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4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第4章 4色の女神達

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桃色の独白 後編

 春、私は天華院学園に入学しました。

 

 学力的には問題なかったけど、体が弱かった私は学校を休みがちだったので人付き合いが苦手でした。中学で仲良しだった子は他の高校に進学したので、孤立するかもしれないと不安でした。


 しかし、予想に反してすぐに友達ができました。多くの人が積極的に声を掛けてきてくれたからです。


 理由は簡単で、私が赤の女神の妹だから。


 その事実に気づいた時は不満だったけど、人付き合いが苦手な私にとっては助け舟でした。利用できるものは何でも利用しましょう。


 高校生活は順調なスタートを切りましたが、私には目的があります。天華院学園が誇る【4色の女神】に復讐するという大きな目的が。

 

 青と黒の女神は同じ中学の先輩なので知っていました。唯一知らなかったのは白の女神だけです。この女は翔太兄さんの彼女だったという記録があり、個人的に最も許しがたい相手でした――


 早速調べました。


 なるほど、確かに近くで見ると確かに美少女です。


 他の先輩方も中学時代に比べてグッと綺麗になっていました。悪魔の分際で女神気取りなのはイラっとしますが、あの容姿なら有象無象は騙せるでしょう。まあ、私の目を誤魔化すことは不可能ですけど。


 しかし、女神という地位は想像していたよりも厄介なものでした。


 彼女達の周りには常に人がいます。多くの男女に囲まれ、声を掛けるタイミングがありません。下手なことをすればたちまち悪者にされかねない雰囲気です。


 史上初の同時女神というのも話題性があったらしく、それぞれの女神には派閥と呼ばれる親衛隊のような人達もいました。


 暴力的な解決を好む翔太兄さんではありません。あの人は昔から優しかった。もし、私が暴力的な手段を使って復讐したらきっと私を軽蔑するでしょう。それだけは避けなければいけません。過去の行いを生徒にバラすのも悪くない選択でしたが、多くの生徒は女神を信じているので私が嘘吐き扱いされる可能性が高いです。

 

 ――だったら、正々堂々と女神の座から引きずり下ろしましょう。


 天華コンテストで勝利し、私が女神になる。女神になった後なら影響力は高まるので、そこから嫌がらせをすることで復讐としましょう。


 私は自分を高めることに時間を費やしました。得意だった勉強に力を入れ、苦手だった人付き合いも頑張りました。おしゃれとかも頑張って覚えました。


 成果は少しずつ出てきました。姉妹で顔立ちは似ていたので、私の容姿は高評価だったようです。


 研鑽の日々を送っていたある日。懐かしい人と再会しました。


『あれ、桃楓ちゃん?』

『蓮司兄さん?』


 私にとってもう一人の兄であり、翔太兄さんの親友でもある人です。小さい頃によく遊んでもらっていました。


 ただ、中学時代はそれほど話をしませんでした。


 私は自分のことで精一杯だったし、蓮司兄さんも生徒会長として働いていたので喋る機会がありませんでした。


 それに、蓮司兄さんは非常にモテたので周囲を常に女子が囲んでいました。下手に近づくと彼女達を敵に回すので距離を置いていました。


 天華院学園で男神として活躍しているのは知っていましたが、相変わらず女性人気が高いので近づきませんでした。昔のように接するのも危険です。女神を目指す上でスキャンダルは一番避けたかったので。


 久しぶりに話をすると、蓮司兄さんも事情を知っていました。そして、何もできなかったことを激しく後悔していました。


 互いの状況を確認し、私達は手を組みました。


 目的は現女神達を失脚させること。そして、いずれ戻ってくる翔太兄さんを万全の状態で迎えること。


 私は女神を目指すので、表向きは他人のフリをしながら誰もいない場所で作戦会議をしました。


 着々と準備を進める中、あの悪魔共はそれぞれ日々を過ごしていました。


 黒峰先輩に恋人ができたという噂が流れたり、お姉ちゃんが夏祭りで妙にテンションが上がっていたり、そういうのは全部気にも留めませんでした。馬鹿共が浮かれて騒いでいると軽蔑の視線を送っておきました。

  

 努力の甲斐もあってか、周囲に認められてきた私は女神候補と呼ばれるようになりました。体育祭でも桃組の代表に選ばれ、それなりに活躍できたと思います。


 事態が変化したのは体育祭直後でした。


 体育祭で大活躍し、女神の本命と囁かれていた海未さんがコンテストを辞退したのです。最大のライバルが突然の辞退に驚きました。


 すると今度は黒峰先輩がコンテストを辞退しました。そして――


「ホント、あの時はビックリしましたね」


 蓮司兄さんもコンテストを辞退しました。あの時は意味不明でした。今なら理由がわかるけど、当時の私は突然のことに酷く動揺しました。


 そしてあの日、運命の日が訪れます。


 私は翔太兄さんと再会を果たしたのです。


 あの日、お姉ちゃんの様子は朝からおかしかった。家でも『ようやく翔ちゃんに会える』などと言って浮かれていました。さすがにその名前を出されたら反応しないわけにはいかず、本人から事情を聞くことにしました。


