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【コミカライズ開始】ひねくれた私と残念な俺様  作者: 合澤知里
本編

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53/130

53.打ち明けてみました

 その日、帰宅した大河さんと共に夕食を摂りながら、私は頭を悩ませていた。


 さて、麗奈さん達に、大河さんが味方になってもらえそうかどうか、それと無く確かめてみる、と約束したのは良いけれど、どうやって切り出そう? お二人の事は絶対に気取られてはいけないしなぁ。下手をすれば、私のせいでお二人の交際がバレて、無理矢理別れさせられる事態になりかねないのだ。下手な事は口に出来ない。ここはやはり、例え話だとか、完全に赤の他人の話として、大河さんの考えを伺ってみるしかないんじゃないかな。


 「大河さん。」

 「冴香。」


 思い切って口を開いたら、お互い同時に呼び掛けていて、それだけで気が引けてしまった。うう、我ながら情けない。


 「な、何でしょう?」

 「いや、お前こそ何だよ。」

 「いえ、大した事ではありませんので……。」

 「お前から先に言え。」


 大河さんは一向に引く様子を見せない。堂々巡りをしていても仕方ないので、再び思い切って尋ねてみた。


 「大河さんは、その……例えば、相思相愛の恋人がいて、それなのに家族に交際を猛反対されて、別れを強要されたら、どう思われますか?」

 「ゲホッ!?」

 お味噌汁を飲んでいた大河さんが盛大に噎せ始めた。


 や、やっぱり、いきなりこんな質問は不自然過ぎたかな?


 「お、俺はそんな奴いないからな! あの女に何吹き込まれたか知らねーけど、全部真に受けるなよ!!」

 大河さんは涙目になりながらも、食卓に両手を突いて身を乗り出してきた。


 えっ、あの女って麗奈さんの事!? いや違う、文脈が繋がらない。えーと……?


 「……何の事でしょうか?」

 「え?」

 「いや、あくまでも、例えば、の話で……。別に具体的に大河さんに恋人がいらっしゃるとか、そういう話をしている訳ではないのですが……あの女、とはどなたの事ですか?」

 「あ……いや、何でもねえよ。」


 大河さんはバツが悪そうに、顔を赤らめながらブツブツ何か呟いている。

 何かあったんだろうか? 取り敢えず、麗奈さんの事がバレた訳ではなさそうだけど。


 「そ……それで、あくまで、例えば、ですが、相思相愛の恋人との別れを、家族に……例えば、天宮会長や将大社長に強要されたとしたら、どう思われますか?」

 大河さんの様子を窺いながら再度尋ねる。大河さんは少し考えた後、何かに思い至ったように、私の顔をじっと見つめてきた。


 な……何だろう。あっ、咄嗟に天宮会長達の名前を出しちゃったけど、まさかそれで麗奈さんの事に気付かれた、って訳じゃないよね!?

 背中に嫌な汗が伝う。大河さんが口を開くまでの時間が、とてつもなく長く感じられた。実際は割とすぐに答えてくれたんだけど。


 「例えば、俺に恋人がいて、家族に反対されたら、って話だよな? それなら俺は、絶対に別れねえ。何が何でも、説得材料を用意して、祖父さん達を説き伏せて認めさせてやる。」


 はっきりと力強く、望んでいた答えを口にしてくれた大河さんに、希望の光が灯る。

 やっぱり、大河さんなら力になってくださるに違いない!


 「大河さん、あの、お願いがあるんです! 力をお貸し頂けないでしょうか!?」

 思わず食卓に勢い込んで身を乗り出す。大河さんは一瞬、目を丸くしたけれど、すぐにニッと笑って見せてくれた。


 「何でも言えよ。俺に出来る事なら、力になってやる!」


 独断だったけど、きっと大河さんなら善処してくれると信じて、私は麗奈さん達の事を打ち明けた。

 何故か大河さんは、途中からがっくりと肩を落としていたけれど。


 「それで、何とか麗奈さんのお力になって差し上げたいんです。麗奈さんのご家族に認めてもらえる、何か良い方法はないでしょうか?」

 何故か片手で頭を抱えている大河さんに、縋る思いで問い掛ける。


 麗奈さん達の事だと告げてしまったけれど、まさか手の平を返して反対したりはしませんよね? 力になってやる、って言ってくれましたもんね? 言質は取ってありますよ?


 「麗奈に恋人、ねぇ……。まあ、手段がない訳でもないが……。」

 「本当ですか!?」

 「ああ。その代わり少し時間が必要だな。そうだな……来週の金曜日にでも、その彼氏とやらを連れて俺の家に来いって伝えておいてくれ。その方が周りの目を気にせず、安心してゆっくり話せるだろうからな。冴香、バイトのある日で悪いが、夕食の準備を頼めるか?」

 「勿論です。任せてください!」


 私はほっとして胸が一杯になった。

 やっぱり大河さんを頼って良かった。きっとこれでお二人の事態も、一歩先に進むに違いない!


 食事を終えた私は、逸る気持ちを抑えながら、麗奈さんにラインを送った。


 「そう言えば大河さん、先程何か言い掛けていませんでしたっけ?」

 「ん? ああ……いや、別に良い。」


 スマホを弄りながら、何処となく投げ遣りな態度を取る大河さんに、私は首を傾げるしかなかった。

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