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36.ミルル村へ(空路)


 「流石に驚いたぞ……」


 辺りを眩い光と強烈な爆発で埋め尽くした爆炎が徐々に収まっていく中、そんな声が聞こえてくる。

 間違いなく、巨大鷲の声だ。


 ツンと、何かが焼け焦げた匂いが鼻をつく。

 そして、強い光にマヒしていた視界が徐々に機能を取り戻し、爆炎が薄れていくと、巨大なシルエットが浮かび上がってきた。


「まさか、我をここまで傷つけるとは。少しだけでも闘争を楽しむことができれば重畳と思っていたが、なかなかどうして、やるではないか!」


 巨大鷲の片足は見るも無残に無くなっていて、引き千切られたような傷口が露わになっている。

 血は全く出ていない。爆炎の熱量で焼き焦げ、傷が塞がってしまっているからのようだ。


 脚だけではない。美しかった両翼も見るも無残に焼け焦げ、至る所に浅くない傷がある。


 だがしかし、巨大鷲の眼光は依然鋭いままだ。



「むぅぅぅん!!」


 その場でくるりと宙返りする巨大鷲。

 すると、その体が薄緑色の光に包まれ──、傷が全快した。


「マジ?!」


 思わず声を上げてしまう。

 無くなった片脚すら再生する、脅威の回復力。いや、治癒魔法だろうか?


 高次なる(メタ)世界の(バース)創世(ジェネシス)は、既にその効力を無くしている。俺の魔力が尽きたからだ。

 今の俺では、30秒も維持できない程、途轍もない魔力を消費するスキルだから。


 それ故、巨大鷲の治癒魔法を無効化することは出来ない──。


 表情の晴れない俺たちとは対照的に、巨大鷲は目を輝かせ、今までで一番楽しそうに笑っている。


「見事! 想像以上だ! さぁ、さあ! もっと我を楽し「そこまでです」」


 凛と響く美しい声。


「役目を忘れないでください。これ以上の戦闘は不要ですよ、フレースヴェルグ」

「良いところなのだ。止めてくれるな、ウルズよ」

「そうは参りません。必要だから今は許可していましたが、本来ウルザブルンでの戦闘など認められません。それに、彼女たちは私の客人ですよ」

「……むぅ」


 不承不承、という感じではあるけど、巨大鷲──フレースヴェルグは引いたようだ。

 いや、正直助かった。マジでもう余力無いからね。何なら魔力使い過ぎて鼻血出てるからね。


『それは魔力の使いすぎじゃなくて、単にさっき攻撃を受けたからだよ?』


 お黙りっ!

 殴られて鼻血出すより、魔力使い過ぎて血管が切れたテイにした方が格好がつくでしょうが。


 ……ていうか、この巨大鷲はやっぱりフレースヴェルグだったんだね。ビッグネームじゃないですか。世界樹ユグドラシルに住むという鷲の姿をした巨人。

 うん。鷲なのか巨人なのか、どっちなんだよって突っ込みたくなるのはご愛敬。彼? は普通に鷲っぽい見た目だけどね。でも、もしかしたら着ぐるみだったりするのかな?


 そしてあの神々しい美人さんは、ウルズさんでしたか。こちらもビッグネーム。ラスクさんがいたから、ウルズさんがいたって不思議ではないけど、グラースで地球の神話に登場する存在と同名に会うっていうのは、妙な気分だね。


 そんな、益体も無いことを考えていたら、ウルズさんと目があった。


「貴方たちの強さと覚悟を見せていただきました。それだけの覚悟を示せるだけの歩みが、貴方たちの過去にあったのですね。今の貴方たちなら、私の力を使いこなせるでしょう」


