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【コミカライズ開始】ひねくれた私と残念な俺様  作者: 合澤知里
本編

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73/130

73.ちゃんと謝りたいです

 「……っす、すみませんでしたぁっ!!」


 そう叫んで部屋の奥に逃げ込んだ私は、家具の陰に隠れてしゃがみ込み、小さく丸くなって震えていた。

 皆さんは真っ直ぐに気持ちを伝えてくださったのに、私ときたら最初から信じようともせず、思いっ切り疑ってかかるなんて最低だ。それなのに、今も尚逃げ出すなんて卑怯だと分かっていながらも、四人のイケメン御曹司に告白されたという現実に、未だに頭が付いて行かない。

 何で? どうしてこうなったの?


 「冴香ちゃん、皆にはもう帰ってもらったからね。」

 暫くして部屋に戻って来た凛さんが言い、私は驚いて振り返った。


 「皆さん、もう帰られてしまったんですか?」


 逃げ出してしまった私を心配して捜してくださったであろう方々に、碌にお詫びもせずに帰してしまったなんて心苦しくてならない。申し訳ないと思いながらも、何処かでほっとしてしまっている自分が居て嫌になる。合わせる顔がないながらも、もっとちゃんと謝りたかったな、と後悔していると、凛さんに頭を撫でられた。


 「無理しなくて良いのよ。冴香ちゃん、今凄く混乱しているんでしょう? まずは自分の事だけ考えて。冴香ちゃんの気持ちも考えずに、自分達の都合で動くような連中の事なんて、頭から追い出して良いわよ。冴香ちゃんが落ち着いて、自分はどうしたいのか、冷静に考えられるようになるまで、ここに居ると良いわ。」


 優しく言ってくださる凛さん。有り難くその手に甘えながらも、こんな風に甘やかされてしまって良いのだろうか、と不安になる。本来ならば、きちんと皆さんの気持ちに向き合った上で、答えを出さなければいけないと分かっているのに、逃げてばかりの自分が情けない。

 落ち込む私を、変わらず優しく撫でてくれる凛さんの手が心地良かった。細くて柔らかくて滑らかで、大河さんとはまた違う手だな……と思った所で、私は自分に驚いた。

 そんなの当たり前じゃないか。あんなに酷い態度を取っておいて、大河さんの大きくて温かい手に、また撫でて欲しいと思うだなんて……どれだけ身勝手なんだ、私。


 「すみません。私、ご迷惑をかけてばかりですよね……。」


 凛さんにだって、この数時間だけでも、逃亡してしまった私の捜索に、良く分からない男の人達からの救出に、戻りたがらない私の話し相手にと、現在進行形で大分ご迷惑をお掛けしてしまっている。自己嫌悪に陥りながら凛さんに謝ると、凛さんは横に首を振り、苦笑しながら私を見つめた。


 「冴香ちゃんは、もっと人を頼ったり、甘えたりする事を覚えるべきだよ。」

 「え……?」

 凛さんの言葉に戸惑って、私は凛さんを見つめ返した。


 「冴香ちゃんは、何でも自分で抱え込んで、一人で処理しようとしているよね。でも、それじゃ何時か、問題を抱え切れなくなった時に、自分が壊れちゃうよ。例えば、今がそうなんじゃないかな。」


 ドキリ、とした。凛さんに、全てを見透かされたみたいで。


 「抱えるのがしんどくなった時は、誰かに頼って良いんだよ。甘えたって良い。我儘だって、言って良いの。冴香ちゃんは、相手にとっては迷惑じゃないか、って思って我慢しているのかも知れないけれど、本当は、頼って甘えてもらえた方が、相手も嬉しいのかも知れないよ? ……実は、私も似たような事があったから。」

 照れたように笑う凛さん。その笑顔を見上げていて、私は唐突に思い出した。


 『お前、何か悩んでいても、いつも一人で解決しようとするだろ? 誰にも話さないで、全部一人で溜め込んで。そんなんじゃ何時か潰れちまうぞ! お前はもうあの家から解放されたんだ。もう一人じゃねえんだよ! 今一番近くにいる俺にくらい、いい加減心を開いて、何でも良いから話してみろよ!!』

 『困った時や、何かあった時は、絶対に一人で抱え込むな。遠慮なく俺を頼れよ。』


 私、馬鹿だ。

 大河さんは、ちゃんと言ってくれていたのに。何時だって、私の事を思い遣ってくれていたのに。

 そう思うと、急に大河さんが恋しくなった。大河さんに会いたい。会ってちゃんと謝りたい。


 「……凛さん、やっぱり私、帰ります。」

 自分でも驚く程、はっきりとした声が出た。凛さんを見上げると、微笑みながら頷いてくれた。


 「分かったわ。もう暗いから、送って行ってあげるね。少しだけ待っていてくれる?」

 「はい。すみません。ありがとうございます。」


 支度を始める凛さんに、私は心から感謝した。きっと凛さんがいなかったら、私は立ち直れていなかっただろう。いやそれ以前に、あの男の人達に連れて行かれて、どうなっていたか分からない。


 初めて会ってまだ数時間しか経っていないのに、私の事情も知っているからか、今は凛さんが誰よりも近く感じられた。出来れば凛さんと、お友達になりたいな。凛さんは私と友達だなんて、迷惑かも知れないけど……ううん、頼って甘えて良い、って言われたばかりだもの。少しだけ甘えちゃおう。連絡先を訊いたら、教えてくれるかな?


 私はドキドキしながらスマホを取り出した。だが操作しようとしても、スマホの画面は真っ暗なままで、何をしても反応してくれない。

 そう言えば、昨夜が昨夜だっただけに、充電しておくのを忘れていたような気がする。こんな時に、電池切れ……。私はがっくりと肩を落として溜息を吐き出した。

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