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4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第4章 4色の女神達

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第23話 赤い真相

「話をする前に、言わなきゃいけないことがあるの」

 

 赤澤は真っすぐに俺を見つめる。


 幼い頃から知っているが、初めて見る表情だった。思いつめたような、覚悟を決めたような、そういう印象を受ける。


 これは相当重要なことを言うつもりだろう。どんな爆弾が投下されてもメンタルが揺らがないように身構える。


「私ね、昔から翔ちゃんが好きだったの!」

「……は?」


 飛び出したのはまさかの発言だった。


「ただ好きなわけじゃないからね。大好きなんだよ!」

「……」


 いや、何の話だよ。


 身構えたところに想定外の言葉をぶつけられて拍子抜けしたが、わざわざこんな発言をしたってことは今後これに繋がる話があるのだろう。


「子供の頃、私が髪の色で悩んでたのは覚えてるよね?」

「お、おう」


 赤澤は自分の髪を嫌っていた。


 赤い髪のせいで苦労したのはよく知っている。髪の色についてあちこちから聞かれた。子供というのは残酷で、思った疑問を迷わず口に出すのだ。


 大人しい性格だった赤澤は「どうして髪が赤いの?」と聞かれる度に傷ついていた。聞いてきた連中に悪意はなかったが、普通の人と違っているからおかしいと言われている気がしていたのだ。


 ……そういえば、いつも俺が庇っていたな。


 クラスメイトに説明したり、先生に説明していた。あの頃の俺にとってその行動は当たり前だった。俺が助けなくちゃいけないという使命感みたいなものがあった。


「私が泣いてると翔ちゃんは必ず駆けつけてくれた。ぎゅっと抱きしめて優しい言葉をかけてくれた。私にとって翔ちゃんは必ず駆けつけてくれる正義の味方で、白馬に乗った王子様だったの」


 赤澤はうっとりした表情になった。


 唐突な発言とうっとりした表情にビックリしたが、内容に関する驚きはなかったりする。


 子供の頃のこいつは俺にべったりだった。 


 いつもちょこちょこ後ろを付いてきていたし、遊ぶのもいつも一緒だった。だからまあ、昔好きだったと言われて驚愕の真実とかって感じはない。むしろあれで嫌いだったと打ち明けられるほうがショックだ。


 その甘酸っぱい思い出が下地にあったからこそ、中学時代の態度でダメージが大きくなったのだから。


 俺が聞きたいのはその後だ。


「当時の翔ちゃんは凄いモテモテだった。当たり前だよね。誰よりも格好よかったし、運動神経も抜群だった。あれでモテないはずないもんね」

「……」


 近くに蓮司という主人公がいたから実感はないぞ。

 

「それに比べて私は全然だった。いつもうじうじして、社交性もなくて、翔ちゃんと全然釣り合わない子だった。だから告白できなかった」


 今では考えられないが、昔の赤澤は暗かった。


 それがいつの間にか明るくなり、あっという間に俺の手が届かないほど人気者になっていた。


「私が変わるきっかけも翔ちゃんだったんだよ」

「俺が?」

「ほら、翔ちゃんがアイドルになれって言ってくれたでしょ。あのアドバイスのおかげで変わることができたんだよ。おかげでちょっとずつ明るくなれて、毎日が楽しくなった。自分に自信が持てるようになった」

「……」

「楽しかったよね、あの頃は」


 確かにあの頃は毎日が楽しかったな。


 蓮司がいて、赤澤がいて、青山がいて、毎日がキラキラ輝いていた。友達や幼馴染達と過ごす日々を宝物のように感じていた。


「……でも、私はその幸せを手放しちゃった」


 突如、赤澤はこの世の終わりみたいな表情になった。


「ずっと後悔の連続だった。翔ちゃんがいなくなったのが悲しくて、自分の馬鹿さ加減に憤って、それから家族に呆れられて、桃には本気で怒られて、友里恵さんに必死に謝って、高校生活も全然楽しくなくて――」


 赤澤はこの世の終わりみたいな顔でぶつぶつ言葉を並べる。

 