 そう言うと、ウルズさんは俺たちを一人ずつ確認するように見て、サクヤ嬢へと近づいた。

 水面を滑るように移動すると、ドレスの裾と薄緑色の長く美しい髪が微風に揺れた。


「サクヤさんですね。貴女が一番私の力との親和性が高いようです。──この力で、多くの命を救ってください」


 優しく微笑むウルズさんが、そっと、サクヤ嬢の額に触れる。すると、そこから清浄な蒼い波動が広がっていく。


浄化の力(ウルザブルン)の力が、貴女の力となるでしょう。

 ──そして、私の加護を、貴方たちに」


 波動はサクヤ嬢だけでなく、ルカ君にも、俺にも注がれる。

 するとどうだろう。

 俺の中に、何かがすっと入ってくるのを感じた。


 決して嫌なものじゃない。寧ろ心地良い何か。


=====================

【名前】 アキト 【年齢】 6歳

【格】  5

【種族】 人族+

【身長】 175cm 【体重】 59Kg

【状態】 重傷/疾患

【総合戦闘力】 5178


【筋力】41 【体格】32

【敏捷】43 【器用】45

【魔力】58 【知能】59


【スキル】

開発Lv6、翻訳Lv6、鑑定Lv6、浄化Lv1、水魔法Lv1、治癒魔法Lv1


【特性】

神族神霊の友

全状態異常耐性、物理耐性、魔法耐性、痛覚耐性


【加護】

創世神の加護(真)

知識神の加護(特)

神霊ウルズの加護


【称号】

創世神のパパ:僕たちの助けが必要な時は呼んでね! ……必要じゃなくても呼んでいいよ。

カネリンの相棒:いつでも一緒だよ!


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=====================



 おお。浄化と水魔法と治癒魔法のスキルが増えて、ウルズさんの加護が増えてる。

 ルカ君も同じように増えているようだ。彼の場合は既に水魔法を覚えていたこともあって、そのスキルレベルが上昇したようだ。


「凄い……、これが神霊の力……」


 ルカ君も感動しているようだ。

 多分だけど、ルカ君は普段神霊が見えてないんだろうと思う。でも、ウルズさんは見えてるんだよね。これは多分ウルズさんがかなり力の強い神霊だからだと思うけど。

 そんな神霊の加護を貰えたんだから、多分目に見えた成長があっただろうし、神霊の加護でスキルが増えるっていう経験が衝撃だったんじゃないかと推測する。この世界、あんまり神霊のことを理解できてる人居ないからね。


 そして、サクヤ嬢は浄化スキルが一気にレベル6まで上がったようだ。元がレベル3だったことを考えたら、相当な上がり幅だ。


「力が……」


 ぼんやりと、サクヤ嬢の体が輝いているように見えた。

 薄緑色? 淡い青色? 清浄な印象を受ける色だ。


「これなら、アキト兄さんを!」


 サクヤ嬢が俺の元に駆け寄ってくる。傷だらけ、血だらけで、斑点が浮かんだ俺の腕を取ろうとする。


「待って!」

「どうして?!」


 手を引いてストップを掛ける俺に、更に詰め寄るサクヤ嬢。


「何て言えば良いのか。……これは病気の治療に必要な措置なんだ。血清療法って言って、今俺の中には黒呪病に打ち勝つ力がある状態だから」

「でも、このままじゃ死んじゃう!」


 涙ながらに訴えるサクヤ嬢。気持ちは分かるよ。斑点が沢山出て(こうなって)死んだ人をいっぱい看取って来たからね。


「サクヤ、彼を信じてあげて?」


 そう言ってくれたのはウルズさんだ。


「彼は力ある神々の加護を受けている。それに……ちょっと特殊な過去を持ってるみたい。黒呪病? この病気も、もう快方に向かってるわ。……見た目だと信じられないかも知れないけど、それは私が保証します」


 あ、そうなんだ。

 まぁ斑点の数は減ってきてるからそのうち治っちゃいそうだなとは思ってたけど。全状態異常耐性は半端ないな。発症した黒呪病も最小限で留めてくれたし、カネリン曰く、俺から誰かに黒呪病を移すことは無さそうなんだって。この耐性のお陰で、基本的に俺の体内でやっつけられるらしい。


