31.発症
黒呪病の原因菌を突き止めた俺。そのキャリアであるバルトマーモットを村の中から追い払ったことで黒呪病は無くなった!
……なんてことは当然無くて。
原因を突き止めて手を打ったから、少なくとも新しくバルトマーモットから感染する患者はいなくなっただろう。しかし、既に村中に黒呪病が蔓延している状況だから、人から人への感染は止まらないからね。流石に病人をどうにかする訳にはいかないからさ。
でも、原因菌が分かったんだ。ここから、原因菌をどうにかできるものが無いかを見つけていけば、薬を作ることができるかも知れないって訳だ。
いや、出来るかも知れないじゃないね、出来るんだ。やるんだ。
そんな決意のもと頑張ること5日。
「駄目だ。さーっぱり見つかんねー!」
部屋の中は、村の中にある色んなものが溢れていて雑然としている。定期的にサクヤ嬢が掃除してくれるんだけど、それすら追いつかないくらい俺が散らかすもんだから、いつまでたっても何かが散らばってる状況だ。
「ぶっちゃけ、村にあるものはほぼ試しきった気がするんだけどな」
勿論、素人観点では、だけどね。
あと、村の中にある物を中心に調べているのにも理由がある。
やっぱりね、オカシイと思うんだよ。マサキ少年たちが全く感染せずに元気なのが。
嬉しいんだよ? 家族同然の彼らが元気なのは、不謹慎ながら嬉しいんだよ? だけど、コケコが来る前はバルトマーモットにだって触ってたんだ。イズミおばあちゃん家は、自前で倉庫を持ってて、そこに食糧を貯蔵してるから、そこにバルトマーモットが出てるんだよね。それを自力で追い払ってたから、感染してたんじゃないかと思うんだよ。
だけど、無症状。
鑑定結果はずっと健康そのもの。
村の他の人たちと同じようなものを食べてるし、同じような生活をしてる。なのに、この子達だけ元気。村の他の子どもは殆ど黒呪病に罹っちゃったのに。
何かあると思うんだよ。マサキ少年たちがやってたこと。もしくはやらなかったこと。
「──と、言うわけで、怒らないから正直に言いなさい」
「何をだよ!」
現在、リビングスペースでイズミおばあちゃん家のキッズと圧迫面接中の俺。
テーブルを挟んで、キッズと向かい合う形で座って、キッと厳しい視線を向ける。──が、マサキ少年以下4名、全くビビる様子が無い。圧迫面接とは。
「君たち4人が黒呪病に罹らないのには何か理由があると思うんだ。だから、ミルル村の他の人たちとは違うことをしてるか、他の人たちがやってることをやってないか、思い当たることがあったら教えて欲しい」
「そんな事言われてもなぁ」
「特別なことは何もしてないと思いますけど」
「んー、可愛いを探してること?」
「……腹減った」
シズクちゃんとテンマ少年の発言は質問に対する答えになってない気がする。特にテンマ少年、それは今の君の感想だ。
因みに言葉遣いが荒いのがマサキ少年で、丁寧なのがリヒト少年だな。
「ほらほら、思い出すんだ。何かやってないか? 何かできてないことはないか?」
「だから分からねぇっつぅの」
「うーん、何かある筈なんだけどなぁ」
食べる物も他の村人とあまり変わらない。
コケコの卵は他の人たちと違って良く食べてるけど、偶にお裾分けしたり、物々交換させてもらったりしてるから、他の人たちも食べてたりする。まぁ、栄養満点っぽいから滋養強壮効果はあるみたいだけどね。
生活スタイルも特に変わらない。寧ろ最近は病棟に良く出入りしてもらっちゃってるくらいだから黒呪病にも近い場所にいる。
「あ、可愛らしいお花よく探してるよ?」
「うん。シズクはそういうの良くやってるよね。何か可愛い花見つかった?」
「うーん、ここ最近はあんまり無いかなぁ。ビビっとくるものが無いんだよね。森の中に行けばあるかもだけど、あんまり行けて無いし」
「そっかー、それは残念だね」
駄目だ。シズクちゃんからは聞き出せそうにない。
「テンマはどう?」
「……ごはんが足りない」
「いや、最近は結構食べてるよね?」
どうしても足りないときはアイテムボックスの中から補充したり、スマホアプリで増やしたりして食べてるから、間違っても足りないなんてこと無い筈なんだけども。
どこまで食いしん坊なんだ、テンマ少年。
……でも、不思議なことに太ってはないんだよね。体は大きいけど。
「……そう言えば」
「おっ、リヒト何かある? 何か思いついた?」
