35.【戦闘】メタバースジェネシス
戦闘回です。ちょっと血生臭いのは……とか、早く結果を知りたい! とっておきの必殺技? 何それ美味しいの? という方は飛ばして頂いても構いません。
飛ばしても話が続くようにしています。多分。(やっぱりちょっと自信がない)
戦闘回2回目です
(サクヤ視点)
アキト兄さんの40秒を、何としても作らないと。
それだけの時間を稼げばきっと、アキト兄さんが場を作ってくれる。
ミルル村を出発する時に貰ったとっておきを使う場を作ってくれるって、そうアキト兄さんが言ってくれたんだから。
私はただ、それを信じて巨大な鷲に向かって矢を放つ。
でも、私の未熟な腕じゃ、吹き荒れる風に軌道を逸らされてしまって矢が届かない。だから、ルカさんの動きをしっかりと見て、攻撃の瞬間に矢が届くように射る!
嵐みたいな風のせいで、泉の水が巻き上がって、足もとはぬかるんでしまっているけど、止まることはできない。その瞬間にカマイタチみたいな攻撃にやられちゃうから。
もどかしい。
私にもっと力があれば、アキト兄さんの時間を簡単に稼ぐことが出来るのに。
私にもっと力があれば、ルカさんが攻撃しやすいように牽制することも出来るのに。
──でも、今はそんなことを考えている余裕はないの。
頭を振って雑念を追い払いながら、次の矢を番えようとした時、ルカさんの腕が巨大鷲に捕らわれてしまった。
「ルカさん!」
咄嗟に矢を射かけようとするけど、巨大鷲はそうはさせてくれなかった。
「遅い!」
簡単に、まるで小石を払うように片翼を動かした巨大鷲。
──その瞬間に途轍もない寒気がした。
思わずその場を飛び退いた瞬間に、私の腕のすぐ隣を何かが通り過ぎていった。
後ろから木が倒れるような音が聞こえてきたけど、振り返る余裕なんてない。
ぬかるみに足を取られて、情けなくも転がってしまった体勢を立て直すのが先! まだ、40秒経ってない!
「そろそろ飽きて来たな。まずはお前からだ」
早く、早く体を起こさないと!
「吹き飛べ!」
──え。
目の前には巨大な何かがあった。それはまるで壁のようだった。まだ立ち上がれていない私の前に、絶望的な壁があった。
避けられない。
思わず目を瞑ってしまった私。
「ここが正念場だ! 諦めんな!!」
頭上から声が降って来た。
アキト兄さんだ。不思議と勇気が湧いてくる、力強い声。
身を挺して私を庇ってくれたんだって、直ぐに分かった。
だから、直ぐに上を向いた。諦めちゃダメ。ちゃんと目を開けて立ち向かわないと!
だけど──。
「あ、アキト兄さん!!!」
それは殆ど悲鳴だった。
目の前にはアキト兄さんの背中があった。両手を広げ、私を庇うように立っているアキト兄さん。
何かをその身に受け、傷だらけになったアキト兄さんの背中。
血だらけ、傷だらけの背中。
おばあちゃんと同じ赤黒い斑点が、浮かび上がった背中──。
◇◇◇
ほぼ無意識だった。
サクヤ嬢が狙われたと分かった瞬間に、体が勝手に走り出していた。まぁ、だからこそ間に合ったんだろうな。
巨大な風の大砲とサクヤ嬢の間に入った俺は、その身で巨大鷲の風を受けた。
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Developer Mode
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・・・
【体格】[▼] 64 [▲]
・・・
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咄嗟にステータスを弄って防御力を上げることが出来た俺を褒め称えたい!
これ、魔力を消費して一時的にステータスを上げるだけだから、頻発できないんだよね。でも、今はとてもありがたい。
多分、素のステータスのまま受け止めてたら死んでたと思う。
それくらいの衝撃だった。
でも、ステータスを上げたくらいじゃどうにもならない威力だったみたいで、体中が痛い。あちこち傷だらけだ。付けていた防具とか服も全部千切れ飛んじゃったみたいだし。
あー、結構血も出てるみたいだし。勿体ない。血清療法に取っておきたいのにっ。
『アキト!』
カネリンの悲鳴のような声が聞こえる。
大丈夫だよ。生きてる生きてる!
