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血染物語〜汐原兄弟と吸血鬼〜  作者: 寝袋未経験
断頭台の吸血鬼編

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一点突破

 四肢に血の鎧を纏った今の俺なら、狐面の攻撃の全てを正面から打ち砕ける。

 だが、幾度千切り粉砕しようが、狐面の尾は何度でも作り直される。


 黒い激情による侵食も、弱ったとはいえ、身体に深く根付いて現在進行形で俺の体力を削いでいる。

 封印を無理矢理こじ開けながら援護する鬼面と天狗面の限界も、すぐそこまで来ている。


 時間は掛けてられない。

 狙うは狐面本体のみ。


「行くぞ」


         ダンッ!!


 俺は大地を蹴り、狐面に向かって一直線に突っ込む。


(速いな……)


 対する狐面は、その場から一歩も動かず、尾の再形成に能力の運用を優先させた。

 今の彼に驕りは無い。

 覇気を灯した金色の瞳が、拳を握り締めた俺を捉えていた。


 狐面が万全を取り戻せば、時間に限りのある俺達は圧倒的に不利になる。

 反撃を恐れず、俺は拳を振り抜いた。


         スカッ!


「ッ!?」


 直撃した筈の、俺の拳が空を切る。

 避けられた訳ではない。

 振り抜いた拳が奴の身体をすり抜けていた。


 振り抜いた勢いをそのままに、俺の身体は狐面に向かって投げ出される。

 しかし、意図せず行われたタックルですら、狐面に触れることは出来なかった。

 俺は転がる身体を起こしながら、体勢を直して狐面を正面に据える。 


「何が……」

「おいっ!! 何処に向かって殴りかかっとるんじゃッ!!」


 鬼面の怒鳴り声が響き渡る。

 それに今の発言から察するに、目の前に立つ狐面は俺にしか見えていない。


「……既にマスターは攻撃を受けてる」

「あぁ!?」

「悪夢の応用……マスターの目の前には、今も狐君の幻影が居る!」


 天狗面の言う通り、視覚、嗅覚、聴覚が狐面の存在を訴えているが、奴は其処に居ない。

 そもそも天狗面達の声も、何処までが現実か判別付かない。


 狐面の幻影が、俺を睨みつける。

 

「この幻術を前に、貴殿は拙者を捉えられな──」


       パンッ!!!


 手を叩く。


 先程の悪夢と違って、俺は狐面に触れられなかった。

 即ち触覚までは騙せていない。


 だから試した。

 手を叩いて発した音の反響を、肌で感じ取る。

 吸血鬼になった事で五感が向上した今の俺なら、狐面の位置を探知できると踏んだ。


        チリッ……


「そこだ」


 皮膚の感覚だけを頼りに俺は幻影を突っ切り、その先の虚空へ拳を放った。


        バシン!!


「チッ」


 虚空から聴こえた舌打ちと共に、俺の拳が何かに阻まれた。

 幻が剥がれ落ち、虚空に狐面の輪郭が現れる。

 狐面は、左手の平で俺の拳を受け止めつつ、二本の尾で俺の腕を縛って静止していた。


 思考を読まれているとはいえ、見事な対応だった。

 だが再形成は間に合っていない。

 仮面越しに透けた狐面の表情からも、彼の苛立ちが読み取れた。

 

「もう、逃げんなよ?」

「……いいだろう」


        バチャン!!


 俺は尾による拘束を振り払って破壊し、拳を握り締める。

 砕けた尾を形成していた血が舞い散り、交錯する俺達の視線を遮った。


「「ッ!!」」


        バキンッ!!


