつが中学時代に俺を地獄に突き落としてくれやがった黒い悪魔だと確信を持てた。


 ……落ちつけ、冷静になれ。


 学校で接触はない。そして虹谷翔太が知っているのは高校時代の黒峰だけになる。自己紹介をしてもらっていないこの段階で取るべき対応は。

  

「あれ、俺のこと知ってるんですか?」

「えっ――」

「初対面ですよね」


 知らないフリを決め込む。


 俺達の間に接点はない。こいつの名前と顔が一致していたらおかしい。あくまでもここは転校してきて、生活が落ち着いたからバイトを始めた男子高校生として振舞わなければならない。


「え、その……実は同じ高校なんです」

「そうなんですね。転校してから忙しかったし、中間テストもあったから他のクラスの人の名前はまだ覚えてないんですよ」

「そうですか……あっ、気にしないでください」

 

 先輩か後輩か、あるいは同級生なのか知らないという体で通そう。その為に敬語を使ってまじめ人間を演じる。


「黒峰です。虹谷さんとは同級生です」

「同級生だったのか。それじゃ、今日はよろしくお願いします」 

「こちらこそよろしくお願いします。では、早速教えますね」


 コホン、と咳ばらいをして黒峰が説明を始めた。



 バイト初日が終わった。


 黒峰は最後まで俺の正体には気付かなかった。最初こそぎこちなかったが、途中からはバイトの新人と先輩という形で接してくれた。


 この調子なら今後も相当下手をしない限りは大丈夫だろう。こうして考えると俺の変化は黒峰以上かもしれないな。


 黒峰の教え方は丁寧だった。おかげですぐに仕事を覚えられた。


「お疲れ様でした、虹谷さん」

「お疲れ様」

「初日はどうでしたか?」

「黒峰のおかげで助かったよ。ありがとう」

「いえいえ、虹谷さんは筋が良かったですよ」

 

 そうして微笑む黒峰の顔は中学時代に話していた頃のものだった。


 学校にいるあいつと同一人物だよな?


 頭ではわかっているのだが、どうにも一致しない。個人的にはこっちの黒峰のほうが見知っているわけだが、学園での生活ぶりを見ているから違和感が凄かった。言葉遣いも全然違う。


 少しだけ頭を働かせ、すぐに停止した。


 今の俺達は単なるバイト仲間だ。


 最初はすぐにでもバイトを辞めようと考えたが、それをすると店に迷惑が掛かる。正体がバレる気配もないのでこのまま続けることを決めた。


「それじゃ、またな」

「あの、虹谷さんっ!」


 チャリを漕ぎ出そうとしたところで声を掛けてきた。


「どうした?」

「学校では……その」


 言いよどむ姿に察しがついた。

 

「学校では話しかけないから安心してくれ。クラスは違うみたいだし、そうそう出会う機会はないだろう。黒峰が何組か知らないし、会いに行くようなこともないから安心してくれ」

「ありがとうございます。バイト先が知られるのは困るので」


 困る?

 誰に対してだろう。


「……そういえば、帰りは電車か?」

「自転車の日もありますが、今日は迎えが来てくれます」


 丁度その時、道路の向こうに車が止まった。次いで黒峰のスマホが震える。


「お父さんです。では、失礼しますね」


 黒峰はとことこ歩き出し、父が待つ車に乗り込んだ。


 渋い顔をした男性だった。精悍な顔つきで、いかにもデキる男といった感じだ。あれがあいつの父親か。


 さして興味はなかったのでチャリを漕ぎだす。


 ……しかし、学校で上手く避けてるのにバイト先が一緒とはな。


 改めて人生ってのはクソだと嘆きながら、俺は家路についた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