エルトラント奪回作戦 ⑦
お詫び。今回は「石狩」出せませんでした。楽しみにしていた方ごめんなさい。次は必ず出すので。
「用意・・・て!」
賢人は眼前に迫った駆逐艦に向けて、爆弾の投下レバーを引いて爆弾を放つ。主翼下に積んできた2発の250kg爆弾が機体から離れて敵艦目掛けて落ちていく。
機体強度の関係で急降下爆撃は無理なので、緩降下爆撃である。
緩い角度で空中を飛んでいく爆弾。敵艦にそのまま直撃するのではと賢人は期待したが。
「ダメか!?」
敵艦を挟み込むように2本の水柱が立つ。直撃はしていない。残念ながら至近弾だ。以前のような幸運は、さすがに今回は起きなかった。
「仕方がない。銃撃するか・・・・・・にしても、敵もちゃんと学んでるんだな」
海上では敵の艦艇が高速で急機動を行い、その証しがまるで筆を激しく引き回したような航跡となって現れている。以前にはなかった航空機に対する激しい回避運動だ。
さらに、撃ちあげられる対空砲火の量もこれまでに比べると増えている。明らかに対空火器を強化している。
このためか、不慣れな爆撃を行っていることも相まって、中々こちらの爆撃は命中弾を出すことができない。戦闘機は言わずもがなで、本職の艦爆も数が5機と少ないうえに、敵の高速に惑わされたのかようやく巡洋艦に命中弾を1発出したにすぎない。
敵艦隊は巡洋艦1隻に多少の被害が出ているが、とても戦闘力を奪ったとは言い難い。60機近い航空機を出撃させたのに比べて、明らかに小さな戦果である。
「おい賢人」
無線機に武の声が飛び込んでくる。操縦席から外を見れば、左横に彼の乗り込んだ「疾風」が並ぶ。
「どうだ?当たったか?」
「ダメだ。至近弾が精いっぱいだ。そっちもか?」
「ああ。前に比べて敵がちょこまかと動きやがる。素人には無理だ」
2人とも本職は戦闘機乗りである。爆撃訓練をやってないわけではないが、爆撃専門の艦爆や艦攻の搭乗員みたいにはいかない。
「だな。さすがにそう何回も上手くはいかないな。どうする?俺は銃撃をするつもりだけど?」
「もちろんやるさ。なんなら、俺が先に突っ込むから、援護してくれるか?」
「いいぜ!」
2人は機首を翻し、敵艦に向かって降下する。
「3時の駆逐艦をやるぞ!」
「おう!」
大きな損傷を与えた艦はなかったが、回避運動のために敵艦隊の陣形は大きく乱れていた。武はそのうち陣形から大きく外れた駆逐艦に狙いを定めた。
その駆逐艦に接近すると、対空砲火を放っているのが見える。機銃を増強したのか、その曳光弾による火線が何本も空に伸びている。
「対空火器は増やしたようだけど、狙いはまだお粗末なのは助かるぜ」
確かに対空火器による反撃自体は激しくなっている。しかしその狙いは不正確だった。おそらく射手がまだ日本機の速度についていけないか、射撃式装置の性能が悪いのだろう。
(まあ日本国もあんまり笑えないけどな)
賢人は自分たちが襲う側で良かったと、内心でつくづく思った。もしこれが立場が逆なら、日本の艦船が搭載する対空火器の能力が低いことは、前の世界の戦闘で嫌と言うほど立証されていたのだから。
敵艦はその下手くそな対空砲火を撃ちあげながら、高速で旋回している。40ノット(約74km)は出ているかもしれない。
「速いな!だが、飛行機から見れば!」
賢人の乗り込んでいる「疾風」の速度計は400kmを超えていた。海上を疾走する駆逐艦の5倍以上の速度である。逃すはずがなかった。
まず先行する武の「疾風」が発砲する。機首の12,7mm機銃、主翼の20mm機銃を同時発射する。
発砲していられる時間は極めて短い。高速で動いているということは、あっという間に敵に接近して追い越してしまうことを意味しているからだ。
もっと速度を落とすことは可能だが、そうすると逆に対空砲火に撃ち落とされるリスクが高まるので、この辺りは微妙なさじ加減が必要となる。
また海面上を低空飛行するので、海面への激突にも注意であるし、敵艦との衝突や、直接激突しなくてもマストやケーブルを引っかけるリスクもある。
ほんのわずかなミスが大事故、と言うより死を招く。
賢人の眼前に駆逐艦の艦影が一杯に広がる。
「て!」
彼もまた4挺の機銃を同時発射して機銃弾を叩きつける。
それもほんの数秒のこと。すぐに操縦桿を引いて機首を上げてわずかに機体を上昇させる。さらにスロットルを入れて加速する。
間髪入れず敵艦の艦上を通り過ぎる。敵艦の艦上で動き回る敵兵や、機銃の銃身までしっかりと見える距離だ。
敵艦を通り過ぎると、先ほどまでは自分に向かってきていた火線が、今度は逆に追ってくる。攻撃を終えたからと言って油断はできない。この瞬間に被弾する可能性だって充分ある。