 狐面は読心により、俺が放った右の拳を躱しつつ、素早く右の裏拳を繰り出した。

 完璧な反撃だったが、俺は《鬼殻鎧》により瞬発力を向上させた左腕で受け止め、弾き返す。


 モヤによる侵食、体格差、読心、《鬼殻鎧》──


 あらゆる要素を加味した上で、俺たちの実力差は拮抗する。

 その事実を理解した狐面は、俺と大きく距離を取り、三本の血の尾を背中から出現させた。


「《重撚尾》」


 狐面は徒手空拳で相対することで再形成した三本の尾を編み込み、縄状に変化させた。

 あの尾による薙ぎ払いを受ければ、拮抗している実力差は崩壊する。

 だが避ければ、狐面には大きな隙が生まれる。

 時間を稼がれる方が危うい今、俺にとっても好都合だった。


「来いよ──」


 狐面は質量を増した尾を、引き摺りながら此方へ向かってくる。

 そして身を翻し、全身で尾を振り抜いた。       

 遠心力によって凄まじい速度──


 だが、反応出来ない速度ではなかった。


 俺は空中へ跳び上がって、狐面の一撃を躱す。

 他の尾の再形成が終了していない今、先程のような不可避の追撃は来ない。

 出現している三本の尾だけなら、空中でも十分対処出来る──


 そう思っていた。

 そんな俺の思考を狐面は読み、そして彼は既に手を打っていた。


「ッ!?」

 

 視線の先の、狐面の姿がブレる。

 尾を振り抜いた狐面と、今から振り抜かんとする狐面の姿が、その場に重なって存在していた。

 そして避けた筈の一撃が、俺に迫る。


(そうか。幻影と組み合わせて──)


       バシンッ!!! 


 速さと重さを兼ね備えた狐面の二の太刀が、俺の不完全な防御を打ち砕いた。

 尾が俺の左腕を巻き込みながら、胴を薙ぎ払い、俺の身体を空中から地面へと叩きつけた。


(逃げぬとは言ったが、幻術を使わぬとは言った覚えはない。可能性を思考から破棄した己を──)


 けど勝負は、まだ終わってない。


「ッ!?」


        ズンッ!


 全体重で地面を踏み締め、後方へ転がる身体の勢いを殺しつつ、反響で狐面を捉える。


「なん……なんなんだッ!! お前はッ!!!」


 戸惑いを顕にする狐面を、もう一度正面に据える。

 左腕に纏わせた血を右腕の鎧に集約させて強度と張力を増す。

 さらに右半身を大きく下げて全身を引き絞り、溜めを作る。

 防御も幻術の発動も追いつかない超速で、回避不可能な距離まで接近して、全力でぶん殴る。


 どんな一撃が来るのか既に知る狐面は、再形成の完了した九本の尾を全て防御に回して迎え撃つ。

 互いに小細工無しのぶつかり合い。


「《大崩(たいほう)》」


 地面を踏み砕く音が狐面の耳に届いた時、狐面の心臓目掛けて放たれた俺の拳は、既に三本目の尾を貫いていた。

 一本、また一本と貫く度に推進力は死んでゆき、最後の一本を貫いて狐面の両腕を弾き飛ばした所で、俺の身体は完全に静止した。

 狐面の守りは、俺の渾身の一撃を止めた。


「くそッ……」


 悪態をついたのは狐面だった。

 俺の思考を読み取れるが故に、狐面は誰よりも早く、己の敗北という結論に至ってしまった。


 俺は右腕の鎧を構成する血を全て人差し指へ集中。

 弾丸を形成し、指先で回転する。

 如何に隙が多い技でも、この間合いなら避けようがない。


「《血旋回銃(ブラッドライフル)》」


       ドンッ!!!


 零距離からの大技。

 幾重にも加速を重ねた血の弾丸が、狐面の胸に風穴を開けた。


(心臓をッ……再生、しなければ──)

「おい狐野郎」


 俺は音速に達した事でボロボロになった右手で、膝から崩れ落ちた狐面の首を掴む。


「あいつらの封印解け。じゃなきゃ、お前の首を砕く」

「ぐッ……」

「死ぬか、躾けられるかだ。さっさと選べ」


 狐面は血走る目で俺を睨みつけた。

 だが程なくして、鬼面と天狗面の鎖が崩れ落ちた。


「──ター──丈──」


 耳鳴りが酷くて、天狗面が何を言ってるのか聞き取れない。

 まだやるべき事は沢山ある。

 だが、一時的でも危機が去ったことで、全身の力が抜けてしまった。


「……じゃ、後任せた」


 俺は天狗面に後を託し、身体中のダメージに誘われるがままに意識を手放した。

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