死の間際に
ニュースで見た外国での出来事から。
かなり辛辣な視点で詩にしました。
外国のとある火事の現場
三階のベランダに取り残された老人
窓からもうもうと吹き出てくる灰色の煙
取り残された老人は なすすべなく
その場に立ち尽くすのみ
勇敢な若者が二階から三階へと
ベランダや窓の柵をつたって
上へ上っていく
若者はとなりのベランダに立つと
手を伸ばしてベランダの端まで来いと
老人に声をかける
老人は小声でこう応えたという
「怖くて歩けない」
そうだろう
背後に炎は見えないが
灰色の煙は老人の体を包もうとしている
ああ、だが、老人よ
おまえの怖れは醜い
あまりに醜いのだ
若者が勇気を出し
危険を省みず 壁を上って助けに来たのだぞ
それを考えもせず
怖くて動けないなどと
あまりに身勝手で わがままではないか
おまえが怖れているのは
おまえの老齢からくる死の足音
そして自分の記憶や認識が
失われていく 無音の残響だ
おまえの先行きに
わずかに光も見当たらなくとも
救いの手を差し伸べる若者の善意を
微塵も光とは考えないのか
わたしはこのような
老人になることを怖れる
無知蒙昧で 自分勝手な
そのような存在に堕するくらいなら
前途ある若者の足枷になるくらいなら
海にでも飛び込んで ひっそりと
この世から去りたいものだ




