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たった3機の攻撃隊 ①

「艦戦5、艦爆3、艦攻2、練習機1機・・・たった11機でどこまで出来るか」


 自らも出撃のため飛行服を身にまとった二見は、攻撃隊と呼ぶにもおこがましい航空機の集まりに、頭が痛くなる想いであった。


 敵の練度が低かったせいか、滑走路や格納庫内の機体が壊滅するような事態だけは避けられたが、そうは言っても突然の敵襲によって、稼働機を多数揃えるのは至難の業だった。


 元から整備中だった機体もあれば、誘爆を避けるために燃料や弾薬を一度抜き取ってしまった機体もあるし、爆装が間に合わず編隊に組み込めない機体もあった。


 整備班も稼働機を増やすために努力したが、敵襲と言う混乱のため、さらに新兵も多いために、これが精一杯であった。


「しかし、やらなきゃならん。でないと、辰島ここは終わりだ」


 偵察機の報告から、敵艦隊はなおも干支諸島の北方海域にあり、そして舳先を干支諸島方面へ向けているとのことであった。


 先の空襲で敵機の多くを撃墜し、さらに第二波攻撃がないところから見て、敵空母に攻撃隊を編成するだけの稼働機は既にないか、あってもこちらの迎撃の激しさに諦めた可能性もある。


 だが、だからと言って脅威がなくなったわけではない。むしろ逆であった。確認された敵艦隊には戦艦が1隻確認されていた。


 敵艦隊が干支諸島に向かっていることから、辰島を戦艦含む艦艇による艦砲射撃で襲う可能性が高い。そしてそれに対して、干支諸島に在泊する艦艇は無力だ。対空戦用艦艇や護衛艦艇ばかりで、とても敵艦隊に砲撃戦を挑めるものではない。


 二見は在泊艦艇指揮官の最先任者である軽巡「四万十」艦長の春日大佐と話し合い、艦艇は緊急出港してそのまま干支諸島から離脱することとした。万が一の際の被害を少しでも小さくするためである。


 また海岸部の住民にも避難指示を出し、出来るだけ内陸部へ避難させた。


 とは言え、もし敵艦隊の艦砲射撃を浴びれば、飛行場も街も大打撃を被るのは目に見えていた。戦艦の主砲はせいぜい30km程度であるが、それでも第一飛行場や街は充分に射程に収められる。


 そして戦艦の艦砲射撃の威力は侮れない。かつて日本海軍は米軍が占領したガダルカナル島のヘンダーソン飛行場に「金剛」「榛名」の2隻の戦艦による艦砲射撃を実施した。


 この艦砲射撃によって、ヘンダーソン飛行場は大打撃を被り、飛行場設備ならびに駐機中の機体多数に被害が出た。


 また米海軍もフィリピン、硫黄島、沖縄などの島嶼上陸作戦における支援に、旧式戦艦を中心とした部隊を投入して艦砲射撃を実施しているし、敗戦が近い時期には日本本土の釜石や浜松に艦砲射撃を実施している。


 頑強な地下施設はこうした攻撃に耐えられるのだが、地上に暴露していればその巨弾の餌食になるしかない。


 二見自身はトラ船団と一緒にこの世界にやってきたので、戦艦による艦砲射撃を受けた経験はない。それでも、戦艦と言う軍艦の威力は海軍軍人としてよく知っているだけに、万が一射程に入られたら何が起きるか、容易に想像できた。


 戦艦の砲弾は口径にもよるが、航空機が搭載する大型爆弾よりも重量がある場合がある。そんなものが航空機を遥かに上回る速度で落ちてくるのだから、破壊力は凄まじい。


 だからこそ、二見たちは何としても敵艦隊の辰島への接近を阻止しなければならなかった。


 戦艦自体は航空機で沈められる。それはこの世界に転移する前からの軍事の常識だ。何せそれをマレー沖海戦で証明したのは、日本海軍自身なのだから。


 ただし、それは攻撃に必要な充分な数を揃えられればの話だ。


 今回揃えられた11機は、その全ての機体が爆弾や魚雷を装備していた。戦闘機である零戦さえ、胴体下に250kg爆弾を搭載した爆戦仕様になっていた。


 本来戦闘機の仕事は、敵の航空機を撃ち落とすことであり、今回攻撃隊に組み込まれた零戦も、主目的は攻撃隊の護衛だ。


 ただし、敵艦隊が上空直掩機を出していない場合は、ぶら下げて行った爆弾を敵艦に向けて放つことになっていた。もし敵機が出てこれば、その場合は爆弾を投棄して即座に空中戦に移行するのだ。


 そしてただ1機だけの練習機。言うまでもなく、トエルとルリアのペアが乗り込んだT6型練習機だ。


 T6型練習機は練習機とは言うものの、機銃を装備しており、軽量ではあるが爆装もできる。午前中の迎撃戦闘を行った彼女らの機体は、特に損傷もなく攻撃任務に投入可能であった。


