第27話 4色の女神
生徒会長の宣言に生徒達が歓声を上げた。
「……これで【4色の女神】も見納めか」
ふと、感想が零れた。
新しい女神が決まれば、青山達は女神ではなくなる。
因縁のある相手ではあったが、学園の象徴とも言うべき存在が今日限りで役目を終える。そこに思うところがないといえばウソになる。
「まっ、ボクは全然問題ないけどね」
つぶやきを拾った青山がサラッと答える。
「……同感」
「面倒だったし」
「うっとうしい奴等に付きまとわれる」
「変に有名だから他校の連中も見に来るしね。しかもイメージと違ったら文句とか言い出すし」
「二度とゴメン」
不満ばっかりじゃねえか。
女神も女神でいろいろとありそうだな。承認欲求は満たされるだろうけど、多くの人に見られるのはストレスに感じるかもな。そもそもこいつ等は女神って柄でもないしな。
「それよりさ、誰が選ばれるのか予想しようよ」
「なら、青山の本命は?」
「応援している云々は抜きにするよ。上位はかなり競ってるけど、個人的には天塚先輩が本命じゃないかな」
妥当な予想だろう。
知名度もあるし、昨年は噂のせいで人気を落としただけ。順当に行けば昨年も女神だった可能性も高い。
唯一のネックがるとすれば、あの噂を昨年の段階で否定しなかったことだ。未だに疑っている層がいる。
「黒峰は?」
「赤以外。白もちょっと嫌」
「それは願望だろ」
「……予想は紫音。男子は若い子が好きだから」
それはオッサンの意見じゃないか?
全員女子高生だから全員若いと思うのだがな。
「翔太の予想は?」
「男神は八雲君で間違いないと思う。女神のほうは……感情面を抜きにしたら赤澤と白瀬が有利だろうな」
現女神というのはそれだけでアドバンテージになる。俺は赤澤と同じクラスだからかもしれないが、様々な人に声を掛けられている場面を良く見る。
『さあ、昨年は史上初となる4人同時の女神就任が話題になりました。今年はどうなるのでしょうか。では、ステージに大注目です!』
生徒会長の声でステージに視線を向ける。
天華コンテストは辞退した人間を除けば全校生徒が参加となるイベントであり、神に選出された生徒はステージに上がる。
ステージの上には巨大なディスプレイがあり、その前には生徒達が投票した紙が入った箱が証拠品とばかりに置かれていた。
『まずは男神の発表から参りましょう。あえて多くは語らず、結果を見ましょう。今年度の男神に選ばれたのはこの生徒です!』
ディスプレイに全校生徒の視線が集まる。
10位の名前と得票数が映されると、徐々に上がっていく。そして、1位の生徒の名前が明らかになる。
『これは大番狂わせか!? あるいは大本命か!? 今年の男神も昨年に続き1年生が獲得しました。男神に選出されたのは”白瀬八雲君”です!』
生徒会長が声高に叫ぶ。
発表直後、体育館にどよめきが走った。男神に選ばれたのは俺が最も可愛がっている後輩の白瀬八雲君だった。
『それでは、ステージにお越しください!』
呼ばれた八雲君がステージに上がる。緊張しているのか、足取りは重かったし表情は硬かったが、かなり嬉しそうだ。
「ふむふむ、大方の予想通り白瀬の弟か。噂には聞いてたけど、こうしてまじまじ見るのは初めてかも。なるほど、確かにイケメンだね」
「……性格も悪くない」
「そうなの?」
「確認済み。納得の選出」
青山と黒峰の会話を聞きながら、 俺はガッツポーズした。
あの真っすぐな性格は見ていて気持ちがいいし、蓮司がいないのなら投票先は一択だった。見事に選出されて自分のことのように嬉しかった。
「よくわからなかったから、僕も彼に入れたよ。他にこれって男子もいなかったしさ。それに、翔太の可愛がってる後輩だからね」
「……わたしも」
青山と黒峰も投票したらしい。
