表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4色の女神達~俺を壊した悪魔共と何故か始まるラブコメディ~  作者: かわいさん
第4章 4色の女神達

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/128

第15話 白い敗北

「翔太兄さんがお世話になっています」


 ……唐突に何を言い出したんだよ。


 笑顔で口にした桃楓だったが、その目は全然笑っていなかった。むしろ冷たいくらいで、白瀬を睨みつけているような印象さえ受けた。


 ハッとして振り返った。


 離れた場所で紫音と八雲君が楽しそうにお喋りしている。正確にはちょっと違うな。紫音は笑顔で話しかけているが、八雲君はどぎまぎしながら答えている。


 ひとまず安堵した。今の発言は聞いていないようだ。


「お、お世話になっているのは、わたくしのほうですわ」

「……」


 突然の出来事に動揺した白瀬だったが、すぐに立ち直った。しかし完全ではなかったようで声が上擦っている。


 その後、白瀬と桃楓が無言で視線をぶつけ合う。


 この行動の意味はわからないが、どことなく剣呑な雰囲気だ。どうでもいいが、俺を挟んで争うようなマネは勘弁してくれよ。


「――あれ、どうかしたの?」


 徐々に張りつめていく空気を弛緩させたのは、いつの間にか近づいてきた紫音だった。


 ……ここで紫音が入ってきたら話がややこしくなるな。


 過去のあれこれを知られたくないので、桃楓との関係を言うわけにはいかない。だから先ほどの「翔太兄さん」という明らかに俺と面識がある言葉を聞かせたくなかった。


 さて、どうする?


 考えていると、桃楓は立ち上がった。


「ゴメンね、虹谷さん。白瀬先輩とお喋りできるチャンスだから、ついテンションが上がっちゃって」

「気持ちわかるよ。女神様とお喋りできるチャンスなんて滅多にないもんね」

「うん。初めて白瀬先輩と会ったんだ」

「女神様を前にすると不思議な気持ちになるよね。有名人に会っちゃったみたいな感じがしてさ。紫音もそうだったな」


 こくりと紫音が頷く。


 学園における女神は憧れの的だ。偶然出会って、話が出来るならしたいと思うのが普通の生徒である。


「折角のチャンスだし、白瀬先輩とゆっくり話したらどうかな」

「えっ、いいの?」

「紫音とは同じ学年だからいつでもお喋りできるでしょ?」

「……ゴメンね。私から誘ったのに」

「いいのいいの。その代わり、赤澤先輩と仲良くできるチャンスがあったら協力してね。赤澤先輩ってホントに学園のアイドルだから、いつも多くの人に囲まれてるんだよね。紫音的にはもっと仲良くなりたいんだ」

「う、うん……協力するよ」


 桃楓の表情は完全に引きつっていたが、あえて何も言わない。


 それから紫音は俺に視線を向けた。


「お兄ちゃんはどうするの?」

「こっちに残る」

「えっ……邪魔にならない?」


 白瀬と桃楓を二人きりにするのは危険だと思った。


「だ、大丈夫ですわ。翔太さんも是非!」


 白瀬がアシストしてくれた。予想になるが、白瀬としても二人きりはまずいと思ったのかもしれない。


「というわけだ、そっちは八雲君と楽しくお喋りしててくれよ」

「……そういうことなら、わかった」

 

 チラッと八雲君のほうを見ると、嬉しそうな顔で会釈してくれた。どうやら俺が二人きりになる場を作るためのサポートしたと思っているらしい。


 完全なる勘違いだが、評価が上がったのならいい。あえて訂正するのもアレなので、ここは素直に受け取っておくとしよう。


 二人は少し離れたところで話を始めた。

 

「……」

「……」


 和気藹々と楽しそうな向こうに比べて、こっちには相変わらず重苦しい空気が漂っていた。


 桃楓は冷たい視線を白瀬に向けている。先ほどの言葉が嘘だったのは丸わかりで、敬意とかそういうのは微塵も感じなかった。


 ……そういえば、白瀬は桃楓のことを少しだけ知ってるんだよな。


 以前、蓮司と話し合いをした際に同席していた。その時に少しだけ説明したというか、聞いていたはずだ。恐らくそれ以上の情報はないだろう。あの時は桃楓の存在すら知らなかったほどだし。


 白瀬の表情が強張っている理由はわかる。


 あの話し合いで桃楓の目的が「現女神を蹴落として女神になること」だと聞いているからだ。少なくとも女神を嫌っているのは確実だ。


「翔太兄さん。白瀬先輩と話をしていいですか?」

「おう。じゃあ、俺はここで静かにしてるよ」

「ありがとうございます」


 俺は地蔵になった。


 程なくして再び無言の時間になったが、静寂に耐えられなくなったのか白瀬が口を開いた。


「そ、そういえば、翔太さんのことをお兄さんと呼ぶんですね」

「……はい」

「お二人の関係を伺っても?」

「幼馴染です」

「赤澤さんの妹さんならば、確かにそうなりますね」


 白瀬は知っていることをわざわざ聞いた。


 恐らく、これを取っ掛かりにして会話のキャッチボールを始めようという魂胆だろうな。状況がわからない以上、これは上策だと思う。


 しかし、桃楓にはキャッチボールをする気がなかった。

 

