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エルトラント奪回作戦 ②

 更新が遅くなりまして申し訳ありません。パソコンの買い替えなどで時間を食いまして。本当にお待たせしました。今後とも少しでも楽しんでいただければ幸いです。


 加えて、この度ネット小説大賞の第一次選考を通過できましたのも、皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

「なんとか、無事に間に合わせることが出来そうだな」


「はい。沖縄と樺太からの避難民を受け入れた際にはどうなるかと思いましたが、これも関係者各位の努力の賜物です」


 瑞穂島の日本国軍司令部会議室。エルトラント奪回作戦に備えて行われている会議において、寺田司令官と大石参謀長が安堵の声を発する。


 大量の避難民受け入れによる混乱で、一時は実施が危ぶまれたエルトラント奪回作戦であったが、関係者の努力によってなんとか実施に目途がついたのであった。


「むしろ避難民の受け入れは兵達には好評ですよ。何せ今までほとんどいなかった純粋な民間人がドット流れ込みましたからね」


「外の空気に触れられることは、兵隊たちにとって癒しになるからな」


 警察機構の改正で、島内警察長官になった大畑真樹雄の言葉に、第二航空戦隊司令官の坂本も頷きながら言う。


「それだけではありません。これまでは手が回らなかった民需面にも手を回せるようになりました。老人や女子供ばかりですが、彼らとて全く使えないわけではありませんから」


 大石が続けて言う。これまでの瑞穂島でも、徴兵者を中心に商店を出したり、映画館を作ったりと、民需に関する活動は行われていた。しかしながら、やはり軍の指揮系統に組み込まれた人間、組み込まれていた顔なじみの人間がやる以上、どうしても規模は限られてくるし、これまでの軍内部の空気を引きずる。


 警察や役所などの一部の機関では、完全に軍籍から離脱させて業務を行わせたが、軍人の数も限られている以上、最低限度の数を超えることはなかった。そのため、瑞穂島の民需方面の活動はこれまで小規模にならざるをえなかった。


 ところが、今回の避難民の大量受け入れによって状況が多少変わった。確かに、兵士として適する人間はほとんどいなかったが、民需活動を行う上で様々な知識や技能を有している人間はそれなりにいた。高齢者とはいえ、やはりそれらは貴重なものである。もちろん、青年層ほどの働きは期待できないが、経験者がいるといないでは大きな差がある。


 そのため日本国上層部では、避難民の職業調査を行い、前職を勘案して様々な仕事に就けた。役所勤めや会社勤めの経験のある人間には役所の事務仕事に。大工や漁師だった者にはそのまま大工と漁師にといった具合である。


 こうした結果、瑞穂島にこれまでなかった娑婆、陸軍風に言えば地方、つまりは軍隊の外にある民間の世界が生まれ、その空気が醸成された。軍隊という厳しい生活空間の中にある将兵にとって、外の空間があることは肉体的にも精神的にも安らぎをもたらす。


「若い女性や子供が増えてくれたのもありがたいですよ。今後我が国が存続するうえで重要な鍵になります」


「大石参謀、確かに将来のこともいずれ考えねばならないことだが、今は目の前に迫ったエルトラント上陸作戦のことを考えよう」


「そうでした。司令官」


「で、準備は間に合うのだな?」


「はい、メカルクならびにフリーランドに派遣した艦船からは、準備完了の報告が来ています。瑞穂島に残留している艦艇もついても、多少の遅れが懸念されましたが、作戦開始期日までには出撃準備を完了できるとのことです」


「それは結構。今回は艦船のほとんどを投入するからね」


 今回日本国は保有する艦艇や船舶の多くを上陸部隊の輸送や護衛、上陸援護のために提供する。島内に残るのは基地航空隊と、敵味方の混同を避けるために編成から外された鹵獲駆逐艦の「快風」に二等駆逐艦の「海棠」、そして遠洋作戦に向かない小型艦艇くらいなものとなる。これは日本国がその保有戦力として、陸上兵力をほとんど出せないことへの代償であった。


「あとは敵の来襲がなければ良いのですが。島の防衛が潜水艦とわずか2隻の駆逐艦だけになるので」


 大畑は島の治安を預かる身として、この点を気にしていた。相手にもよるだろうが、万が一の敵の上陸を許すような事態になれば、わずかな島内警察と陸上兵力しか持たない瑞穂島を独力で守り切るのは、ほぼ不可能だ。パニックが起きるかもしれない。


 しかし、それに対して寺田が答える。


「島の防衛には基地航空隊も残るから、大丈夫だよ。それに万が一敵が上陸しても、定めた通りにすれば時間を稼げる。その間に我々が救援に駆け付ける」


 もとより戦時下にある瑞穂島では、避難民がくる以前から敵襲に備えている。さすがに要塞の建設などと言った大袈裟なことはできなかったが、空襲警報の発令や、敵が上陸した場合の退避方法などは定められている。

