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血染物語〜汐原兄弟と吸血鬼〜  作者: 寝袋未経験
断頭台の吸血鬼編

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27/36

悪鬼蹂躙

 レイアの声で窮地を脱した大角は、何かに取り憑かれたかのように、真っ直ぐレイアの下へ走りだした。


「くッ……僕が相手だって言ったでしょうがッ!」


 蹴り飛ばされた狼原(かみはら)は即座に立ち上がって大角を追い掛けるが、機動力の差でどんどん距離が開いていく。


         バッ!


 交代時間までは残り11秒。

 全快とは言わずとも血を吸って回復した別役(べっちゃく)は、これを前倒しにして駆け出す。

 1秒でも長く大角を足止めし、狼原に再度大角を無力化させる。


「挟んでシバくぞッ!!」

「面目無いねッ!!」


 走りながら狼原は両手の銃を、『岩砕(いわくだき)』専用のホルスター『六雫(むのしずく)』に収めた。


「《reload》!」


 狼原の言葉1つで、ホルスター内の2丁の『岩砕』に6つの弾丸が再装填された。

 リボルバーの弱点として装填に時間が掛かる点が挙げられるが、『六雫』は自動装填機能を備えている。 

 弾丸の込められたシリンダーをカートリッジとして、丸ごと交換する事で再装填に必要な時間を1秒フラットまで短縮する。


「《impact》」

 

 狼原は右半身を前に構えながら、左の拳を口元に寄せてそう呟いた。

 残り9回。

 まだ2分は戦闘する必要がある以上、無駄打ちなど以ての外、確実に大角に打ち込まなければならない。


「邪魔じゃああああああ!!」


 大角は左脚で踏み止まり、金棒を振りかぶる。


((《鬼岩襲(あれ)》かッ!!))


 先程見せた瓦礫による前方絨毯攻撃。

 狼原が後ろに居ない今、藤宮だけで防げる一撃ではなく、別役は躱す訳にいかない。


(ギリギリまで詰めて盾に……あわよくば、その金棒砕いたるッ!)

(脚を止めたなッ!? 間合いに入った瞬間、もう一度腕を撃ち抜いて発動を阻止するッ!)


 二人は即座に判断、危険を承知で迷わず大角に接近する。

 間合いに入るまで互いに1秒足らず。

 大角は二人に構うことなく、白い床と水平に金棒を振り抜こうとした。


「ッ!」


 だが陽に抱えられたレイアが大角の視界に入る。

 それでも躊躇う余裕は無い。

 1秒も掛からず狼原と別役の攻撃を受ける。 

 レイアを傷付けず、敵を皆殺しにする技を一瞬にして編み出さなければならない。


「がああああああああああああッ!!」


 金棒を逆手に持ち替え、地面に水平に振り抜く筈だった金棒を垂直に振り上げた。


(上に!?)

(何考え──)


 大角が倣ったのは、汐原輝の脳に刻まれたジャックの一撃、《融刃血(ゆうじんけつ)蛇乱斧(じゃらんぶ)》。

 金棒を形成する赤血球同士の結合を弄り、ゴムのような弾性を与えて振り上げる事で、瓦礫は血の糸に繋がったまま天井スレスレに到達。

 無数の瓦礫に引っ張られて吹き飛びそうになる金棒を、大角は掴んで離さない。

 そして、祭のヨーヨー風船が、ゴムの糸が縮む事で手元に戻る様に──


        ダンッ!!

「ここだねッ!」


 狼原は間合いに入った瞬間、金棒を掴む右手首を撃ち抜いた。

 どこを撃ち抜くべきか迷う時間はなく、直感で狙った。


 その一撃は脳から右腕を通じて、手元で実行される血液操作を遮断し、かつ致命傷にならない完璧な一発──


        ガシッ!!

「「ッ!?」」


 ──の筈だった。

 《鬼殻鎧》により強化されたのは膂力と瞬発。

 大角は瓦礫群に引かれて空へ飛び出そうとする金棒を左手で掴み、血液操作を継続させる。


「《鬼岩空襲(きがんくうじゅう)》!!!」


 左手で金棒を振り下ろすと同時に血液操作を解除。

 大角の膂力に重力が加わり、より破壊力が増した瓦礫の雨が、大角の周囲10mに無差別に降り注いだ。

 頭上からだけでなく、地面を跳ねた瓦礫すら凶器となる多方向絨毯攻撃。


 弱点としては、咄嗟に編み出した技故に敵だけに命中させるといった器用なことは出来ず、自身すら巻き込む自爆技である点。

 三者それぞれ、全身に瓦礫を受けて傷を負った。

 だが、怪我の具合が同じなら、最も回復速度が速いのはレイアの眷属、汐原輝の肉体を持つ大角だ。


 巻き上がった粉塵の奥からところどころ血に染まったボロボロの衣を身に纏う大角が姿を見せた。

 自爆で左腕は消し飛んでいたが、右手首に受けた銃創は既に癒やし終え、その手には爆心地で瓦礫を受けて捻れた金属片が握られていた。

 