ぐいぐい行く俺に、やや引き気味のリヒト少年。失敬な。
「最近ニルギの森でおやつ探しはしてませんね」
「お、何それ。初めて聞くよ?」
「あー、確かに! そういえば兄ちゃんが来た頃からあんまり行かなくなったなー。兄ちゃんが食べ物くれっから」
「……おやつ」
「くわしく!」
食べ物の話題にはばっちり食いついてくる腹ペコ少年テンマは一旦放置。
マサキ少年とリヒト少年が言うには、俺がミルル村に来るまでは、良くニルギの森に入っておやつになる花を探してたんだそう。
可愛らしい花が咲く植物らしいんだけど、その根っこが案外美味しくて、良く採りに行っていたそうだ。リヒト少年が言うには、百合の仲間だろうとのこと。
「そんなもの食べてたんだな、君たち」
「だって腹が減るんだから仕方ないじゃん。けど、本当に案外美味しいんだぜ? 軽く火で炙るとほくほくして、ほんのり甘いんだ」
「お花も可愛いしね」
「そうでしたね。シズクは花を集めてましたね」
「うん。だって勿体ないじゃない、あんなに可愛いお花なのに。真っ白なお花で花束を作ったら可愛いでしょ? 髪飾りにしても良いんだよ」
「……おやつ……(じゅるり)」
ほほー。それは初耳ですな。
……ん? 白い花? 記憶の中の何かに引っかかる。何だったっけ。何か覚えがあるような……。
『あ、マンドレイクの時じゃない?』
「それだ!」
「うをっ、吃驚したっ」
「急に大きな声を出さないでください」
「どうしたの~?」
「おやつ?」
おっと。カネリンの声に思わず反応しちゃった。
キッズよ、申し訳ない。そしてテンマ少年、別におやつに反応したわけじゃないから勘違いしないように。
「ごめんごめん。アレだよ、俺がニルギの森で迷ってた時、マサキが森の中で倒れてたじゃん。あれ、おやつ探し中にドジ踏んだんじゃないの?」
「あー、そうそう! 間違ってマンドレイク抜いちゃったんだよ」
「ちょ、それは本当に危険ですよ。大丈夫だったんですか?」
「大丈夫大丈夫。ちょっと気を失っただけだから」
「全然大丈夫じゃないです。……アキト兄さんはマサキの命の恩人だったんですね。ニルギの森の中で気絶なんて、危険すぎますよ」
まぁ、イノシシやら鹿やら色々いるからね。あんなところで寝てたらやられちゃうよな。
というか、あんな森の中でマサキ少年が倒れてたのは、そんな理由があったんだな。……腕白が過ぎるだろう。
「良いじゃねぇか。俺が採って来たやつ、みんな喜んで食ってたじゃん」
「いやいや、一人でニルギの森に入るのは危険だから、やめろよ、本当に」
でも、その花の根っこ、何だか怪しいな。
百合なんだったら、百合根になるのかな? ちょっと探してみる価値ありだよね。
◇◇◇
流石にマサキ少年に百合根らしきものを採ってきてって頼むのは危険が危ないので、サクヤ嬢と一緒に行ってもらった。
真っ白な花……の、根っこ。
うん、記憶にある百合根にそっくりだ。
鑑定してみたら『ニルギユリ』ってなってるから、野生の百合根なんだね、これ。
因みに、ニルギの森にしか自生してない固有種みたい。どうやらマンドレイクの近くでしか育たないらしい。共生関係にあったりするのかな?
まぁ、それは別に良いんだよ。
今確認すべきは、これが黒呪病にどう影響しているのか、していないのかだ。
「おいおいおい、これ……」
『うん。凄いね、黒呪病菌に効果がある』
結果、効果があった。
特効薬という程では無いけど、菌の繁殖をかなり抑制する効果があるっぽい。ちゃんと鑑定で分析しながら試してるから間違いない。
ってことはだよ。
この百合根を食べてもらって、浄化の魔法を併用すれば、菌を効果的に減らせるんじゃない?
『うん。十分あり得るね。浄化の魔法を人にかけると、人に有害なものを一時的に弱らせたり消したりする効果があって、それが体内の黒呪病菌にも効いてたからね。ニルギユリの百合根と併用したら、体内の黒呪病菌を減らせる可能性は高いよ』
だよな。
だよなだよな!!
これは大発見だぞ! もしかすると黒呪病を治せるかも知れない。
小躍りしそうな俺。
座っていた椅子から腰を浮かせてガッツポーズをしようとした瞬間、凄い勢いで部屋の扉が開いた。
「どうしよう、アキト兄さん!」
入って来たのは、ぼろぼろと涙を流すサクヤ嬢だ。
「おばあちゃんが、おばあちゃんが……っ」
──イズミおばあちゃんの体に、赤黒い斑点が表れた。




