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21.【戦闘】Battle proof of Akito

少しばかり過激な描写を含む戦闘回です。ちょっと血生臭いのは……とか、早く結果を知りたい! という方は飛ばして頂いても構いません。

飛ばしても話が続くようにしています


 開発スキルを起動して、早速プログラミングを開始する。

 眼前に広がる半透明の画面の数々と、手元に展開するバーチャルキーボードとマウス。


 引数に、座標と威力だけをセットして、単純な炎を発生させるだけの魔法を構築する。引数が無かったら眼前2メートルで第三位階レベルの威力で起動するように設定。

 これくらいのプログラムなら慣れたもので、10秒程度で構築可能だ。その後はコマンドからビルドして実行モジュールを作成。ここまで15秒。これで、火魔法の準備が完了だ。


 因みに、この位階は魔法の強さを表す開発スキル内での基準だ。細かい威力設計もできるけど、この定義で威力を設定すると、それぞれの位階で中程度に相当する威力で発動してくれる。

 今俺が選べるのは、第一位階から第四位階まで。


 第一位階を設定すると、ちょっとした火起こしや手洗い水を出せる程度の魔法になる。

 第二位階であれば、無防備な人にぶつけると対象を制圧できる程度の威力になる。当たりどころが悪ければ死んじゃうかも? って感じの火の玉が出る。

 第三位階は、10人程度の無防備な集団を制圧できる威力だと思う。勿論、プログラム設計次第で変わるけど、単純に火を起こすだけだとそんな感じだ。

 第四位階は、まだ使ったことがない。気軽に試してミルル村を焼き払えるような威力だったら目も当てられないだろ? だから今のところ封印中。


 さて、火魔法以外にも魔法も保険として準備しておく。使える魔法は全部投入だ。


『本当に大丈夫?』


 おう、武者震いなのか何なのか、手とか脚が震えて仕方ないけど大丈夫だ!


『……無理しないでね、アキト』


 任せなさい。オーガぐらいならタイマンでやっつけられるくらいには強いんでしょ? 何とかなるって!

 ……なんて、自分で自分に言い聞かせながら、覚悟を決める。恐怖に立ち向かう覚悟と、人を殺すかも知れない覚悟の両方だ。


「最初はデカいの行っとくか」


 俺はあえてそう言葉にしながら、索敵の魔法で21人の盗賊がいる位置を確認した。

 ……この小屋まであと100メートルってところか。折角だ、吃驚してもらおうじゃないの!


「んじゃ、行くぜ。二人とも、気を付けてな」


 俺はそういうと、一人、宿泊小屋から躍り出て、即座に魔法を発動させる。


 ──コマンド入力、相対座標で眼前……95メートル。威力は第三位階。……を、並列で3つ起動!



「ぐわああああっ!」

「ぎゃあああああ!!!」


 朝焼けの草原に、火柱が三本立ち上った。薄明るくなってきた草原が赤々と照らされ、火柱から四つの火達磨が転げ出てきた。どうやら4人に命中したようだ。全員を焼き払えたら良かったんだけど、流石にそう上手くはいかないか。

 その瞬間、俺の後ろを忍び足で急ぎ駆け出るヒロキ君とサクヤ嬢。うむ、完璧なタイミングだ。いきなり現れた火柱に目を奪われているであろう瞬間に小屋から脱出する。あとは草陰に隠れながらこの場を脱出してもらうのみ。

 てなわけで、まだまだ派手に行きますか!


 ──コマンド入力、相対座標で右斜め80メートルと、左斜め80メートルに、第三位階で3つずつ!


 再び立ち上る火柱。

 消えかかってはいるものの、最初のものを含めると計9つの火柱が草原を照らす。盗賊たちの近くで魔法を発動させたからだろう、幽鬼のような人影が炎を受けて早朝の草原に揺らめいた。


 その次の瞬間、残りの17人が一斉に俺の方へと向かって走り出した。それも、真っすぐ。


「おいおい、マジか!」


 正面に火柱があろうとお構いなしに突っ込んで来る盗賊。というか、自分から進行方向の火柱に突っ込んで火達磨になってる奴までいる始末。どうなってるんだ、グラースの盗賊は?!


『いや、あれは流石におかしいよ。ちょっと調べてみるから時間頂戴』


 分かった。分析よろしく!