「後は、貴様だけじゃ!!!」

「だらしないわよ、2人共ッ!!」


 藤宮は左手で発煙弾を機動、後ろに転がして煙を発生させ、その中に陽とレイアを潜ませた。

 狼原と別役が生きている事を前提として回復するまでの間、陽の生存率を僅かでも上げる。

 そして銃口を大角に向けて構える。


 藤宮の持つ『PP‑33 Krest』は、対吸血鬼用の改修したとはいえ、瞬間火力『岩砕』に劣る。

 『岩砕』ですら腕を貫いた時点で速度を損ねた事から最低でも5発、しかもほぼ同じ位置に弾丸を撃ち込まなければならないと藤宮は結論付けた。

 1つの失敗が死に直結する戦場の緊張感。


「ふぅ」


 だが元軍人である彼女にとって、それは飽きるほど味わってきたモノであり、むしろ彼女の集中を研ぎ澄ませていく。


         ミシッ!


 先に動いたのは大角だった。

 彼の懸念は狼原と別役。

 2人が攻撃を受けた瞬間を彼は見ていたが、その後は煙に巻かれて生死不明、生きていれば再生して攻撃を仕掛けてくるのは分かりきっている。

 それにレイアさえ手元に置けば何も気にせず全て壊せる以上、1人ずつトドメを刺す必要も無い。

 合理的に、それ以上に執念深く、大角は目標の奪取のみを優先し、左脚に全体重を乗せた。


       ダダダダダダダン!


 大角の動き出しに反射して、藤宮はトリガーを引いた。

 銃口から飛び出した7発の弾丸が左足首の防御を突き破り、大角の初動を完全に潰した。

 脚を奪われた大角の身体は前方に傾く。


「チッ!」


 左腕は依然無い。

 地面との激突を避ける為、右手の金属片を反射的に手放し、地に手を付いて──「しゃらくせぇッ!!」


 大角は倒れながら握り直した金属片の切っ先を藤宮に向け、上半身の力だけで投擲した。


「くッ!?」

        ガリンッ!!!


 胸元に吸い込まれる様に飛来した一撃を、藤宮は咄嗟に銃身で受けた。

 金属同士が勢いよく衝突して火花が散り、軌道を逸れた一撃がクレストのスリングごと右肩を切り裂き、銃が手から滑り落ちた。


「フハハ奪っ、ブゴッ!」

(腕力だけでコレ……出鱈目なッ!)

「ざあ、ぞごをのげッ!!」


 顔面から地面に突っ込んだ大角は、藤宮に再生の暇を与えない為に、自らも左手足の再生を後回しにして距離を詰める。

 藤宮も機動力の損なわれた大角を見て、即座に攻勢に出る判断を取った。

 左手でナイフを取り出して近接戦に持ち込む。

 大角の素早い大振りの一撃を左手の甲で弾いて逸らし、懐へ入り込む。


(通る!)


 狙うのは右太腿。

 目的を見失わず、常に大角の機動力を削ぐ為に振り下ろした。


        グチャッ!

「なッ!?」


 だが攻撃は右手の平に遮られ、手を貫いた刃先は右脚の表皮にすら到達しなかった。

 ジャックを経験した輝の記憶を持つ大角にとって、彼女の一撃はあまりにも鈍く見えていた。

 そして、反撃の時間すら煩わしい大角は、ナイフの刃が貫通した右手で藤宮の左手を掴む。

 彼にとって最優先はレイア。


「ふんッ!!」グインッ!


 女性とはいえ鍛え上げた肉体を持つ藤宮を、片手で容易く後方へ投げ飛ばした。


「くッ……走って!」


 藤宮の言葉を受けたのと同時に、陽は煙幕の中から飛び出した。

 人を抱えたまま走れるだけの身体能力と、吸血鬼相手でも臆さず、即座に行動に移せる度胸と判断力は見事な物だった。

 

「だから、なんじゃ!!」


 如何に鍛えても、如何に動き出しが早くても所詮は人間、吸血鬼の敏捷性(アジリティ)を超える事は出来ない。

 大角が選択したのは《鬼殻鎧》で強化した右脚で一直線に突っ込むシンプルな一撃。

 倒れるように身体を傾けつつ、拳を握りしめる。

 狙うは陽の頭部。


「《大崩(たいほう)》!!!」

「《charge》!!」

    ドゴオオオオオオオオオン!!


 大角の残像が生まれるのと同時に、地を砕く程の勢いで大角に突撃された白い壁一面が、ガラスのように罅割れた。

 未来のラスボスさん、生死不明で次回に続く。

 思った以上に大角が出しゃばってる……と言いつつ、話を3000文字程度で分割するようにしたから話数が増えてるように見えてるだけなんよね。

 

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