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ワレ奇襲ヲ受ク! ⑥

「平田参りました」


「同じく佐々本参りました」


 2人が指揮所に入ると、そこでは基地司令の二見が地図を見ながら部下たちと話し合ってるところだった。


 二見は2人が来たのを確認すると、部下との話を手短に終わらせる。そして部下たちが各方面へ指示を飛ばすために離れていくと、2人を手招きした。


「おう!来たな。空戦が終わったばかりのお疲れの身で悪いが、報告頼む。敵機に関してだが、単発の艦上機で間違いないな?」


 敬礼をした2人は、二見から答礼を受けるとすぐに手を降ろして報告を行う。


「はい!単葉の戦闘機と複葉の攻撃機でした。ここらに単葉機が飛んで来られるような敵基地はありませんから、空母からで間違いないでしょう」


「それに着陸させたマシャナ機に、着艦用のフックが取り付けられてましたし」


「そうか。敵さんもついに空母を手にしたか」


 これまで同盟各国や捕虜からの情報により、マシャナ軍は空母を持ってないと見られていた。


 しかし今日、その情報は過去のものになった。


 二見としては敵機が来襲した時点で空母艦載機であることはわかりきっていたし、日本国からの技術供与によって、フリーランドのように改造ながら空母を完成させた国もある。だから、これまで何度も日本国と交戦を経験したこの世界の大国であるマシャナが、短期間で空母を戦力化していてもおかしくはなかったし、容易に予想できることだった。


 2人への問いかけも、実際に敵機へ空中戦に挑んだパイロットへの、最終確認に近いものだった。


 それでも、これまでほぼ日本の専売特許だった空母の運用を、敵国であるマシャナが短期間でものにした、少なくとも敵地への空襲を敢行できるレベルに達しているのはショッキングなことであった。


「失礼します!」


 賢人たちに続いて、トエルとルリアの2人も入って来た。


「お呼びですか、大佐」


「ああ、少佐。先ほどは見事な腕前を披露したようで・・・だがこれ以上の戦闘参加は危険すぎる。ここから先は我々に任せてもらいたい」


 すると、トエルはムッとした顔で反論する。


「何故ですか?私たちは2機の敵機を確実に撃墜しました。敵機の性能はあの機体でも充分通用します。現在の状況を考えれば、1機でも多い方が良いのでは?」


「しかしだね。君に何かあってからでは、困るのだよ・・・」


 2人のやり取りを見て、賢人と武は顔を見合わせる。トエルがただ者ではなさそうなことは、既に2人とも強く感じているものであったが、二見の態度は尋常ではない。


 二見はトエルのことを強く止めようとしているのだが、階級が上にも関わらず妙に控えめな態度を崩さない。これまで攻撃機搭乗員として乗り込んできた彼にしては、腑に落ちない姿だ。


 確かに士官で、エルトラントからの大事な客人であることは理解できるが、あまりにもその身を気にし過ぎていた。


 そこで、賢人はストレートに聞くことにした。


「・・・大佐、彼女は一体何者なんですか?大佐がそこまで気にされるなんて」


 苦虫を潰したような顔で口ごもる二見に、賢人はソッと問いただす。


「いや、それについては・・・」


「それに、ルリアの彼女に対する態度も妙ですし」


「いや、それはだな・・・」


 なおも二見は言うのを躊躇っていたが。


「言ってもいいですよ、大佐。むしろ、私自身で言いましょうか?」


 そんな二見に、なんと当のトエルが促す言葉を口にした。


「少佐・・・」


「別に構わないでしょう。2人にはこれ以上、隠し立てできそうないですし。それに、私自身彼らは信頼できると、昨日の夜に確認しましたので・・・あ、あとルリアも2人のことを、特に平田兵曹のことを信頼しているようですし」


 トエルがルリアにウインクする。するとルリアはギョッとして、顔を赤らめた。


 そんな場違いなやり取りに目を一瞬細めたものの、二見は溜息を一回吐くや、周囲に目をやる。そして聞き耳を立てている者がいないことを確認すると。


「少佐、自分で言いますか?」


 トエルに静かに尋ねた。


「ええ・・・お察しのように、私はエルトラントの王女よ」


 頷いたトエルが口にした言葉は、予想はしていたものの賢人と武には衝撃的な内容だった。


「げ!?やっぱり!」


「ただ者じゃないとは思っていたけど・・・」


「お前ら、あまり大きな声を上げるな!」


 賢人と武が素っ頓狂な声を上げ、それを二見が叱る。


「まあ王女と言っても第三王女で、継承権なんてないに等しいから、あまり気にしないでちょうだい」


((無理です))


