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【コミカライズ開始】ひねくれた私と残念な俺様  作者: 合澤知里
本編

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79/130

79.心当たりは一つです

 「そんなんじゃ、俺は納得出来ねーな。」

 「僕も。冴香ちゃんがどれだけ魅力的な人間か、分からせてあげようか?」

 「え? いえ、結構ですっ!」


 夕方、今度は東王大学近くの喫茶店で、広大さんと雄大さんにお会いし、お詫びして私の気持ちを伝えたのは良いが、何故か大樹さんの二の舞になってしまった。顰め面で、感情をそのまま表に出される広大さんは兎も角、にっこりと笑う雄大さんの表情からも怒りと、何故か恐怖を感じた私は、思わず仰け反って距離を取る。


 「わ……私、夕飯の支度がありますので、そろそろ帰りますね。」

 「あっ、冴香ちゃん待って、送って行くよ!」

 「え、遠慮します!」

 「あ、おい待てって!」


 自分のカフェオレの代金だけテーブルの上に置いて、逃げるように喫茶店を後にした。これ以上、店内に増えつつあった、お二人と同じ大学と思われる女性陣からの、憎悪が込められた視線を浴びたくはない。入口から一番奥の席で、店内に背を向けて座っておられたお二人は気付いておられなかったようだが。


 走りながら角を曲がる時、ちらり、と後方を振り返ると、店内から出ようとしているお二人が、女性陣に取り囲まれ、質問攻めにされている光景が目に入った。あの様子なら当分追って来れなさそうだ。念の為、そのまま暫くあちこち曲がりながら走り、大通りに出た所で、足を止めて息を整える。


 そこにあったお店のショーウインドーに映った自分を見て、私は溜息をついた。頑張って伸ばしている髪は、まだショートではあるものの、少なくとももう男の子に間違われる事はないだろう。以前は痩せてガリガリだった身体は、大河さんに無理矢理でも食べさせられるようになって、軽度の痩せ程度になっている。だけど、百五十に満たない低身長に、取り立てて美人でも可愛くもない顔立ちに、相変わらず女性らしさの欠片もない体型。どう贔屓目に見た所で、所詮は平凡以下の私が、誰もが羨む容姿を持つ、天宮財閥の御曹司の方々と、並び立つ勇気なんて、とてもじゃないが持てやしない。

 それに。

 私なんかの何処が良いんだろう、と考えて行き着く先は、何時だって一つしかない。私が選んだ相手と共に、天宮財閥の後継者にする、という天宮会長のあのお言葉。私と付き合うメリットなんて、それくらいしかないじゃないか。いくら皆さんが本気で好きだと言ってくださっても、今一つ信じ切る事が出来ない。


 陰鬱な気持ちを引き摺ったまま、最寄り駅へと足を進める。地下鉄の階段を下りようとした、その時。

 ドンッ、と背中に何かが当たり、私の身体は前に傾いた。バランスを取る暇もない。落ちる!


 「冴香ちゃん!!」


 ギュッと目を瞑った時、声と同時に掴まれた腕を力強く引き戻された。目を開けて振り返ると、凛さんが焦った表情で息を切らしながら顔を覗き込んできていた。


 「大丈夫!?」

 「は、はい。」


 どうして、凛さんがここに?

 驚く私の上下に素早く視線を動かし、私に怪我がない事を確認した凛さんは、鬼の形相で身を翻した。


 「待ちなさい!!」


 駆け出した凛さんの先には、走り去ろうとしている男の背中が見えた。凛さんはあっと言う間に追い付くと、飛び蹴りを繰り出して男を倒れ込ませ、素早く取り押さえてしまった。私は呆然とその光景を見ていたが、はっと我に返って凛さんに駆け寄る。


 「貴方、誰に頼まれてこの子を突き飛ばしたの?」


 凛さんが冷たい声で男に尋ね、私は目を見開いた。

 え、私、突き飛ばされたの? 荷物が当たった、とかじゃなくて?


 「つ、突き飛ばしてねーよ! 偶々当たっちまっただけで! い、痛えっ!」

 「誤魔化そうとしても無駄よ。私、最初から見ていたんだから。わざわざこの子の後を付けて、階段を下りると見るや、早足で近付いてわざと当たったわよね? 何なら動画も撮ってあるわよ。言い逃れなんてさせないんだから。」


 え、最初から見ていた? 動画もある? どういう事?

 混乱する私を余所に、痛みに耐えかねたのか、男は観念したように口を開いた。


 「ま、舞衣だよ! 舞衣に、こいつをちょっと痛い目に遭わせてくれって、頼まれたんだ!」


 舞衣。

 その名前を聞いた瞬間、どす黒い感情が、私の胸中から一気に噴き出した。

 その名前に心当たりなんて、一つしかない。七年近くも、散々私を蔑み、虐げ、奴隷のように扱ってきた、私の異母姉。

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