「あまり時間がないので本題に入らせていただきます」

「本題ですか?」

「白瀬先輩に聞きたいことがあったんです」

「……何でしょうか」

「白瀬先輩は翔太兄さんのことをどう思っていますか?」

「えっ――」


 おいおい。


 本人がここにいるのにその質問はまずいだろ。


「と、とても素晴らしい方だと思いますわ!」


 答えを聞いた直後だった。桃楓の視線が鋭くなった。


「当然です。翔太兄さんは昔から素晴らしい人です。誰よりも優しくて、顔はイケメンだし、運動神経抜群で、困ったら必ず駆けつけてくれる王子様ですから。素晴らしいのは当然です。今さら言わなくてもわかりきっています」


 王子様って誰のことだよ。


「わ、わたくしもそう思いますわ」

「……へえ。じゃあ、白瀬先輩はそんな素晴らしい人を傷つけたんですね」

「っ!」

「先輩が翔太兄さんにした仕打ちは全部知っています。その後、謝罪して仲直りしたことも伺いました」


 そこまで言うと、桃楓は首を振った。


「正直、これに関しては思うところがあります。だけど、飲み込みます。翔太兄さんの決めたことですから。ただ――」


 ぐっと言葉を溜めた。


「個人的な考えになりますが、そこが限界だと思うんですよね。友達として付き合うのはいいと思いますが、それ以上の関係はさすがにありえないかなと」


 桃楓はジッと白瀬を見つめながら続ける。

 

「転校に追い込むようなマネをしておいて、特別な関係を望むとかありえないですよね。それは恥知らずというか、あまりにも厚顔無恥というか。もし、私がその立場だったら特別な感情は抱かないですね。というか、抱けないですね」

「……」

「まあ、女神と呼ばれる方の中にはそういった恥知らずな考えの人がいるとは到底思えませんけど。なにせ、学園が誇る女神様ですから」


 ニコニニしながら言葉を紡いだが、言葉には随分と多くの棘があった気がする。 


 白瀬の顔には困惑と、それ以外にも様々な感情が浮かび上がっているように見えた。


「ず、随分と強く言うんですね」

「それはそうですよ。大好きな人が優しすぎるので」

「……その言い方だと、翔太さんに想いを告げているみたいですわよ?」

「私の気持ちは既に伝えていますから」

「えっ!?」


 白瀬がこっちを見た。小さく頷いて答える。


「こ、告白をしたんですか?」

「しましたよ」

「あの、結果は?」

「前向きに考えてくれるそうです。とても前向きに」


 若干の捏造があったけど、ここは黙っておく。


「というか、いつ告白したんですか。わたくしはあなたと翔太さんが接点を持ったと聞いていなかったのですが。少なくとも、わたくしが知っている時点では告白をするような関係ではなかったかと」


 俺と桃楓が再会したことを知らない。あの時の話では桃楓には言わないって結論になっていたしな。


「昨日です。再会したその日ですね」

「そ、その日に告白――」


 白瀬は明らかに動揺しまくっていた。


「何か問題でも?」

「いえ、その……早くないでしょうか」


 桃楓は鼻で笑った。


「失礼ですが、白瀬先輩は本気の恋をしたことがないんですね」

「っ」

「昔の話になります。私、子供の頃は病弱だったんです。体が元気になった時、大好きな翔太兄さんは転校した後でした。あの時に理解しました。大切な人に想いを告げるタイミングを逃したらダメだと。だから、次にそのチャンスが来たら絶対に伝えようと心に決めました。そして、チャンスは訪れました。迷いませんでしたよ」


 言い切った桃楓が俺に笑みを向ける。


 照れ臭かったので視線を反らした。


「確かに告白するのは早かったです。でも、誰にも盗られたくなかったんです。本当に相手のことが好きなら当然あるものだと思いますよ、独占欲は」

「……」


 白瀬は何も言えず完全に押し黙った。


「あっ、もうすぐ昼休みが終わりますね」


 時計を見ると、いつの間にか昼休みが終わろうとしていた。気付かなかったが、結構な時間が経過していたようだ。


「突然のことなのに、話をしてくれてありがとうございます。白瀬先輩」

「え、ええ」

「翔太兄さんも、またゆっくり話しましょうね」


 俺にそう言ってから桃楓が去っていく。去り際の表情はとても明るく、一仕事終えた後みたいに見えた。


 逆に残された白瀬の表情は暗く、試合に負けたみたい選手みたいになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