どぶねずみの船
薄暗い色の水に浮いた どぶねずみ
ぷかぷか、ぷかぷかと
腹を見せて浮いている
生臭く汚らしい どぶ川のまん中で
ゆらゆら、ゆらゆら揺られながら
ゆっくり、ゆっくりと 川下に流れている
見るとその腹に 白い草原が生えている
風もないのに揺れている 白い草
それは どぶねずみの腹に群がる
ウジの群れ
ひっくり返った どぶねずみの腹
どぶねずみの船に乗り
ゆらゆら、ゆらゆらと 下流に向かう
船頭も水夫もいない船の上
ウジ虫どもが
船を喰らっている
こども時分の わたしと友は
そのウジがハエになるのを嫌い
石を投げつけ どぶねずみの船を沈めにかかる
頑丈な船は沈まないが
船から投げ出されたウジたちが
どぶの中へと放り出される
ざぶん、ざぶんと 水をたたく石
大波小波で船を襲う
さながら船を沈めにかかる
隻眼の巨人がオデュッセウスにしたように
無慈悲なこどもは 大きな石を投げつける
その汚らわしい遊びに 夢中になったものだ
どぶねずみが死に
その死肉に ハエが卵を産みつけて
ウジが どぶねずみを喰らう
こどもはそれを見て
気持ちが悪いと
ウジ虫を蹂躙する
情けなどない
こどもほど残酷な生き物は いないのだ
オデュッセウス=『オデュッセイア』の主人公。ギリシアの古典文学。ホメロスが伝説(口伝)をまとめ著したもの。
キュクロプス=「隻眼巨人」としたのは岩波文庫に倣いました。「一つ目」が一般的ですが。