賢人は低空を高速で飛んで敵弾を避ける。そして、充分に距離を離したところでようやく上昇させる。
「機銃弾だけじゃやっぱりダメか」
今銃撃を仕掛けた敵駆逐艦は相変わらず海上を疾走している。どれほどの損害を与えたのかは不明だが、致命的なものではなかったのは一目瞭然だ。
「爆弾があればな」
先ほどの爆撃を外してしまったのが悔やまれる。
今回2人が乗り込んだ「疾風」には、両翼に250kg爆弾を搭載できる。本来は増槽を吊るす位置で、燃料が必要であれば両翼とも増槽、片翼は増槽でもう片方には爆弾と言う搭載方法もある。しかし、今回は近距離攻撃であったため両翼ともに250kg爆弾を搭載していた。
250kg爆弾と言えば、艦爆に搭載するレベルの爆弾で、命中すれば駆逐艦くらいの小型艦なら大きな打撃を与えられる。零戦の主翼に搭載できる60kg爆弾に比べて、重量だけ見れば4倍も重いのだから。
せっかくそんな大型の爆弾を搭載してきたのに、賢人は外してしまった。爆撃に関しては素人とは言え、やはり歯ぎしりしたいほどに悔しかった。
「どうする?」
無線機から聞こえる武の問い。もちろん、その答えは決まっていた。
「決まってるだろ。最後の1発を撃ち終えるまで撃つに決まってるだろ!」
「よし!行くぞ!」
「ああ」
2人は機を旋回させて、再度突撃を行おうとする。
「そこ!俺たちが突撃する。ちょっと待て!」
唐突に、無線に聞き覚えのある声が割り込んできた。
「中野大尉!?」
上官にして今回攻撃隊の隊長となった中野の声だ。2人は敵艦への突撃を一端止めて、機体を旋回させた。
賢人が周囲を見回すと、確かに後方から超低空で敵艦に接近していく機影が二つ見えた。
「大尉の「隼」と零戦だ」
敵艦へ向けて突撃していく2機。1機は自分たちと同じく、他のパイロットに零戦を譲った中野に間違いない。そしてそれに付き従う「隼」とよく似たスタイルの戦闘機は、零戦だ。
中野が「隼」に乗っているのは、出撃時にチラッと見たので間違いなかったが、零戦は誰が乗っているのかわからなかった。出撃が慌ただしい中行われたので、編成は無茶苦茶だ。中野が一体誰と組んだのか、賢人にもわからなかった。
しかし、その零戦は中野の「隼」にしっかりと付き従っているから、かなり腕の良いパイロットが乗り込んでいると見えた。
とにかく慌てて爆弾を搭載し、上がれる機体から次々と上がった。この際、賢人と武は零戦ではなく陸軍の「疾風」に乗り込んだ。賢人たちは機種転換訓練を行って「疾風」に乗り込めたが、まだ行っていないパイロットは零戦にしか乗り込めない。2人は彼らに零戦を譲り、自分たちは「疾風」に乗り込んだ。
250kg爆弾を搭載した機体だったので、敵艦撃破も狙えると思っていたのだが、結果は先ほどのとおりだ。
そんな賢人たちを尻目に、その2機は先ほど賢人たちが狙った駆逐艦目がけて突っ込んでいく。
もちろん駆逐艦は回避運動を行いながら激しい対空砲火を放っている。その中を、2機は超低空で突っ込んでいく。
あっという間に、そのシルエットが敵艦と一瞬重なり、すぐに離れていく。それと敵艦に爆炎が上がったのは、ほんのコンマの差であった。
「すっげ!」
「当たった!」
それも1発ではないようだ。チカチカと閃光が数度見えたので、少なくとも2発は命中したようだ。
「さすが大尉。お見事です」
無線機で中野の見事な爆撃に賛辞の言葉を贈る賢人。
「おう。だが俺だけじゃないぞ。彼女も褒めてやれ」
(彼女?)
「もしかして、零戦に乗っているのはラシアか!?」
「セイカイ!ヤッタヨケント!」
無線から聞こえたのは、聞き覚えのある今一番苦手としている女性の声。
もっとも、賢人としては苦手としている彼女の声が聞こえたことよりも、自分たちが外した駆逐艦への爆撃で、彼女が命中弾を叩き出した方が驚きであった。
(なんて女だ!)
確かに腕はいいのはわかっていたが、ここまでやるとは想定外だった。
賢人は機上で半ば呆然としてしまった。
そんな彼に気づいたように、中野が怒声が飛ぶ。
「おい平田!帰るぞ。爆弾を積みなおしてまた出撃するぞ!」
「りょ、了解!」
我に返った賢人は、帰還するため上昇してきた中野たちに合流する。もちろん武も一緒だ。
「全機へ。爆撃終了後は無理せず帰還せよ。繰り返す!帰還せよ!」
隊長としての中野の命令が攻撃隊全機へ飛ぶ。
こうして、日本国航空隊による敵艦隊攻撃は終わった。攻撃を終えた各機は次々と翼を翻し、瑞穂島への帰還の途についた。
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