第8章 「御縄を頂戴!真紅に輝くレーザーウィップ」
もっとも、巨大ツチノコが側車付地平嵐の攻撃に血眼になっていたのは、私達とすれば好都合だったね。
そうして注意を引き付ける事が出来れば、色々と捗るって寸法だよ。
例えば、こんな風にね!
「よしっ!良いぞ、吹田千里准佐!一発キツいの御見舞いしてやれ!」
「はっ!承知しました、和歌浦マリナ少佐!地平嵐、突撃!フルスロットルで突き進め!」
上官の指令を受けた私がヘルメットのマイク目掛けて叫べば、撃てば響く勢いで武装サイドカーのエンジンが唸りを上げたの。
そうしてアクセルを思いっ切り踏み込んで、グングンと加速していったんだ。
ヘルメットのバイザーに表示された速度計の数値が、面白いようにみるみる上がっていくよ。
「チッ…チチイッ!?」
幾ら威嚇しても、毒液を浴びせかけても、目下の敵は全く怯む事なく突っ込んでくる。
流石の巨大ツチノコも、これには驚いちゃったみたいだね。
とはいえ、こんな序ノ口で驚かれても困っちゃうんだよなぁ。
本当のお楽しみは、これからだよ!
「地平嵐、ジャンプ!そのまま飛び上がれ!」
私の声に応じるように加速をつけた武装サイドカーは、そのまま滑らかな動きで車体を持ち上げたんだ。
陽動とも兼ねた威嚇射撃の合間に試みた助走は、ウィリー走行の姿勢を取った側車付地平嵐を宙に浮かせるには充分だったの。
空転するタイヤが立てる轟音も、無公害エンジンの動作音も、痺れる程に頼もしいね。
これぞ正しく、我が鋼鉄の愛馬の嘶き声だよ。
「やれっ、地平嵐!マシンアタックでぶちかませ!」
そうして的確に捉えた標的目掛けて、一直線に突っ込んだんだ。
「ギイッ!?」
頑丈なフロントカウルを用いた突撃がマトモに頭部へ直撃しちゃって、巨大ツチノコも苦しそうだね。
空中へ放り出された拍子に、さっきまでガッチリと咥えていた尻尾まで離しちゃって。
まあ何にせよ、巨大ツチノコが隙だらけになったって事だけは間違いないよ。
尻尾を咥えた防衛態勢は既に崩れちゃったし、空中に放り出された状態では方向転換も難しいからね。
側車付地平嵐の突撃をマトモに食らって吹き飛ばされ、流石の巨大ツチノコも形成不利みたい。
アイツが空中でまごついている間こそ、千載一遇のチャンスだよ。
だけど惜しいかな、そろそろ私も選手交代なんだよね。
何しろ血気盛んな特命遊撃士は、私だけじゃないんだからさ!
「好機到来ですね、京花さん。私達も千里さんに続きましょう!」
「よし来た、英里奈ちゃん!あの巨大ツチノコの三下野郎を、キッチリと型に嵌めてやろうよ!」
レーザーランスを慎ましやかに携えた華族令嬢の上品さとは対照的に、今日の京花ちゃんは殊更に口が悪いなあ。
きっとこれは、堺東の名画座で見てきた特撮任侠映画に毒されちゃったせいだろうね。
堺電気館の館長や支配人も、アナーキーな上映プログラムを組んだ物だよ。
そもそも「SF国定忠治・赤城山の大怪獣」と「次郎長一家VSサイボーグ八犬士」の二本立てなんて、どういう層を狙ってるの?
もっとも、どんな映画を見ようと京花ちゃんの自由だし、切った張ったの任侠物と迫力満点のSFXは士気高揚に最適なのかもね。
こうして戦場に出た以上は、闘争本能の高さが勝利と生存に繋がるんだよ。
「どうやら気合充分のようですね、京花さんは。それでは御頼み申しますよ。」
「任せて、英里奈ちゃん!あの腐れ外道のドサンピンに、落とし前をつけさせてやるから!」
個人兵装のレーザーブレードまでドスみたいに構えちゃって、京花ちゃんったらすっかり侠客気取りだよ。
だけど白い柄から迸ったのは、真紅に輝く光刃じゃなかったんだ。
「私の鞭捌きを見せてあげるよ!伸びろ、レーザーウィップ!」
フォトン粒子独特の匂いを伴って迸った真紅の光は、細長くて平べったい帯状に生成され、新体操のリボンよろしくヒラヒラと空中にたなびいたんだ。
この真紅に輝く光の帯こそが、電光鞭・レーザーウィップ。
京花ちゃんが個人兵装に選んだレーザーブレードへ、今年の上半期に搭載されたばかりの新機能だよ。
「そ〜れっ!とっとと御縄を頂戴するよ!」
持ち主の朗らかな声に応えるように、真紅に輝く光の帯は秋の青空へ勢いよく舞い上がったの。
靭やかにして滑らかな動きは、あたかも赤い光の蛇のようだったね。
「ほっ、やっ!」
宙に舞ったレーザーウィップが光の蛇なら、それを操る京花ちゃんは、指し詰め軍装の蛇使いって感じかな。
あの巧みに効かせた手首のスナップがあってこそ、レーザーウィップも重力を無視するかのような動きを実現出来るんだよね。
そして自由自在に空中を躍動するレーザーウィップは、撥ね飛ばされた巨大ツチノコの肥大化した体躯に巻き付いたんだ。
「よし、捕らえたよ!この大物をね!」
「ギギッ?ヂイイイッ!」
青いサイドテールをヘルメットの裾から食み出させた少女士官の快活な声とは対照的に、巨大ツチノコの呻き声は苦悶に満ちていたの。
ああやってボンレスハムみたいに締め上げられたんじゃ、堪んないよね。
だけど彼に科せられた受難は、まだまだこれからなんだ。
「コイツでおネンネだよ、パラライザーウィップ!」
その途端に真紅の光鞭が青白く発光し、巨大ツチノコがビクビクッと痙攣した後に全身を弛緩させたの。
暴徒や凶悪犯の制圧用に搭載されたパラライザー機能を、京花ちゃんったら見事に活用したんだね。




