64.本気になった従弟達
62話~大河視点です。
いよいよ決戦当日。
先に祖母さんに誕生日プレゼントを渡し、俺達は客間で麗奈達の到着を待っていた。勝算はあるが、冴香達にあれだけの大見得を切っておいて、無様に負ける訳にはいかない。流石の俺も少し緊張してきた。
冴香も別の意味で緊張しながら祖母さんにプレゼントを渡しているが、祖母さんは冴香からのプレゼントなら、きっと何だって喜んでいただろうし、あのクッキーは本当に美味かったんだから、そんなに硬くならなくて良いのに。
……ってか、冴香の手作りのクッキーを貰える祖母さんが羨ましいんだが。
バタバタ、と廊下を走る音がして、客間の障子が勢い良く開く。いよいよだ。
麗奈の発言を皮切りに、貴大さんと麗奈が怒鳴り合いを始めた。俺はその隙に客間を抜け出し、麗奈の手引きで隣の部屋に待機してもらっていた新庄君を連れて客間に戻った。激昂した貴大さんを、祖母さんが制してくれる。祖母さんが主役の場を借りるのだからと、根回しをしておいて正解だった。
新庄君に辛辣な言葉を浴びせる貴大さんの言葉尻を捕らえて、今度は冴香が機転を利かせる。本当、こいつはこういう事が上手いと、改めて感心する。敵に回すと厄介な奴だが、味方にすると頼もしい。
そして、俺も参戦し、貴大さんの核心に切り込む。麗奈も新庄君も必死に応戦し、徐々に貴大さんを追い詰めていく。ついに実力行使に出た貴大さんを俺が止めていると、麗奈が奥の手を行使した。切り札の麗子さんの一言で、遂に貴大さんが陥落する。
次は祖父さんだ。冴香との約束を持ち出し、冴香達が頭を下げていると、理奈さんや雄大達も味方に付いてくれた。嬉しい誤算だ。祖母さんの後押しもあり、そして貴大さんに使った奥の手も見え透いていたからか、祖父さんは意外とすんなり認めてくれて、ちょっと拍子抜けしてしまった。
祖父さんが認めた瞬間、冴香は満面の笑みを見せた。こいつのこんな笑顔を見たのは初めてで、思わず見惚れてしまった。
本当に、こいつは。自分の時よりも、他人の事の時の方が、余程良い笑顔を見せるじゃねーか。
食事が始まり、皆と会話して、新庄君も徐々に馴染んできたようだ。未だ重症の貴大さんを心配する冴香に、俺も日頃から色々小言を言われて鬱憤が溜まっていたとは言え、少々やり過ぎたかと反省する。
「でも、認めて頂けて本当に良かったですね。これも大河さんのお蔭です。本当にありがとうございました。」
花が綻ぶような笑顔で、冴香が礼を言ってきた。思わぬ不意打ちに、ドクン、と心臓が跳ねる。
やばい、嬉しい。凄く可愛い。
思わず小さく声に出してしまい、冴香に突っ込まれて、誤魔化すように冴香の髪を思い切りかき混ぜた。
こいつの笑顔は、本当に性質が悪い。そんな顔を見せるのは、俺だけにして欲しい。
食事も終わる頃になると、広大達が席を立って、こちらに近付いて来た。
「冴香ちゃん、さっきの格好良かったよ。貴大さんや祖父ちゃんにビシッと言ってやった所、見ていて痛快だったぜ。」
「僕も思わず応援しちゃった。認めてもらえて良かったよね。」
「はい。広大さんと雄大さんも、応援してくださって、ありがとうございました。」
近くに腰を下ろした二人に、冴香が笑い掛ける。
だから、他の男にそんな顔を見せるなっての!
「でも、俺にも相談して欲しかったな。そうしたらもっと、冴香ちゃんの力になれたかも知れないし。」
「僕も。除け者にされていたみたいで、ちょっと悲しかったな。」
「すみません。確実に味方になって頂けそうな方でないと、情報が漏れて、先手を打たれてしまう可能性があったので。」
「僕は冴香ちゃんの味方だよ。だから、次に何かあった時は、ちゃんと僕に相談してね。」
「俺だって! 絶対に悪いようにはしないから、次からは俺に一番に相談してくれよな。」
「お二人共、ありがとうございます!」
嬉しそうな冴香に、勝手だと分かっていながらも、苛立ちを覚えた。
「冴香さんもこっちにいらっしゃいな。麗奈達との事、詳しく聞かせて頂戴?」
祖母さんに呼ばれた冴香は席を立ち、盛り上がっている女性陣の話の輪の中へと入って行った。
「……お前ら、冴香にちょっかいを出すのは止めろ。あいつは揶揄いや遊び半分や後継者目的で、手を出して良い奴じゃねーんだ。遊びたいなら余所でやれ。」
睨みながら牽制すると、広大達は真顔になった。
「遊びじゃねーよ。少なくとも俺は、本気だし。」
「兄さんも? 困ったなあ。実は僕もなんだよね。」
「なっ……!?」
二人の言葉に、俺は目を見開いた。
「最初は祖父ちゃんに言いたい事言いまくって、面白そうな奴だなって軽く興味を持った程度だったけど、意外とガード堅いし。でも一旦懐に入れたら、友達思いで、一緒に居て飽きないしな。」
「良い子だし、笑うと可愛いしね。いつも謙虚で、気配り上手だし。」
「咄嗟の機転も利くし、口も堅い。鈍感なのか、恋愛に興味がないのか、いくら口説いても手応えがないのが玉に瑕、って所かな。」
「大樹……。お前もか?」
何時の間にか近くに来ていた大樹を見上げると、大樹はニヤリと笑って頷いた。
「麗奈が彼に取られてしまったみたいで、ちょっと複雑ではあるけれど、今回の事で、ますます冴香さんに好感を持ったよ。悪いけど、ここからは本気で口説かせてもらう。」
銀縁眼鏡をクイッと上げ、大樹は俺達に宣戦布告をした。
「面白れえ。俺だって本気出すからな!」
「悪いけど、僕も。」
立ち上がった広大と雄大も宣言する。
クソ、こいつら好き勝手言いやがって!
「ふざけんな! 冴香は俺の婚約者だ。お前らに渡してたまるかよ!」
立ち上がった俺は思わず大声を張り上げる。麗奈達の馴れ初め話で和気藹々と盛り上がっている客間の片隅で、俺達は互いに険悪な顔付きで睨み合っていた。




