表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《完結》悪役聖女  作者: ヴァンドール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

8話(エピローグ)

 春の風が王都を包み、復興の鐘が鳴り響いていた。

 大地は緑を取り戻し、城の庭園では色とりどりの花が咲き誇っている。


 シンシアは白いドレスに身を包み、王城のテラスに立っていた。

 あの試練の日から数ヶ月。

 炎の聖女として認められた彼女は、ウィリアム殿下の婚約者として人々の祝福を受けていた。


 けれどその瞳の奥には、ほんの少しの不安が揺れている。


「……私、本当にこの国にいてもいいのかしら」


 その問いに、背後から聞こえた優しい声が答えた。


「君がいてくれるから、この国があるんだ」


 ウィリアム殿下が微笑んで、彼女の肩を包み込む。


「炎は時に人を恐れさせる。けれど、炎がなければこの国は守れない。君の力はこの国の希望なんだよ」


 その言葉に、シンシアは小さく笑った。

 かつて“悪役聖女”と呼ばれた少女の笑顔は、

 今や人々の心を照らす光そのものだった。


 やがて、王城の鐘が鳴り響く。

 ウィリアム殿下は跪き、シンシアの手に唇を寄せた。


「炎の聖女シンシア。君を、私の王妃として迎えたい。この国の未来を、共に歩んでほしい」


 涙が頬を伝う。

 それは悲しみではなく、ようやく辿り着いた幸福の証。


「……はい、殿下。あなたと共に歩みます。

 たとえどんな運命が待っていても」


 春風が二人の間を抜け、遠くの空に黄金の光が差した。

 その光は、まるで天が二人を祝福しているかのように輝いていた。


ーーーー


その頃、王都から少し離れた丘の上。

 白い衣を纏ったランナは、一人、静かに祈りを捧げていた。


 彼女のもとにも、神の声が届いていた。

 『真なる聖女の血を受け継ぐ者よ。汝の選択が国を決する』


 だが、その声はあまりに冷たく、悲しみに満ちていた。


 あの試練の日以来、ランナは自らの中のもうひとつの力に気づいていた。

 それは癒しの力と対をなす、封印の力、古の災厄を眠らせる、神のもう一つの系譜だった。

 そう、それこそが先代の王妃が持っていた力。

 だから先代の王妃は亡くなる前、結界を張り封印したのだ。


 大地の奥深くで、かすかにうねる闇の気配。

 彼女には、それが少しずつ目覚め始めていることが分かっていた。


「……お姉様、貴女が炎で再生をもたらしたなら、

 私はその光を守るために、闇を封じる役目を負います」


 小さく微笑み、空を見上げる。

 そこには、城の塔に立つシンシアとウィリアム殿下の姿が遠くに見えた。


 風に乗って、鐘の音が聞こえてくる。

 それは、姉の幸福を告げる祝福の音だった。


「お姉様……お幸せに」


 そう呟くと、ランナの体が柔らかな光に包まれる。

 その光はゆっくりと大地に溶け、丘の上に咲く一輪の白い花を残した。


 それは封印の花。

 彼女が最後に残した、祈りの形。

 その後、この国には長きに渡り、魔物の出現は無かった。


 その夜、王都の空に流星が走った。

 人々はそれを『二人の聖女が共に祈った奇跡』と語り継いだという。


ーーーー


後の世に伝えられる物語には、こう記されている。


『この国を救ったのは、光と炎の二人の聖女。

一人は国を照らす王妃となり、

一人はその王国を守る封印となった』


 そして今も、王都の中央には二人の像が並んでいる。

 微笑み合う双子の姉妹、その手の中で、

 ひとつの炎と一輪の白い花が、永遠に輝き続けていた。



                    完



                       


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