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4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第4章 4色の女神達

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第22話 赤い訪問

 迎えた土曜日。


 午前中はバイトで、午後から赤澤と話し合いをする予定になっている。


 バイト中、集中力を欠いてつまらないミスを連発してしまった。集中できなかった理由はあえて言うまでもないだろう。自分の中であいつがどれだけ大きい存在なのか改めて理解した。


「……お疲れ様です」

「黒峰か。お疲れ様」


 遠慮がちに声を掛けてきた地味な黒髪の少女――黒峰月夜にそう答える。


 相変わらずバイト中は学校と別人だ。


 同じバイト先で半年近くも一緒に働いているのでさすがに慣れたが、学園の生徒が見たら誰かわからないだろうな。


「らしくないミスが多かったですね。どうかしました?」

「……これから赤澤と話をするんだ。それでちょっとな」

「えっ」


 信じられないとばかりに黒峰が目を見張る。数秒ほどその表情で固まった後、不意に視線が鋭くなった。


「揉め事なら力貸すけど?」


 頭の中でスイッチが切り替わったのか、口調まで変わった。


 揉め事に力を貸すって……何か物騒だな。


 過去のアレコレを聞いてから冗談だと思えなくなった。どうでもいいが、指をぽきぽき鳴らさないでくれ。地味子状態でそれをやられると違和感が凄い。


「大丈夫だ。そういう感じにはならないと思う」

「不安が残る言い方だね」

「……」

「話をすることになった経緯、聞いてもいい?」

「ああ、俺も誰かに話したかったところだ」


 黒峰には話しても大丈夫だろう。

 

 こうなってしまった経緯を説明した。俺と赤澤の関係を知っている黒峰は何とも言えない表情で話を聞いていた。


「それ、ホントに一人で会って大丈夫なの?」

「多分な」


 断言はできない。


「正直、あの人に関しては昔から全然わからなかった。同じ学校だったけど、住む世界が違ったし。けど――」

「けど?」

「間違いなく一番ケンカ腰だった。わたしたちの過去の行いを知った時、女神全員を親の仇みたいな目で見てたから」


 どうしてあいつが一番ケンカ腰なのか。


 しかし、黒峰からしても赤澤夕陽という女は謎の塊だったらしい。俺も同じ気持ちで、あいつに関しては今でも謎が多く残っている。


 中学時代、あいつは親友である蓮司に好意を抱いていると思った。けど、実際には全然興味がなかったのかもしれない。それに、俺を嫌っていたはずなのに猫田の話では必死で株を上げたらしい。


 おまけに再会した直後の反応だ。あれではまるで親しい幼馴染に接するようではないか。


 ホントにもう何が何だかちっともわからない。だったら中学時代の態度は何だったのか問いたい。


 小学生の頃は素直で可愛い少女だったのに、いつの間にか全然わからなくなった。一番近くにいたのに、今では一番わからない存在だ。


「一人で行くのは危険だと思う」

「だろうな」

「なら――」

「それでも一人で行く。あいつも二人で話したいって言ってたし、そうじゃないと本音で話してくれないかもしれない。心配してくれるのはありがたいが、赤澤家には桃楓がいるからな。完全に敵地ってわけでもないさ」

 