 普通にそんなことを言うトエルに、内心突っ込むしかない賢人と武。


「その、なんで王女様が飛行機に乗ってるんですか?」


「そりゃ戦うためよ。私はこう見えても、マシャナとの戦いの前から飛行機に乗ってたんだから。それに、本国が占領された時だって、民兵率いてゲリラ戦やってたし。今更戦場で戦うのなんて、怖くもなんともないわ」


 笑いながら言うトエルだが、賢人は彼女の凄まじい経歴と化け物ぶりに呆気に取られる。


 まあ、民兵率いてゲリラ戦をしていたのはいい。本国が占領されて追い詰められれば、それくらいする必要だってあるだろう。そして、第三王女となれば王位継承権などないに等しい筈。だからまあ、危険な役回りをするのも、理解できなくもない。


 しかし飛行機の操縦については別物だ。この世界にも飛行機があったとはいえ、その多くは第一次大戦レベル、賢人たちが乗っている世代のそれに比べると玩具にちかいようなものだ。


 そんな飛行機しか操縦したことのない筈の人が、練習機とは言え1940年代の機体を颯爽と操り、あまつさえ敵機を撃墜している。これはもう天賦の才としか言いようがない。


「私が日本国に留学出来たのだって、そういうことよ。万が一があっても良い身だから」


 その万が一というのは、単に戦闘での危険と言う意味だけではない。賢人も武もルリアも、すぐに気づいた。


 もちろん、誰もそんなことを口にするという無粋なマネはしなかったが。


「だからと言って、こちらとしては無闇やたらにあなたの身を危険にさらすのは望みません。今後の戦闘は我々に任せていただきたいのですが」


 二見としては、あくまで彼女の戦闘参加には反対のようだった。まあ当然と言えば当然だったが。


 賢人も二見と同じ立場であるなら、そう感じたかもしれない。しかしながら、パイロットとしての賢人は違う感慨を抱いていた。


(この人の腕は本物だ・・・あの腕を活かさないのは勿体ないな)


 先ほど彼女が空中戦で見せた腕前は、間違いなく本物だった。それを封印するのは惜しい。パイロットとしての賢人は本気でそう感じていた。


 しかし、そんな直感的な理由だけでは二見の意見に反対するわけにもいかなかった。「ダメだ!」と言われて御終いだろう。ましてや二見の現在の階級は大佐だ。こちらの世界に来て昇進したとはいえ、下士官に過ぎない賢人が意見するなど、本来であればあり得ないことだ。


(でもな・・・)


 トエルの腕が惜しいというのもあったし、彼女が見せる本気の顔。祖国を侵略者の手から守ろうという意気込みが伝わる顔。それを見ていると、言わずにはいられなかった。


「あの二見「司令、偵察機発進準備完了です!」


 賢人の意見は、走り込んできた伝令の兵士の声にかき消された。


「おう!準備完了した機から順次発進せよ!」


「は!」


「偵察機、敵艦隊を索敵するんですか?」


 賢人の問いに、二見が頷く。


「ああ。この島の近くに空母機動艦隊がいる可能性が高いからな。早急に発見し攻撃を掛けないとマズイ」


「でも大佐。敵艦隊がこの島の近くに留まるでしょうか?空襲が完了したらさっさと撤退するんじゃないですか?」


 しかし賢人は内心その武の意見を否定した。そしてそれは二見も同じだった。


「それは俺も考えたが、もし敵が強力な水上戦闘艦艇を含んでいればどうかな?こっちには水上艦は「四万十」と「スポケーン」に「日間賀」くらいしかない。とても水上戦闘なんかできない。もし敵艦隊が艦砲射撃でも仕掛けてきたら、それで終わりだ」


 マシャナ軍には地球で言うところの戦艦や巡洋艦に該当する艦艇がある。いずれも強力な砲兵装を有している。


 これに対して現在辰島に展開する艦艇は、対空用火器は比較的充実しているが、対艦攻撃能力は限定されていた。敵の水上艦艇部隊が攻めてこれば、一溜りもない。


 なるほど、そうなると敵を早期に発見する必要がある。撤退してくれていれば万々歳だが、万が一辰島に向かっているのであれば、早急に航空攻撃を加えなければならない。


「瑞穂島への救援は?」


「空襲開始直後に伝達済みだ。しかし、とても間に合わん」


 瑞穂島から辰島に来るのに、艦艇では時間が掛かりすぎた。飛行機は数時間で飛んで来られるが、一度着陸して燃料と弾薬を補給し、機体の整備をする必要もある。こうなると、今日中に敵を攻撃できるかは微妙なところだ。


 こうなると、辰島の在地戦力で何とかするしかない。


(待てよ・・・だったら、彼女の言う通りだ)


「大佐、意見具申いたします」


「何だ?」


「トエル中佐の戦闘への参加を、自分も強く求めるものであります」





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