 私の話を無視して駆け出したので後ろを追いかけていくと、そこには何と翔太兄さんがいました。


 突然すぎる事態に混乱しながらも、翔太兄さんを連れ出すことに成功しました。


 身長だったり、雰囲気があの頃と少しだけ変わっていましたが、基本的には小学生の頃のままでした。ですが、昔と比べて一つ大きな変化がありました。


 ……お姉ちゃんのことが好きじゃない――


 あんな出来事があったのだから頭の中ではわかっていたのですが、実際に翔太兄さんと会話をしていたらはっきりとそれがわかりました。お姉ちゃんを「夕陽」ではなく「赤澤」と苗字で呼んだからです。それ以外にも、天塚先輩とバチバチ火花を散らしている時もお姉ちゃんを敵視していました。


 それに気づいた時、胸の奥底に封印した感情がこみ上げてきました。


 諦めたつもりだった初恋。でも、諦めきれなかった初恋。


 私はこの状況をチャンスと考え、自分の素直な気持ちを伝えました。幼い頃の感謝と、内に秘めた恋心を。


「少し軽率だったけど、勇気を出して正解だった!」


 写真を握りながら、私は自分の言葉に頷きます。


 再会後、翔太兄さんから現在の状況を聞きました。あの悪魔共から事情を聞き、謝罪されたので許したそうです。本人が許したのであれば、と私の中にあった復讐の炎も鎮火しました。


 正直、かなり甘い対応だとは思います。しかし翔太兄さんらしいです。


 本人の意思を無視して私が何かすると嫌われてしまうので何もしないことにしました。ただ、翔太兄さんに恋愛感情を持っている人は別です。


 白瀬先輩はとても好意的に翔太兄さんを見ていました。黒峰先輩も翔太兄さんを見る目が少しばかり乙女でした。確証はないけど、半信半疑でした。天塚先輩は微妙でしたが、弟と男の中間といった感じで見ていましたね。正直、天塚先輩は翔太兄さんの恩人なので私としては争いたくない相手です。


 でも、今はもう心配していません。


 私は今日の昼間の出来事を思い出します。


『返事がぎりぎりなって悪かった。えっと、まずは告白してくれてありがとな。あれから真剣に考えて、答えが出たよ。俺も桃楓を好ましく思ってる。妹みたいって思ってたけど、今は違う。だからその、俺と付き合ってほしい!』


 思い出して頬が緩む。


 コンコン――


 その時、部屋のドアがノックされました。 


「……ねえ、桃」


 相手はお姉ちゃんでした。


「なに?」


 扉越しの会話。


 翔太兄さんと一緒にお姉ちゃんにトドメを刺したあの日から、姉妹の溝は深まった気がします。私達の間に会話はなく、お姉ちゃんはこのところずっと元気がありませんでした。


「天華コンテスト、辞退したんだって?」

「うん。私には彼氏がいるから」

「私……諦めないから。必ず翔ちゃんを絶対に取り戻してみせるから!」


 何を言い出すのかと思ったら。

 

 あの時は嘘だったけど、今は本当に恋人同士になった。絶対に成就しないはずだった初恋が実った。


 ――あれ、お姉ちゃんが私に嫉妬してる?


 それに気付いた時、ゾクッとした。


 憧れのお姉ちゃんが私を見て嫉妬の炎を燃やしている。


 昂る感情のまま何か言ってやろうかと思った時、脳裏に浮かび上がったのは翔太兄さんの写真に向かって謝罪するお姉ちゃんの姿でした。


 ……ダメ、ここで調子に乗っちゃいけない。


 お姉ちゃんは両思いだったけど、馬鹿をやったせいですべてを失った。二度と戻らないほどの過ちを犯した。お姉ちゃんと同じになっちゃいけない。


「無駄だよ。翔太兄さんは私と幸せになるんだから」

「まだ諦めないから。私は絶対女神になる。そして、改めて翔ちゃんに改めてアタックするんだから!」

「……」


 捨て台詞を吐くと、お姉ちゃんは自分の部屋に戻っていきました。


「残念だけど、譲る気はないから」


 私は手に持った写真を――彼氏とのツーショット写真をボードの中央に飾った。さっき一緒に撮影して、帰りにコンビニでプリントしたもの。


 人生は理不尽の連続かもしれない。


 体が弱くて、大好きな人が姉に夢中で全然こっちを見てくれなくて、しかも自分の知らない間に転校しちゃって――


 でも、最低なだけではない。人生には何が起こるかわからないし、時に信じられない大逆転が起こる。私はそれを知った。私はこの幸せを手放さない。


「おやすみなさい」


 写真に向けてそう言うと、ベッドの上を転がった。幸せな気持ちで目を瞑ると、あっという間に眠りに落ちた。

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