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28.がむしゃらな一か月


 ミルル村のみなさんの協力が得られた。

 サクヤ嬢やラスクさんに、全力を尽くすと約束したけど、それを実行するための最低限の下地を作ることができた。上手く行くとはあまり思っていなかったけど、得られた結果は最上のものと言って良いだろう。だから、あとは全力を尽くすのみだ。


 では、やるべきことは何だろうか?


 クエスト達成の目標は、ミルル村を黒呪病から救うこと。

 だけど、これは正直なところ努力目標だと思っている。最低限達成すべき目標は、イズミおばあちゃんとサクヤ嬢を救うこと。

 これを達成するためには、二人を連れてミルル村を出れば良い。それもなるべく早く。今のところ、二人とも発症はしていないのだから、この場から離れるのが一番だろう。


「でも、流石に駄目だよな」

『だね……』


 彼女たちの命を救うことは、それで可能なのかも知れない。けれど、それを実行したら、きっと、皆が後悔する。それに、そんな状態でイズミおばあちゃんやサクヤ嬢を救ったと言えるのか、疑問が残る。


「このクエストは時間制限(タイムリミット)が設定されたクエストだ。時間切れになったら、然るべき行動を取る必要がある。最終手段ではそうする必要があるけど、あくまでそれはクエスト失敗と位置づけよう」

『了解。私もそのつもりでサポートする』

「サンキュー」


 じゃぁ、そうならないためにやるべきことは何か。

 ぶっちゃけ、書ききれないくらいいっぱいある。


 まず、ルカ君が言っていた『黒呪病』といいう名前を使ってはいるが、そもそもこの体調不良が病気なのかどうかもはっきりしていない。直感では病気だと思っているけど、確証はない。原因が不明だから、有効な対策が立てられない状況なんだ。

 黒呪病の発症状況を正しく把握できていないことも問題だ。最終的に体のあちこちに赤黒い斑点が浮かび上がってくるという、視覚的にかなりショッキングな症状が出てしまうこともあって、皆が正直に病状を伝えてくれていない。村長たちもあんな状況だから、それを追及してもいない。これは体調不良の人たちを救うという観点からも良くない状況だし、黒呪病の正体を推察する観点からも芳しくない。

 他にも、これ以上黒呪病をなるべく広めないようにする対策も必要だ。最終的に全員が床に臥すなんてことになったら完全にアウトだ。


 村の中だけに視点を向けるわけにも行かない。

 ある程度の自給自足は可能なミルル村だが、それはある程度の人数が健康でいることが大前提だ。今のままだと直ぐに行き詰まる。その時も封鎖が続いているような状況になると、これもアウトだ。


 黒呪病だけに視点を向けるわけにも行かない。

 これからは厳しい冬がやってくる。冬は農作物が育たないから、塩漬け野菜や貯蔵している大麦なんかが頼りになるけど、たんぱく源は狩りで賄っている。今のままだと、確実に冬を越すことができない。


 コストだって有限だ。

 村の貯えに余裕は無いし、薬なんかは殆ど無いに等しい。それに、解決までに時間がかかればかかるほど、解決後の生活が揺らいでしまい、どのみち生活ができなくなってしまう。


 加えて、潜在的なリスクがどれだけあるのかがさっぱり把握できないことだ。

 これは、俺があまりミルル村やグラースに詳しくないから、リスクに対する勘が働かないという、そこそこ致命的な問題だ。



 うん、こんなプロジェクト立ち上げたら、グダグダになってデスマーチまっしぐら決定だよな。関わりたくない案件だ。

 でも、何とかしなきゃだ。うん。



  ◇◇◇



 現状の問題点ややるべきタスクは何か? 一つ目は詳細な現状の把握だろう。

 誰がどういう病状なのか? いつ頃発症したのか? 発症前にどんな食事や行動をしていたのか? なんかの質問を、全村人に行って状況を把握する。

 これはサクヤ嬢にとりまとめお願いした。そしたら、マリちゃんも手伝ってくれることになって、今は二人で情報を整理してくれている。


「ちゃんとみなさん教えてくれるでしょうか?」

「そんな奴は蹴ってでも吐かせればいいのよ。それでも吐かないなら無視よ無視。アキトだっけ? アイツ、協力しない奴は見捨てて良いとも言ってたじゃない」

「確かに言ってましたけど、それとこれとは違うような……」


 マリちゃんが結構過激だけど、大丈夫だろうか。

 でも、他に人員も居ないし、上手く行くことを期待しよう。



 二つ目は備蓄の詳細把握だ。

 これは村長権限が必要になってくるので、現状村長代行となっているヒロキ君にお願いした。倉庫の中身の正確な把握と、各家庭が持っている食料や薬なんかも把握させてもらう。

 各家庭が持っていた薬やら何やらで、使えそうなものがあったら、俺のスマホで撮影してもらう形で提供してもらう。物質のコピー機能万歳である。


「これ、どんな魔導具なんだよ?! ナンテールの街とかでも見たことないよ」

「ヒロキ君を信頼して話したんだからな。秘密は守ってくれよ?」

「いや、言っても誰にも信じてもらえないと思うけど……」


 そんなやり取りがあったりしたけど、作業は順調に進むと信じてる。



 三つ目は発症者の隔離だ。

 正直、隔離が効果を発揮するのかは分からないけど、黒呪病が病気なら、蔓延スピードを抑えることができるかも知れない。呪いの類だったら効果は無いかも知れないけど、隔離すること自体が悪手になるとは考えづらい。だからやることにした。担当者は、二つ目と同じだけどヒロキ君。勿論、実働部隊? として、動ける大人にも協力してもらう。


