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新領土と新戦力 ⑮

「この艦もか」


「ええ、調査班がざっと見ただけですので、絶対とは言えませんが。状態は比較的良好とのことです」


「ただ自走できるにしても、そんな人手は今の我が国にはないからな」


 巡洋艦「ちくご」の作戦室で、艦長兼支援部隊指揮官の鳥居少将は、寄せられた報告に苦笑いするしかなかった。


 放射能汚染の心配が解消されると、彼は他の士官らと協議の上で、調査班を組織して環礁内の艦艇の調査を命じた。


 乗り込み調査開始前の時点で、これらの艦艇は無人の可能性が高いとされていたが、もちろん調査班は万が一に備えて完全武装の上で、警戒しながら乗り込んだ。


 しかし、そのそうやってガチャガチャ重い装備をまとって移乗した彼らの苦労はほぼ全てが徒労に終わっていた。何故なら、調査員が乗り込んだ艦にいずれも人間の姿はなかった。一部の艦に羊や豚、馬などの動物が載せられていたが、人間は一人たりとも乗っていなかった。


 一部の艦からは何らかの観測機器が発見されたことで、先の動物と合わせてこれらの艦艇が何らかの実験の標的艦艇である可能性は一段と高くなった。


 またいずれの艦艇も良好な状態を維持されていた。武装も完全であり、弾薬や燃料も満載状況にあった。糧食や真水、乗員の生活に必要な各種備品もそのまま残されていた。


 鳥居らは、よりリアルな状況での艦艇被害を調査する核実験をしようとしていた。そう見立てていた。


「この艦隊を持ち帰れれば、世界最強の艦隊ができるんですけどね」


 部下の言葉に、鳥居はピシャリと言う。


「だから、運用する人間がいなけりゃどうにもならんって。それどころか、曳航するのだって厳しいぞ」


 日本国の艦艇乗組員は現在既にカツカツだ。余分な人間などいない。むしろ今後の国力増進のためには、一部の兵隊を除隊させて生産活動に転用しなければならないほどだ。


 また自走ではなく曳航していくにしても、そのためには航洋曳船か動かせるだけの馬力を有する艦艇を出動させなければならない。しかし日本国には現在航洋曳船はないし、艦艇や輸送船にも余裕はない。


 だから今すぐ持ち帰るのは非現実的であった。


「とにかく今はまず、こいつらの全容を掴むことだ。じゃないと持ち帰る優先順位もつけられないからな」


 鳥居は高高度から撮影し、環礁内の全艦艇を写した写真に目をやる。


 引き延ばされたその写真に写る艦艇は、外側の停泊するものからバツ印がつけられていた。


 この時点において環礁内の艦艇の調査は、外側の艦艇から順に始められており、まだ3割ほどしか消化していなかった。


 そして鳥居にしろ、無線で連絡をとりあう瑞穂島の日本国上層部にしても、この艦艇を放置するという選択肢はなかった。使い道があるものなら、使わなければ勿体ない。もし使い道がないにしても、解体すれば膨大な鉄資源を得ることが出来る。


 放置すれば、風雨や潮風にさらされるので、時間さえ経れば自然にいずれ使い物にならなくなる。しかし万が一、日本国以外の他者の手に転がり込むような事態となると、特に敵対関係にあるマシャナの手に渡れば重大な脅威となる。


 無論、現在同盟関係を持っている国であっても、強力な戦力や先進的な技術を手に入れることで、日本国の敵にならないという保証はないのだ。


 そう言うわけで、増援部隊も含めた各艦より抽出された兵員による調査班が、環礁内に停泊する各艦艇の調査を全力で行っていた。


 彼らは万が一に備えて、鉄兜を被り、99式或いは38式小銃で武装(もちろん着剣)して調査にあたっていた。


 その中には、賢人や武、そして中野らの姿もあった。


「すげ~!こいつがメッサーシュミットか!」


 賢人は目の前に置かれた1機の飛行機に目を輝かせる。尖った液冷機の特徴を持ち、小柄ながら無駄のないスタイルをした精悍なスタイルの機体。その胴体と主翼にはドイツの国籍表示である鉄十字が、そして尾翼には同国を支配したナチス党のシンボルである鍵十字が描きこまれていた。


 ドイツ空軍の主力戦闘機であるメッサーシュミットMe109戦闘機である。それも、1機種だけではなくバージョン違いが何機も固定されて置かれていた。


「こら平田!飛行機は後だぞ。今回の調査はあくまでこの艦の状態を調べることにあるんだぞ!」


 飛行機に見入っている賢人に、中野が雷を落とす。


「すいません。でもメッサーシュミットにフォッケウルフ、スツーカですよ!本や記録映画でしか見たことのないドイツ機の本物が並んでるんですよ!」


「そりゃまあ、飛行機乗りとして血が騒がなくはないがな。でも、今は任務に集中しろ」


 今賢人たちが乗り込んでいる艦の名前は、乗り込む前に、艦体に書かれた艦名表示を確認しているので、既に判明していた。「ペーター・シュトラッサー」である。


 艦上にドイツ製の機体を積んでいるのと、名前を見てもわかる通り、ドイツ海軍の航空母艦である。


 大戦中のドイツ艦艇については、ドイツから日本への移動中にこの世界へ飛ばされてきた潜水艦の「伊508」に詳しい者が乗り込んでいるはずであるが、生憎と今回の調査部隊と増援部隊には、その関係者は乗っていなかった。