 二見としては最高速度が300kmも出ない練習機に対艦攻撃は難しいのではと内心思っていたが、トエル自身が強く出撃を希望し、さらに今は1機でも攻撃機が必要であったため、攻撃隊に加えた。


 ただし彼女の機体に合わせると、攻撃隊の速度が落ちてしまうので、そこで2機の零戦を付けて先行させることとなった。


 2機の零戦とは言うまでもなく、賢人と武の零戦だ。午前中の空戦に参加し、着陸後ただちに弾薬の補充と燃料の補給、整備を行っていち早く出撃可能となったのが主な理由だった。もちろん、賢人と武の2人がトエル、ルリアペアと面識があるというのもあった。


 この3機は、言うまでもなくT6型機が出せる速度で進撃する。その後をより高速の二見らの本隊が追い、敵艦隊へ攻撃するタイミングで合流しようという算段であった。


 もっとも、戦場では何が起きるかわからない。むしろ予定通りに行く方が珍しい。合流が失敗する可能性だって高い。


 当の3機に乗り込む4人はと言えば、全く不安を感じさせる様子もなく、偵察機が報せてきた敵艦隊の現在位置、予想針路をチャートに描き込み、攻撃方法などを練っていた。


「前もそうだったけど、敵艦の速度はこっちのよりも高速だから。反跳爆撃をやるにしても、目測には絶対に注意だな」


「爆弾を投下したら、銃撃するか?」


「そうだな。沈められないにしても打撃を与えておくことに越したことはないし」


 零戦に乗る賢人と武が今回採るのは、爆弾を水切り遊びの要領で水面を跳ばす反跳爆撃だ。低空飛行の必要があり、その面では以前行った緩降下爆撃とは違う技量を求められる。しかし、当たり所によっては水線下にも打撃を与えられる。そうなれば、撃沈に至らなくとも、敵に大損害を与えること間違いなしだ。


「目標はどうする?」


「もちろん戦艦でしょ」


 と言うのは、T6型機を操縦するトエル姫。彼女は大物食いする気満々だった。実際、二見からも第一優先目標は戦艦と命令を受けていた。


 ただし、それは敵戦艦に辿り着けた場合の話だ。敵がガッチリと陣形を組み、激しく対空砲火を浴びせてくるなど、容易に近づけない可能性だったある。


「第一目標はそれでいいですけど、もしダメだった場合のことも決めておかないと」


 通常の攻撃であれば、攻撃優先目標は空母→戦艦→巡洋艦となる。しかしながら、これは絶対ではない。今回の攻撃にしても、最優先で狙うのは現状で最も脅威度の高い戦艦となっている。


「戦艦がダメなら、セオリー通りなら空母→巡洋艦→駆逐艦だな」


「それが妥当だな・・・トエル中佐もそれでよいですね?」


「私たちは初めてだから、あなたたちに任せるわ」


「よし・・・なら二見司令に許可貰って、出撃するか」


「「「おう!」」」


 たった3機、4人だけの攻撃隊だが、士気だけは高かった。



「コンターック!」


 爆装に銃弾の補充、最終点検まで終了した3機に、航空弁当と水筒を手にした4人が乗り込む。弁当は空襲後の混乱の中、主計兵が苦労して作った握り飯と、サイダー、そして二見が特配として付けてくれたチョコレートが入ってる。


 賢人も愛機の零戦に乗り込み、整備兵の手を借りてベルトを締める。それが終わって整備兵が機から降りると、操縦席から身を乗り出して他の2機を見る。3人とも飛行眼鏡を掛け、その顔には自信が満ちていた。


「そんじゃあ、行くとしますか」


 両手を振ってチョークを払い、整備兵が退避したのを見届けると、賢人はブレーキを緩めて機体を駐機場から滑走路に出す。彼の機体の前を、整備兵が白の旗を振りながら走って行く。

  

 敵の空襲は第一飛行場に指向されたが、幸いにも滑走路には致命的な被弾は喰らっていない。しかし周囲には何発か被弾しており、その破片が飛び散っている。こうした破片がタイヤをパンクさせる可能性もある。


 一応出撃前に簡単に確認作業はされていたが、万が一と言うこともある。整備兵が旗を持って走っているのもそのためだ。万が一危険個所があったら、彼が赤旗を振ることになっていた。


 先頭を行く賢人は、その動きに注視する。


 幸いなことに赤旗が降られることなく、滑走路に進入できた。そして発進可能な白旗が降られる。


「行くぞ!」


 スロットルをフルに入れて零戦を加速させる。250kg爆弾と言う重荷を抱えているので、充分に加速しないといけない。


 チラッと横を見やれば、二見ら数名が帽振れをしているのが見えた。後続する攻撃隊に他の兵隊たちが掛かり切りになっているなら、彼らはささやかな見送りを送っている。


 直後、揚力を得た零戦は軽やかとは言わないが、無事に空へと舞い上がった。


 賢人の目の前に、戦空とは思えない南洋の蒼空が広がる。

 


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