「おい、落ち着けっ!」


 震えている赤澤の腕を掴む。


「っ、ゴメンなさい。つい中学時代の馬鹿な自分を思い出しちゃって」

「俺が聞きたいのはまさにその中学時代だ。そろそろ聞かせてくれ」

「う、うん……そうだよね」


 赤澤は震えを止めた俺の腕をぎゅっと掴むと、落ち着きを取り戻すように深呼吸をした。ようやく落ち着いたらしい。


 腕を掴まれたままなのは気になるが、また暴走しても困るしこのままでいいだろう。


「えっと、まずはどこから話そうかな」

「その前に一つ俺も言っておきたい。中学時代に流れていた俺に関する噂についてだ」

「あの、それは――」


 噂のことを口に出すと赤澤は露骨に動揺した。その動揺がどういう意味合いなのかすぐにわかった。


「言わなくてもいいぞ。全部知ってるからな」

「どういうこと?」

「猫田から聞いたんだ。自分が犯人だと謝ってきた」


 猫田が俺の正体を知っていたのが予想外だったのか、赤澤は固まった。


「昨日の放課後だ。猫田は俺の正体にちっとも気付いてなかったよ。本当は話すつもりなんてなかったけど、蓮司と話してるところを見られちまったな。そこで猫田から謝られた。あの噂を流したのは自分だって」


 予想外の犯人ではあった。


 ずっと味方だと思っていた猫田が犯人と聞いて少なからずショックはあった。


「……そっか。聞いちゃったんだ」

「話を聞いて少しおまえを見直したよ。蓮司も知らなかったみたいだからな。ケンカはしても、噂を流した犯人が猫田だとは言い触らさなかったんだろ」

「葉月ちゃんは親友だから。それに、元凶は私だから」


 赤澤は猫田とケンカになったが、誰が噂を流したのかは公言しなかった。親友を売らなかったわけだ。そこは素直に評価したい。それをしていたら完全に軽蔑していたけど。


 でも――


「猫田は許したよ。そりゃ猫田にも悪いところはあった。親友のためとはいえ、勝手に人の悪い噂を流したわけだからな。でも、中学時代のあの態度を間近で見たら勘違いしても仕方ないと思う」

「……」

「昔、俺を好きだったという話は理解した。だったら、余計に教えてほしい。中学時代あそこまで俺を嫌っていた理由は何だ。どうして嫌いになったんだ?」

「翔ちゃんを嫌いになったことなんて一度もない!」


 その発言に俺は目を瞬く。


「好きだった、じゃないの。今も好きなの!」

「え、いや」

「ずっと好きだった。中学の時もだよ」

「……マジか?」


 当時を思い出す。

 

 登校時に必ずといっていいほど馬鹿にされた。蓮司と比較されたり、他の男子と比較されたり、それはもう酷かった。


 あれでどれだけ劣等感を植え付けられたか。あの態度で好きだったってのはさすがに無理があるだろ。


「嘘吐くなよ」

「ホントだもん」

「じゃあ、あの態度は何だったんだ?」

「あれはその……ゴメンなさい」


 赤澤は頭を下げるが、謝罪とか今はいい。


「謝るくらいなら理由を教えてくれ。話してくれるんだろ」

「……」

「もしかして、誰かに脅されたとか?」


 以前の俺なら考えもしなかった可能性だが、ここに至るまでに白瀬や青山、そして黒峰と仲直りして彼女達の話を聞いた。


 白瀬に関しては擁護するところはないのだが、そもそも俺との接点が薄かったのでそれほど大きなダメージではなかった。


 青山が俺を階段から突き落としのは故意ではなかった。体調不良で意識が朦朧としており、事故みたいなものだった。青山はディスボでずっと謝っていた。


 黒峰の場合は彼女自身も被害者みたいなものだった。自分でも知らないところで勝手に話が出来上がっていたわけだからな。


 もしかしたら赤澤も誤解だったり、当時は口に出せなかった裏事情ってのがあるのかもしれない。例えば俺を嫌っていた誰かに脅されて、無理やりあの態度を取らされていたとか。


 知りたい。幼馴染であり、初恋を捧げた相手同士である赤澤夕陽が抱えていた事情を。ずっと俺を好きだったという今の話を聞き、余計に知りたくなった。


「……脅されてたとかじゃないよ」

「えっ?」

「けど、そうだよね。全部話して謝るって決めたんだもん。ずっと言うつもりだったけど、いざ本人を前にしてビビってたみたい」


 つぶやいた赤澤は覚悟を決めたように俺を見つめる。その強い瞳を見て、やはり何か隠された重大が理由があるのだろうと悟った。


 もし、あの態度の裏に何かが隠されているのなら――


「あれは私の癖なの」

「……?」

「性癖なの」

「性癖? おい、一体何のことだ?」


 赤澤は小さく息を吸った。


「誰よりも素敵で、誰よりも格好いい翔ちゃんは憧れの王子様だった。そんな王子様である翔ちゃんは私が蓮司君や他の男子を褒めると嫉妬してくれた。嫉妬で狂う姿が可愛くて、嫉妬されるとたまらなく気持ち良くなることに気付いた! わかってても全然止められなかった。翔ちゃんが嫉妬しながら私を見てくるのが最高に気持ち良かったの!」

「……」


 ギルティです。

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