 というか、明らかに触れるな危険レベルの火柱が上がってるのに、態々そこに突っ込むとか正気の沙汰じゃない。


「畜生、段取りが台無しだよ!」


 火柱の間をあえて開けることで、自分の正面に敵が集まるように仕向けたっていうのに、まさか火柱をものともせず向かってくるなんて想定外も甚だしい。

 でも、まだ盗賊たちとの距離はある。真っすぐ突っ込んでくるなら丁度いい。


「足元にご注意願います、ってね!」


 落とし穴魔法『落とすんです』

 こっちはちゃんと使い勝手の良い魔法としてプログラムしてるから、座標を直接入力する必要は無い。カメラアプリみたいな、目の前の風景がそのまま反映されている画面をタップすると、その位置に魔法が発動する。しかも、タップの回数で威力(位階)も変えられる素敵仕様。

 ニルギの森のイノシシだって落とせるように調整済の土魔法なんだから、真っすぐ向かってくる盗賊を落とすなんて簡単だ。第二位階で発動すると、穴の深さが10メートルくらいになるから、いずれもダブルタップで発動!


 すると、面白いように落ちる。盗賊たちが。

 一つの穴に二人以上落ちてるところもある。


「イノシシより猪突猛進の盗賊って何なんだよ」


 思った以上の効果に驚きつつ、ダマスカス鋼大型山刀を引き抜いて右手に持つ。やや黒めの刃を持つ刀身が、朝焼けと炎の明かりを受けて煌めいた。


『7人、来るよ!』


 魔法で半分以上減らすことができたのなら上々の結果だろう。多少の段取り違いはあったものの、『落とすんです』が思いの外効果的だったのが良かった。

 元々100メートルほどしか距離は無かったわけだから、足の速い大人なら10秒ちょっとでここまで来れるんだ。流石にこれ以上魔法で迎撃するのは難しい。実際、一番近くまで来ている盗賊との距離は5メートルを切っているだろう。


『相手の総合戦闘力は1452! 気を付けて、それなりに強いよ! イノシシ1.5頭分くらい』


 カネリンの言葉に、山刀を握る手に力が入った。

 正直、ガチガチだ。これじゃ駄目だとは分かっているけど、いざ、盗賊を眼前にすると、萎縮してしまう。傷つけられることに対しても、傷つけることに対しても、言葉の上でしか覚悟できていなかったんだと、腹が立つほど実感させられた。


 何が、囮になるだ。

 なんでそんな事ができると思ったんだ。

 異世界だからって、ちょっとスキルを手に入れたからって調子に乗ってたんじゃないか?


 盗賊はショートソードを振りかぶり、襲い来る。もうすぐそこだ。あと一歩踏み込みながら、その凶刃を降り下ろせば、俺の頭は血にまみれるだろう。

 マジか。

 ヤバい。

 早く、早く、何とかしないと。

 なんとか……。



『しっかりしろ、アキト!』



 脳内に響くカネリンの声。怒声にも似たそれは、固まりかけていた俺の意識を無理やり溶かした。



 ──そこからは、勝手に体が動いた。


 ショートソードの刃に山刀を合わせる。刃と刃がかち合ったその瞬間、俺は手首の力を抜いた。金属と金属がぶつかる音ではなく、シュルル、と金属同士が擦れる音がする。

 降り下ろした一撃は、俺の山刀の刃に沿って逸れていく。真っすぐ振り下ろす筈だった凶刃が、僅かに左に流れた。それと同時に俺は、やや右前へと一歩踏み込んだ。がさりと下草を踏む音と、火花散るほどの金属同士が擦れる音。そして──


「ぎゃああああああ!!!」


 すれ違いざまに山刀を薙ぐと、盗賊の側頭部を刃が裂き、血飛沫が舞った。


 相手の剣撃を自らの剣で逸らし、空いたスペースに体を置きつつカウンターを見舞う。剣道にもある動きの一つだ。稽古で、試合で、何度も何度も使った技だ。勿論、その時はすれ違いざまに相手の面を叩くのだけれど、今は違う。より早く、より効果的に──。

 山刀の剣閃は一人目の盗賊の左目から側頭部を、容赦無く切り裂いた。


 びしゃり、と俺の顔に血飛沫が張り付く。熱湯をかけられたようでもあり、冷水をかけられたようでもある良く分からない感覚。だけど、べったりと張り付くそれはまるで呪い。軽く目を閉じることが出来たため視界に影響は無かったが、俺はこの感触を一生忘れられないだろうと本能的に思った。


