53.打ち明けてみました
その日、帰宅した大河さんと共に夕食を摂りながら、私は頭を悩ませていた。
さて、麗奈さん達に、大河さんが味方になってもらえそうかどうか、それと無く確かめてみる、と約束したのは良いけれど、どうやって切り出そう? お二人の事は絶対に気取られてはいけないしなぁ。下手をすれば、私のせいでお二人の交際がバレて、無理矢理別れさせられる事態になりかねないのだ。下手な事は口に出来ない。ここはやはり、例え話だとか、完全に赤の他人の話として、大河さんの考えを伺ってみるしかないんじゃないかな。
「大河さん。」
「冴香。」
思い切って口を開いたら、お互い同時に呼び掛けていて、それだけで気が引けてしまった。うう、我ながら情けない。
「な、何でしょう?」
「いや、お前こそ何だよ。」
「いえ、大した事ではありませんので……。」
「お前から先に言え。」
大河さんは一向に引く様子を見せない。堂々巡りをしていても仕方ないので、再び思い切って尋ねてみた。
「大河さんは、その……例えば、相思相愛の恋人がいて、それなのに家族に交際を猛反対されて、別れを強要されたら、どう思われますか?」
「ゲホッ!?」
お味噌汁を飲んでいた大河さんが盛大に噎せ始めた。
や、やっぱり、いきなりこんな質問は不自然過ぎたかな?
「お、俺はそんな奴いないからな! あの女に何吹き込まれたか知らねーけど、全部真に受けるなよ!!」
大河さんは涙目になりながらも、食卓に両手を突いて身を乗り出してきた。
えっ、あの女って麗奈さんの事!? いや違う、文脈が繋がらない。えーと……?
「……何の事でしょうか?」
「え?」
「いや、あくまでも、例えば、の話で……。別に具体的に大河さんに恋人がいらっしゃるとか、そういう話をしている訳ではないのですが……あの女、とはどなたの事ですか?」
「あ……いや、何でもねえよ。」
大河さんはバツが悪そうに、顔を赤らめながらブツブツ何か呟いている。
何かあったんだろうか? 取り敢えず、麗奈さんの事がバレた訳ではなさそうだけど。
「そ……それで、あくまで、例えば、ですが、相思相愛の恋人との別れを、家族に……例えば、天宮会長や将大社長に強要されたとしたら、どう思われますか?」
大河さんの様子を窺いながら再度尋ねる。大河さんは少し考えた後、何かに思い至ったように、私の顔をじっと見つめてきた。
な……何だろう。あっ、咄嗟に天宮会長達の名前を出しちゃったけど、まさかそれで麗奈さんの事に気付かれた、って訳じゃないよね!?
背中に嫌な汗が伝う。大河さんが口を開くまでの時間が、とてつもなく長く感じられた。実際は割とすぐに答えてくれたんだけど。
「例えば、俺に恋人がいて、家族に反対されたら、って話だよな? それなら俺は、絶対に別れねえ。何が何でも、説得材料を用意して、祖父さん達を説き伏せて認めさせてやる。」
はっきりと力強く、望んでいた答えを口にしてくれた大河さんに、希望の光が灯る。
やっぱり、大河さんなら力になってくださるに違いない!
「大河さん、あの、お願いがあるんです! 力をお貸し頂けないでしょうか!?」
思わず食卓に勢い込んで身を乗り出す。大河さんは一瞬、目を丸くしたけれど、すぐにニッと笑って見せてくれた。
「何でも言えよ。俺に出来る事なら、力になってやる!」
独断だったけど、きっと大河さんなら善処してくれると信じて、私は麗奈さん達の事を打ち明けた。
何故か大河さんは、途中からがっくりと肩を落としていたけれど。
「それで、何とか麗奈さんのお力になって差し上げたいんです。麗奈さんのご家族に認めてもらえる、何か良い方法はないでしょうか?」
何故か片手で頭を抱えている大河さんに、縋る思いで問い掛ける。
麗奈さん達の事だと告げてしまったけれど、まさか手の平を返して反対したりはしませんよね? 力になってやる、って言ってくれましたもんね? 言質は取ってありますよ?
「麗奈に恋人、ねぇ……。まあ、手段がない訳でもないが……。」
「本当ですか!?」
「ああ。その代わり少し時間が必要だな。そうだな……来週の金曜日にでも、その彼氏とやらを連れて俺の家に来いって伝えておいてくれ。その方が周りの目を気にせず、安心してゆっくり話せるだろうからな。冴香、バイトのある日で悪いが、夕食の準備を頼めるか?」
「勿論です。任せてください!」
私はほっとして胸が一杯になった。
やっぱり大河さんを頼って良かった。きっとこれでお二人の事態も、一歩先に進むに違いない!
食事を終えた私は、逸る気持ちを抑えながら、麗奈さんにラインを送った。
「そう言えば大河さん、先程何か言い掛けていませんでしたっけ?」
「ん? ああ……いや、別に良い。」
スマホを弄りながら、何処となく投げ遣りな態度を取る大河さんに、私は首を傾げるしかなかった。