 俺の意志が固いと悟ったのか、黒峰は諦めた様子だ。


「わかった。でも、困ったら呼んでね。力になるから」

「ありがとな。黒峰にそう言ってもらえると心強いよ」


 それから少しお喋りして帰宅した。


 黒峰と話したおかげで精神的にかなり落ち着いた。力になってくれるという言葉に勇気づけられた。



 午後。


 俺はある家の前に立っていた。こっちに戻ってきてから何度か近くまで来たことはあったけど、訪問するのは今回が初めてだ。この家の前を通るのを意図的に避けていた。


 ――赤澤家。


 小学生時代、最も訪れた場所である。学校よりも高い頻繁で来ていたその場所は、駐車場にある車以外に大きな変化はなかった。


 心臓が強く鳴っているのはここが俺にとって特別な場所だからだろう。


 いよいよだ。


 深呼吸してから、震える指でインターホンを鳴らす。直後、騒がしい足音が聞こえると思ったら勢いよく玄関が開いた。


「いらっしゃい。翔ちゃん!」


 赤澤夕陽が出てきた。


 俺は驚いた。その理由はメイクをしているからでも、明らかに気合いが入っている私服姿だからでもない。満面の笑みだったからだ。


 こいつはどうして笑っているのだろうか。


 その笑顔に感じたのは可愛さではなく、不気味さだった。しかしここで臆するわけにはいかない。


「待ってたんだ。さあ、中に入って」

「お、おう」


 促されて家の中に足を踏み入れる。


 中学生になる頃には家の中に入らなくなったので、大体五年ぶりくらいだろうか。こちらも外観と同じで大きな変化はなかった。


 リビングに通された。


 ソファに腰掛けると、赤澤が隣に座った。配置的には仕方ないのだが、距離が近くて何となく嫌な感じがした。


「えっと、おじさんとおばさんは?」

「出かけてるよ」

「久しぶりに挨拶したかったんだが」


 挨拶できないのは残念だが、話し合いをする以上はいないほうが都合がいい。それをわかっていたからこそ今日を指定したんだろうけど。


「桃楓は?」

「……部屋にいるよ」


 少し間があったのは今の関係を表しているのだろうな。


「ねえ、私の部屋に行かない?」

「ここでいい」


 こいつの部屋も懐かしい場所だ。


 久しぶりに見たい気持ちは少しくらいあるが、まだ何も判明していないうちに相手の懐に飛び込む勇気はさすがにない。


 赤澤は一瞬だけ不満そうな表情を浮かべたが、すぐ元に戻った。


「あっ、そうだ。まずはあの時のことを謝るね」

「あの時?」

「ほら、天塚先輩との一件。翔ちゃんと再会出来たことが嬉しかったり、天塚先輩との関係で驚いちゃったり、いろいろあって暴走気味だったから」

「気にしなくていいぞ。黄華姉さんも気にしていないって言ってたし」


 実際には気にしまくってコンテストで本気出して女神になるとか言い始めたけど、ここで余計なことを言って話を膨らませる気はない。


 俺は覚悟を決め、口を開く。

 

「まず、はっきりさせたいことがある」

「う、うん」

「俺の正体に気付いてるのは聞いた。いつ気付いたんだ?」

「……最初から」


 俺の姿を見た時にすぐ気付いたわけか。


 まっ、そうだよな。


 青山もそうだったし、幼馴染である赤澤が気付かないはずないか。まったく、転校してきた当初の俺は本気で誤魔化せると思っていたのだから恐るべきピエロ野郎だぜ。


「俺の姿を見て気付いたわけか。そりゃそうだよな」

「最初からっていうのはそういう意味じゃないよ」

「どういうことだ?」

「翔ちゃんがこっちに転校してくるのは前から知ってたから」

「えっ?」


 黒峰だけでなく、赤澤も知っていただと?


 どういうことだ。俺がこっちに来ると知っていたのは家族だけだ。


 我が義妹である紫音は敬愛する黒峰に情報を教えていたが、あれは仕方ないことだった。俺と黒峰の関係を知らなかった上に、紫音は黒峰を姉と慕っていた。新しく兄ができるという不安から話しただけだ。


 だが、その時点で赤澤との関係はなかったはずだ。


「誰から聞いたんだ?」

「友里恵さん」

「っ、母さんに!?」


 どういうことだよ。


「翔ちゃんが転校してくる少し前に偶然出会ったんだ」

「……そうだったのか」

「ホントはすぐにでも打ち明けたかった。翔ちゃんにずっと謝りたかったから」


 そういえば、謝りたいけど事情があったとか言っていたな。その話をしている途中で黄華姉さんと揉めたんだっけ。


「事情があると言っていたな?」

「うん。友里恵さんに禁止されてたんだ」

「禁止されてた?」

「転校直後に私が接触すると、翔ちゃんが嫌になっちゃうからって。だから気付かないフリをしてほしいって頼まれたの」

「っ」


 母さんは天華院に赤澤がいると知っていた。そして、赤澤には俺に気付かない演技をしてくれと言ったのか。


 その事実を知り、複雑な気持ちになった。


 知っていたなら前もって言ってくれよと怒りたい気持ちになったが、もし最初から赤澤が通っていると知ったら別の高校にしたかもしれない。それだと蓮司や桃楓と再会できなかった可能性が高い。


 それに、初日から赤澤が俺を知っている感じで声を掛けてきたらどうなっていただろう。最悪、ショックすぎて不登校になったかもしれない。 


「……その話を俺に出来るようになったってことは」

「許してもらったんだ。翔ちゃんは精神的にも安定してきたし、蓮司君との関係も取り戻したから大丈夫だって説得して」


 当然、俺と蓮司のことに赤澤も気付いたわけか。

 

 いきなり大量の情報が出てきて混乱しかけたが、ここで動揺するわけにはいかない。


 ただ、はっきりしたことがある。赤澤が俺に謝ろうとしていた。そして、母さんとの約束を破るようなマネはしなかった。


 そこは評価したい。


「なあ、おまえの真意を教えてくれ。正直、俺にはおまえが何を考えているのかさっぱりわからない。だから、今までのことや思っていることを全部聞かせてくれ。話してくれるんだろ?」

「うん。長くなるけど、聞いてくれるかな」


 聞かないわけにはいかない。それが聞きたかったのだから。


 あの当時、俺の悪い噂を流したのは赤澤だと思っていた。しかし猫田との会話で違うことがわかった。


 しかしだ。噂が流れても仕方ないと思えるような空気を作ったのは他の誰でもない、こいつ自身だ。あの態度なら勘違いしても仕方ない。


「ああ、是非とも聞かせてくれ」

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