「ほ、本当……に?」

「ああ、大丈夫。本当にもうピークは過ぎてるから」


 凄く心配してくれているのが伝わってくる。本当に、今にも泣き出しそうな表情だ。──こんな表情をさせてしまうのは心苦しい限りだけれども。


「斑点が目に見えて増えるようなら、貴女が魔法を掛けてあげれば良いわ。今の貴女の力なら、それで十分病状を改善できる筈よ」


 そうなんだ。そんなに浄化スキルでそこまでできるようになったのかな? それは嬉しい方向の誤算だね。


「……分かりました。……じゃぁ、アキト兄さん、毎日私が病状を確認するからね? 逃げちゃダメだよ? 良い? ちゃんと見せてね?」

「お、おう」


 一転して、今度は物凄い圧を感じる。Noと言えない、言わさない圧が言外に凄く込められている。


「あははっ、本当に強くなったみたいだね、サクヤさん」


 いや、その強さは想定外ですよ、本当。

 というか、笑ってるんじゃないよ、ルカ君。


 でも、そんな俺たちのやり取りを見て、ウルズさんも笑っているようだった。

 えぇい。笑いたければ笑うが良い! 開き直りってやつだ!


「ふふふ。それにしても、こうして貴方たちに力を託すことになるなんて。運命とは数奇なものですね」


 口元に手を当て笑うウルズさん。

 どういうことだろう?


「──さて、話は尽きませんが、ゆっくりはできませんね。……フレースヴェルグ、頼めますか?」

「良かろう。最初は断ろうと思っていたが、彼らは我の期待以上の力を見せてくれたからな。──ミルル村まで送ってやろう」


 マジっすか?!

 それはありがたい。一分一秒でも早く帰りたいから、とてもありがたい。

 なるべく直線距離でここまで来たとは言え、足場や見通しの悪い森の中だ。空を飛んでミルル村まで行けるのなら、相当時間短縮が出来るだろう。


「ただし! 力を貸す代わりにまた我と戦え! 今より強くなり、我をもっと楽しませよ! それが約束できるなら、力を貸そう」


 ……ちょっと嫌だなって思ってしまった俺は悪くないよね? 悪くない、よね?

 別に戦闘好きってわけじゃないから、こんな容赦ない鷲相手に再戦なんてしたくないじゃないですか。断っちゃダメですか?


 二人を見ると、ルカ君はワクワクという視線を、サクヤ嬢は少し嫌そうな視線を俺に向けている。

 ルカ君はフレースヴェルグ寄りなのか?! がっかりだよ!


 まぁ、どのみち答えは一つしかないんだけどね。


「分かりました。そのお約束、お受けいたします」


 って言うしかないじゃないですか。

 すると、フレースヴェルグが嬉しそうに笑った。


「ハハッ、つまらぬ役回りだと思っていたが、この結果なら上々だ。 ──ではな、強き小さき者たちよ」


 ではな(・・・)

 え、今から送ってくれるんじゃないの?


「抵抗するでないぞ。狙いがずれるからな」


 そう言ってフレースヴェルグはその体を一回り以上大きくする。あ、今のサイズよりも大きくなれるんですね。

 そして……。


「え、ちょっと待ってください。もしかして」


 サクヤ嬢も何かに気づいたようだ。

 さっき戦っていた時よりも倍以上のサイズになったフレースヴェルグさんが、大きく翼を──。


「ごきげんよう。また、遊びにいらしてくださいね」


 ウルズさん! 止めて! とても、とっても嫌な予感がするんですっ!

 そんな素敵な笑顔で見送らないでっ!!


「さらばだ!」


 次の瞬間。俺たちは大空へ吹き飛ばされた(・・・・・・・)


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