 

 もちろん、これらは今回やってきた避難民に徹底されているが、彼らはより戦況が悪化し、本土空襲が行われるようになった時期の日本から来ているので、こうしたことにはなれていた。むしろ、訓練以外にほとんど警報も出ない日常に拍子抜けしている感さえあった。


「何にしろ、今度の作戦で無事にエルトラントを解放することだ。そうすれば、瑞穂島への脅威は自然と取り除ける」


 寺田の言う通り、最寄りの敵といえるのはエルトラントに駐留するマシャナ軍である。つまり、エルトラントを解放しマシャナ軍を叩き出せば、近隣に敵はいなくなり、瑞穂島の安全は確保されるという寸法であった。


「とにかく、作戦発動の日まであと10日だ。各員油断することなく、作戦実施に万全を期すように」


 寺田の口からは、他に言うことは何もなかった。




 その日の夕方、寺田は大石参謀長と副司令の長谷川、そして新たに民政長官(市長)として急遽任命された加藤龍人とともに、通訳の川島少佐を挟んで二人の人物と会合を開いていた。


 相手のうちの一人は、すでに瑞穂島内では顔なじみになっているエルトラント軍の士官であるトワ中佐であった。しかしもう一人は、見慣れない中年の白人の男であった。


「ではマクリ特使。エルトラント奪回後の件に関して、貴国の国王陛下はお認めになられたのですね?」


「左様です。アドミラル・テラダ。国王陛下は先日のトレア港におけるマシャナ艦隊殲滅を高く評価されています。またメカルクやフリーランドとの連絡も、あなた方の協力により大きく改善されました。貴国は十分に信頼に値します」


 中年の白人、マクリは現在マシャナの目を逃れて国内を逃げ回っているエルトラント王国から派遣された特使であった。マシャナがエルトラントを占領しているため、以前はエルトラント王国政府が外部と連絡を行うことはほぼ不可能だった。


 しかしながら、日本国の持つ2隻の潜水艦は敵から身を隠して行動することが可能であった。彼らは哨戒任務と合わせて、時折エルトラント側の工作員と接触、時にはメカルクやフリーランドからの連絡員を送り込むなどのことも行った。


 この結果、エルトラント側からも連絡員が来るようになった。以前は軍人が多かったが、マクリのような政府高官も来るようになった。


「祖国奪回の暁には、貴国を国家として認めることについて、何ら問題はないというのが陛下のお言葉です。もちろん、貴国と外交ならびに貿易を行うのもです」


「感謝する。貴国とは、今後も末永く付き合いを続けていければと思います」


「私もです。ですが、まずは祖国を奪回いたしませんと。どうかよろしくお願いする」


「無論です」


 二人はがっちりと握手を交わした。


「寺田司令。彼らは本当に信頼に値するのですか?新参者の私が言うのもなんですが、約束を反故にしたりはしませんよね?」


 マクリが退室した後、加藤が物憂さげに言う。彼は元樺太庁の役人。樺太からの避難民の中で、数少ない公務員経験者であったがために、民政長官を寺田達から任された。その彼には、ついこの間中立条約を反故にしてソ連に攻められた苦い経験があった。


 その経験からか、ソ連以上に得体のしれない異世界の国々に不安があるらしい。


「その心配は少ないと思います。彼らは国を占領されていますし、我々の実力は彼ら自身が重々承知しているはずです。我が国と敵対する意味がない」


「司令の言う通りですよ。仮に祖国が奪回がなったとしても、敵であるマシャナが滅ぶわけではない。味方が絶対に必要だ。それに彼らと付き合ってみて思うが、彼らは露助(ロシア人の蔑称)とは違う。十分信頼できる」


 寺田と長谷川はこの件に関してあまり心配していないようだった。


「民政長官の仰ることもよくわかります。ですが、疑心暗鬼になっては我々は生きていけません。信じるしかないでしょう」


「まあ、司令長官がそこまで仰るなら」


 それでも、加藤は不安そうであった。


 日本国人になったとはいえ、やはり異世界での経験の差は大きい。寺田達は、先にこの世界に来た人間と、後から来た人間とのギャップの埋め合わせも考慮しなければならなかった。そしてそれをもっとも手っ取り早く行う方法もわかっていた。


(とにかく、目の前の戦に勝つことだな)


 エルトラント奪回作戦。それは単にエルトラントという一つの国の解放作戦ではない。内部外部問わず、異世界に現れたイレギュラーな存在である日本国が、味方の信頼を完全に勝ち得るための戦いでもあるのだった。

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