 崩れ落ちる盗賊を横目に見つつ、次の相手へと視線を向ける。


『右前、武器は同じ』


 カネリンの声に従うように視線を向けると、今度は俺を突き殺そうと、ショートソードを引く盗賊の姿が、すぐそこにあった。


 そういえば中学生の頃、体育の授業で剣道をやったことを思い出した。

 偶々剣道部が強くて、体育の先生が剣道部顧問だったこともあって実現した授業だったけど、その時俺はまだ剣道未経験だった。そんな俺が剣道部のクラスメイトと試合をしたんだけど、俺の攻撃は悉く躱されて、相手の竹刀にすら触れることが出来ず、ボコボコにされたっけ──。

 あの時は、どうして全く当たらないんだと不思議に思ったけど……。なるほど、剣道部のクラスメイトはこんな気分だったんだろうな。


 盗賊は、剣に関しては素人同然なのだろう。基本も何もなっちゃいないから、一つ一つの動作が遅い。ああ、そんな風に剣を引くってことは、剣を突き出してくるつもりなんだろうな。脚の動きでタイミングも分かる。後半歩だろ? それにそんなしっかり腹を見てたら狙いもバレバレじゃないか。


 左足を踏み出して……、ほら、思った通りショートソードを突き出してきた。腹の真ん中だ。

 じゃぁ、俺は左斜め前に踏み出すだけで簡単に回避できるな。しかも、そうすると無防備な君の横顔が丁度俺の目の前だ。


 唐竹一閃。


 必要以上に振りかぶることなく、必要以上に力むことも無く。ただ振り下ろした瞬間に手首のスナップを利かせて腕を振り切れば、眼前の盗賊の側頭部に血の花が咲き、そのまま肩まで切り裂いていく。


『左!』


 声に従って見やると、突きを放とうとしている三人目が目に入る。


 今度はその瞬間に、俺の体が動いていた。


 右足をすり足で大きく踏み出す。自然と沈む体。盗賊は俺の動きを見て突きの軌道を変えてきたが慌てることは無い。腕だけの突きに大した威力など乗るわけがないのだから。俺は低い姿勢のまま剣を振り上げる。狙いは盗賊の武器。俺自身のステータスもあってか、盗賊はショートソードを手放してしまったようだ。クルクルと回りながら弧を描き飛んでいくショートソード。その刹那に左足を引き態勢を整えると、そのまま袈裟懸けに山刀を切り下ろす。


 確かで不快極まり無い手ごたえ。

 べっとりと血に濡れた服が体に張り付いて不快極まり無い。


『正面。……と、後ろ!』


 カネリンの声を聞いた瞬間、俺は正面の盗賊へ一息に飛び込んでいった。囲まれたら厄介だからだ。それに、次の動きが手に取るように分かる相手の懐へ飛び込むことに、然程危険は感じない。

 正面の盗賊は慌てて半歩下がるが、それは悪手だ。俺はそのまま盗賊に体当たりし、その勢いでショートソードを持つ手を跳ね上げる。無防備にさらけ出された胴へ横薙ぎの一閃を見舞う。


 ……手ごたえが軽い!


『血糊のせいだよ』


 なるほど。当然だが、人に限らず生き物を切れば刃に血や脂がつく。以前、戦場で刀を使い続けることができない理由がそれだと聞いたことを思い出した。

 とはいえ、今ここに留まるのは危険だ。囲まれると一気に不利になる。 手ごたえは軽くても、深手を負わせることが出来た筈。俺はそのまま盗賊の向こう側へと抜けてから振り返った。


 眼前の盗賊は背を丸め、蹲るようにしてはいるものの、まだショートソードを構えるだけの力は残っているようだ。


『左右から来てる! これで最後』


 咄嗟に後方へと飛ぶと、左右から迫りくる盗賊が視界に入った。これで残りは四人。

 手元の山刀はもう使い物にならないのかも知れない。そうすると、打ち合うのは不利だろう。


 俺は山刀を離し、更にもう一歩後退しながら開発スキルを起動した。


 ──コマンド入力、火魔法。引数を入れる時間は無いからそのまま発動!


 すると、俺の眼前二メートルの位置に10本目の火柱が出現した。


「ぎゃああああっ!!」

「があああっ」


 それはちょうど、四人の盗賊全員を巻き込み、燃え上がる。

 間近で発動したそれは、容赦なく盗賊の体を焼いた。


 こみ上げる不快感。何かを吐き出しそうになるのをぐっと堪え、生々しいほどの悪臭に思わず顔を顰めた。



『お疲れ様。近くに来てた21人は討伐完了だね』


 カネリンの声が、どこか遠くの出来事のように思えた──。



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