「これ、文句言う人出てくると思うけど……」

「そこを何とかするのがヒロキ君の腕の見せ所だよ。各ご家庭を回って薬配るのも大変だろ? 怪我人を一か所に集めて治療するのと同じだから文句を言うなって強権発動しちゃおう」

「無茶苦茶な……」


 無茶でもやらねばならぬことがあるのです。


「あ、そうだ。俺も準隔離措置をとるからね」

「え、それはどういうこと?」

「いやさ、これから黒呪病の解析を進めるんだけどさ。そうなると俺は常に黒呪病の原因と隣り合わせの生活になるんだよ。だから、俺と会話したら手洗いうがいをちゃんとして欲しい。本当は水浴びくらいして欲しいけど」

「……分かった。だけど、その……解析するなんて大丈夫なの?」

「大丈夫じゃなくても、誰かがやらないと駄目なんだ。ミルル村で一番の適任は多分俺だから、この役はもう決定なんだよ」

「……本当に、大丈夫なのかよ……」

「心配してくれるなら、気合入れて旗振りをやってくれ。それが、俺やミルルの村の人たちのためになる」

「……分かった」




 四つ目は外部への支援要請だ。

 領主であるリンバート子爵に見捨てられたから、そんな支援してくれるところなんて無いんじゃないかって?

 あるじゃない、封鎖されてないご近所さん。


「本当にやるの? マルシェ=ブレを治めてる子爵さんは変狂伯……じゃなかった、辺境伯の腹心で結構狂ってるって噂だよ? っていうかかなりアブノーマルな人だよ」


 不安そうにそう言うのはルカ君だ。


「だって、本来は領境で通行税が取られるけど、今は警戒ラインがハヤ川になってるから、脇道からミルルに通行税無しで来れちゃうんでしょ?」

「そうだけどね。流石にそこまで守ってられないっぽいから、衛兵は居なくなってるみたい」

「それを教えてあげるだけでも、もしかしたら商人が来てくれるかも知れない。 それに、マルシェ=ブレには冒険者ギルドもあるんでしょ?」


 そう、冒険者ギルド。ファンタジー定番の、冒険者ギルドだ。【グラウィス】には当然のように存在していたけど、グラースにもちゃんとあるらしい。しかも、少なくとも建前上はどこの国にも属していない国際的な機関なんだとか。ルカ君はそこに登録している冒険者なんだ。


「確かにあるよ。それに、報酬があればクエストを出せるのもその通りだけど、本当にやるの?」

「やる。マルシェ=ブレに支援要請をして、冒険者ギルドにも不足物資をミルルに運んでもらうクエストを出す」

「どっちも上手く行かないと思うよ? マルシェ=ブレ側に何のメリットも無いし、向こうも黒呪病で余裕はほとんど無い。 クエストだって、冒険者ギルド、というか冒険者自体が乗り気になるとは思えないなぁ」

「その時は、ルカ君がマルシェ=ブレで黒呪病の調査をして戻ってきてくれたら大丈夫だから。どんな対策をしてて、どんな薬が効いて、どういう感染状況なのかってあたりをさ。冒険者の間で広まってる噂とかさ」

「……分かったよ。ミルルのみんなには良くしてもらってるし、国内どこ行っても黒呪病からは逃れられないっぽいし、唯一この近辺でマシそうだったナンテールには入れそうにないから、僕個人としては協力するけどさ。諸々の報酬はどうするの? 少なくとも冒険者ギルドは報酬が無いとクエスト依頼できないよ?」


 そう言うルカ君に、拳大の魔晶石を5個ほど取り出して渡す。

 アイテムボックスの中に死蔵されていた奴の一部だ。


「はぁ?! 何この魔晶石」

「足りる?」

「足りるも何も、これ1つが金貨10枚くらいになると思うよ!? 何で君がこんなもの持ってるの?」

「それは企業秘密で。 これ、1つはそのままルカ君にあげる。だから、暫く、ミルルの為に協力して欲しいと思ってる。勿論、マルシェ=ブレに行くついでに、これを指名クエストって形で冒険者ギルドに登録して、ルカ君の実績にしてもらっても構わない。……うん、寧ろクエストって形でお願いするのが良いんじゃないかな? 月にその魔晶石1個、危険手当込みの価格。どうだろう?」


 因みに、金貨1枚が大体10万円くらいの価値がある。だから、あのサイズの魔晶石は100万円くらいの価値があるって事だね。


「太っ腹だなぁ……。分かったよ、協力する。でも、月にこのサイズの魔晶石1個は流石に貰い過ぎだ。マルシェ=ブレで換金してくるから、報酬は月に金貨3枚とミルル村滞在中の宿と食事で。危険手当は別途って形でどうだろう?」

「オッケー。契約成立」


 ということで、ルカ君も正式にこちらに引き込んで対応してもらうことにした。

 まぁ正直、支援要請でマルシェ=ブレ側や冒険者ギルドが対応してくれるとは思ってないけど、何もしないと先細りしかないミルル村の状況を考えれば、将来芽が出るかもしれない種まきは必要だと思うんだよね。それが例え無駄になったとしても。



 そうだね。やると決めたんだから、徹底的にやるべきなんだ。

 自分にできることなら、どんな事でも──。



 そんな感じで色々始めた俺たちだけど、直ぐに目に見えるような成果が出るわけでも無く。

 およそ一か月が経過した──。



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