『黒呪病に侵された体でそこまでするのは無茶だよ! 全状態異常耐性は万能じゃないんだよ?! アキト自身が重傷を負ったら抵抗力だって……ッ』
関係ないね。俺の全力を尽くすって、ラスクさんやサクヤ嬢と契約したんだから、尽くせるものは何だって尽くしてやるさ。
このドデカい鷲をどうにかするのも、クエスト『ミルル村を黒呪病から救え』も──
「ここが正念場だ! 諦めんな!!」
敢えて叫んだのは、サクヤ嬢やルカ君を鼓舞するため。──いや、それよりも俺自身に喝を入れるためだな。
──準備は整ったことだしね!
そもそも、開発スキルはこのグラース自体を開発──つまり一時的、局所的に変更を加えてしまうことが出来るスキルなんだ。
プログラムによって緻密な魔力操作ができたり、魔法が使えたりっていうのは副次効果に過ぎない。
変更を加えるならもっと大胆に。魔法の発動なんて、開発スキルじゃなくてもできる変更に留まる必要なんてどこにも無いんだ。
詠唱や魔法陣は、魔法という手段で世界に干渉する内容の指定だ。──干渉方法の設計だ。
そして詠唱や魔法陣に世界に干渉する魔力を込める。──デザインした干渉方法を存在させるための魔力を予約する。
干渉した領域に込めた原動力は、世界に新たな法則を作り上げる。──確保した領域に干渉方法をコピーする。
新たな法則は術者の意思で発現し、魔法となって世界に顕現する。──実行を許可すれば、干渉方法に従って世界が書き換わる。
だからこそ、干渉方法を魔法というカテゴリで括る必要なんかない。
そう、俺自身が法の世界を作ってしまえば良い。
創世神から貰った、開発スキルの真骨頂。その名を口にする。
「高次なる世界の創世!!!」
干渉方法は、一切の魔力の使用を俺の許可無しには行えない世界の構築。
「何ッ?!」
暴風が止んだ。巨大鷲も、世界の異変に気づいたらしい。
> 巨大鷲(仮名)が魔力の使用を求めています。対象は敵性勢力リストに記載されているため、魔力の使用を拒否しました。
両翼をどんなに羽ばたかせても、さっきのような暴風は発生しない。その様子に、巨大鷲の表情が歪んだ。
「ルカ! 縫い留めてくれ!」
「おっけー!!」
> ルカが魔力の使用を求めています。許可しますか? [Y/N]
──> Y
「ちぃっ!」
> 巨大鷲(仮名)が魔力の使用を求めています。対象は敵性勢力リストに記載されているため、魔力の使用を拒否しました。
> 巨大鷲(仮名)が魔力の使用を求めています。対象は敵性勢力リストに記載されているため、魔力の使用を拒否しました。
一瞬で、巨大鷲の脚を氷塊で包み込む。そればかりか、地面から生えた巨大な氷柱が巨大鷲の両翼を貫いた。
「サクヤ!」
「はいっ!」
> サクヤが放った魔導具(矢)が発動します。付随する魔晶石から魔力を得る設定です。介入し発動を阻止しますか? [Y/N]
──> N
サクヤ嬢が番えるのは、特別仕様の矢だ。
矢じりにしているのは爆炎の魔法を込めた魔晶石。触れた対象を巻き込み大爆発を巻き起こす魔法陣が刻まれた一種の魔導具だ。しかも、魔晶石に込められた魔力を一瞬で全て消費する鬼畜仕様。スマホアプリで作成した、とっておきだ。
これがどんな物かは既に共有済み。ルカ君は急いでその場を退避して、俺たちの前まで戻ってきて防御シールドの魔法を──。
> ルカが魔力の使用を求めています。許可しますか? [Y/N]
──> Y
発動する。
> 巨大鷲(仮名)が魔力の使用を求めています。対象は敵性勢力リストに記載されているため、魔力の使用を拒否しました。
> 巨大鷲(仮名)が魔力の使用を求めています。対象は敵性勢力リストに記載されているため、魔力の使用を拒否しました。
> 巨大鷲(仮名)が魔力の使用を求めています。対象は敵性勢力リストに記載されているため、魔力の使用を拒否しました。
> 巨大鷲(仮名)が・・・
「おぉおぉぉぉぉぉぉっ!!」
初めて驚愕の表情を見せた巨大鷲を、爆炎が蹂躙した。