 元海自艦艇には戦後発行のジェーン海軍年鑑が搭載されていたが、戦後の情報であるため、当然有力な情報はなかった。


 そのため、頼りになるのは各艦に搭載されている簡易な識別表だけが頼りであった。


 その簡易な識別表によると、この「ペーター・シュトラッサー」は独海軍の空母「グラーフ・ツェッペリン」の2番艦らしい。


 独海軍はヒトラー政権が軍備に大幅な制限を加えたベルサイユ条約を破棄し、再軍備を宣言した後、海軍艦艇の増強を進めた。その中に空母の建造計画も含まれているというのは、戦前の軍事雑誌などで知られていることであった。その空母の名前は「グラーフ・ツェッペリン」であり、2番艦も建造を開始した。それも覚えている者はいた。


 ただし戦争がはじまり、情報がほとんど入らなくなると、その「グラーフ・ツェッペリン」とその2番艦がどうなったかは、全くわからなくなった。完成したかどうかも判然としなかった。


 中野らはカッターから移乗すると、艦内の捜索を行った。もちろん電力は喪われているので、彼らは真っ暗な艦内を懐中電灯片手に、慎重に行った。


 放射能とかいう、彼らにはよくわからないものの脅威はないらしいが、ただでさえごちゃごちゃしているふねの中である。それが完全に闇に包まれているのだから、歩くだけでも一苦労だ。さらに迷子になれば、取り返しのつかないことになりかねなかった。


 一行は迷わないよう、気を付けながら艦内を進む。


「損傷はなさそうですけど、所々工事が止まっていますね」


 真っ暗ではあったが、懐中電灯の明かりに映し出される艦内の様子を見て賢人はそう口にした。


 艦内の通路や部屋は一応形をなしているのだが、本来行われてるべき内装工事が行われていない部分が散見された。明らかに工事未成である。


「外観はちゃんとしていたんだがな・・・こうなると、機関が本当に取り付けられているかも怪しいな」


「張りぼてってことですか?」


「それは本当に機関室まで降りてみないとわからんな・・・よし、もっと人と装備を寄越してもらってしっかり調べよう」


 艦艇の調査は環礁の外側の艦艇から始められているが、そこに泊められていた艦艇のほとんどは、魚雷艇や発動艇、掃海艇に航洋曳船、揚陸艦艇や潜水艦、そしてフリゲートに護衛駆逐艦と言った小型艦艇がほとんどであった。


 そのほとんどは米国製であったが、一部におそらく接収品と思われる独伊日艦艇も混じっていた。国籍はともかくとして、ほとんどが中小型艦艇であったから、内部の調査も小人数で短時間で終了できた。


 しかし環礁内部に行くにつれて、停泊する艦艇は大型艦となり、必然的に調査に必要な人数も時間もいる。


「平田、一度出るぞ」


「ヨーソロー!」


 こうして、いったん賢人たちは艦内から飛行甲板上へと出る。真っ暗な闇に包まれた艦内から、南洋の強烈な日差しが差す飛行甲板に出ると、眩しさから目がくらみ、瞼を自然に閉じてしまう。


「眩し!」


「出る前に目を閉じておくんだな」


 顔をしかめる賢人を見て、中野が笑う。


「全く、これからこんなことを何度もやるかと思うと、先が思いやられますね」


「仕方がない。これも仕事だ。それにこの艦を調べなきゃ、次の艦に行けないしな。お前も新しい飛行機を見れんぞ」


「わかってますよ」


 二人の視線の先には、別の大型空母の姿があった。


 環礁内に停泊が確認されている空母は計5隻。この内1隻は今彼らが乗っている「ペーター・シュトラッサー」で、1隻は彼らがここまで乗ってきた「つるぎ」と同様の護衛空母と見られていた。


 残る3隻の内2隻は大型、1隻は小型であるが艦型から艦隊型空母と見られていた。またその甲板上にも、航空機が係止されているのが確認されていた。


 それらの空母にはどんな飛行機が搭載されているのか。賢人ならずとも、パイロットならば楽しみでしかたがなかった。


 しかし次の空母に行けるのは、もちろん「ペーター・シュトラッサー」の調査が終わってからの話である。


 彼らはこの後、増援を得つつも丸1日かけて同艦の調査を行わなければならなかった。


 

御意見・御感想お待ちしています。


 念のため。史実の「グラーフ・ツェッペリン」級2番艦は、解体されておりこのようなことはありえません。


 ちなみに、個人的には「グラーフ・ツェッペリン」のイメージは某2つのアニメ作品のせいでやられ役のイメージが・・・

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