どちらもさほど接点があるわけじゃないけど、他にいなかったのだろう。投票は義務なので放棄はできない。
「辞退しなかったら翔太じゃない?」
「わたしもそう思う」
言っておくが、それ以前に大本命が最初に辞退してるからな。
『白瀬君、男神就任おめでとうございます!』
『あ、ありがとうございますっ』
『では、一言お願いします』
『えっと、非常に嬉しいです。これからはこの称号に恥じないように努めさせていただきます!』
ステージ上では八雲君が挨拶をしていた。ところどころ緊張が滲み出ていたが、堂々たるものだった。俺も思わず拍手した。
「男神は予定調和かな。さて、問題は女神のほうだね」
「……紫音は頑張った。報われてほしい」
黒峰に同意する。
俺にとって今回の有力候補は知り合いというか、近しい人物ばかりだ。しかし票は最初に決めた通り紫音に投票した。
兄妹神は無理だったけど、それでも紫音に女神になってほしい。
今年は昨年以上の混戦だ。有力者が相次いで辞退する中、果たして誰が女神になったのだろうか。
下馬評でも有力候補は互角だった。実際、開票を見ていた友人の話では大接戦なのは間違いないらしい。ただ、正確な票数は開票作業をしていた先生方にしかわからない。
生徒会長は先生から紙を渡された。それは結果が書かれた紙だ。受け取った生徒会長はビックリしていた。
『え、えっと……今年度の女神ですが、こちらは昨年と同様に大激戦となりました。開票を行った先生は何度も何度も確認したそうです。不正が行われなかったことは多くの生徒が確認していることでしょう』
生徒会長はそう言って、次の言葉を溜めた。
「あれ、この流れって――」
「既視感がある」
どういうことだ?
『ええい、口で説明すると面倒だからさっさと結果に行きましょう。では、その目で今年度の女神が誰なのか御覧ください!』
ディスプレイには結果が表示された。
男神と同じく下から順番に発表していくと、不自然に5位で止まった。
「うわっ、そうなったか」
「……奇跡」
声が重なると同時に、ディスプレイに表示された。
「……」
俺はディスプレイを眺めて固まった。
それはまさに奇跡というべき結果だった。何故なら、今年もまた4人が完全な同票だったのだから。
赤澤夕陽。
天塚黄華。
虹谷紫音。
白瀬真雪。
「……マジか」
俺の声に反応した青山は笑った。
「マジみたいだよ。この空気、去年を思い出すね」
「ホントに全部同じ」
昨年もこういった感じの空気だったらしい。
まさかの昨年と同様の4人同票だった。
……これは喜ぶべきなのか?
『いやはや、これは去年を思い出すねぇ。去年はここで大いに揉めました。ええ、私もよく覚えています。しかし、今年は予め対策済みです。それでは女神に選出された方々、ステージに上がってください』
どう反応していいのか迷ったが、その迷いは紫音の姿を見て消えた。
ステージに上がった紫音は喜びを爆発させていた。ある意味では黒峰とお揃いなわけだし、そりゃまあ喜ぶだろうな。
生徒会長から促され、新女神達が一言述べる。
『今年も女神になれて嬉しいです!』
『同票かぁ。嬉しいけど、ちょっと複雑かも』
『紫音はすっごく嬉しいです!』
『応援して下さった方々に感謝を。成果が出て良かったですわ』
戸惑う俺を尻目に、生徒会長はマイク片手に声を張る。
『今年も大混戦の大波乱でした。今年は何と史上初となる姉弟神が誕生しました。そして、今年も昨年同様に4人の女神が誕生しました。偶然ですが今年も全員の名前に色が入っています。そう、新生【4色の女神】が爆誕しました!』
今年の天華祭は近年最も盛り上がった文化祭となった。
天華院学園に史上初となる姉弟神が誕生した。そして、新たな【4色の女神】が降臨した。




