性質が悪い冴香
大河視点です。
「よっし、上がり!」
ゲーム開始早々に冴香と敬吾のお蔭でハンデを食らい、残り一枚と言う時に谷岡に邪魔されたものの、何とか俺も上がる事が出来た。残った麗奈と谷岡と広大が悔しそうにしているが、俺の知った事ではない。
「わあ、大河さんすごーい。途中まで結構不利らったのに、流石れすねー。」
「まあな。……っておい、冴香……?」
何だか呂律が怪しくなっている声に、右隣の冴香を振り向いて目を見開いた。顔を赤くしてへにゃっと笑っている冴香。普段よりも気が緩んでいるようで、滅茶苦茶可愛い……じゃないちょっと待て。何だかこいつ、酔っているような……?
「冴香、お前、何飲んでいるんだ?」
「えー? 烏龍茶れすよー?」
だよな。お前未成年だもんな。
だけど念の為、へらりと笑う冴香からコップを取り上げ、口を付けてみる。
「これ、ウーロンハイじゃねえか!?」
「え? 冴香ちゃんが飲んでいたのは烏龍茶だよ? ウーロンハイは私。」
冴香の右隣の谷岡が、自分のコップを振って見せた。それも取り上げて口を付ける。
「谷岡! お前これ、烏龍茶だぞ!」
「えー? そっかあ、道理で何か変だと思った!」
ケラケラと笑う谷岡。
笑い事じゃねえぞ! どうせ途中で間違えたんだろうが、気付けよこの酔っ払いが!
「冴香ちゃん、大丈夫? お水飲んだ方が良いんじゃない?」
近くに来た凛が、冴香の肩に手を掛けると。
「らいじょーぶれすよー。わあい、凛さん優しいー!」
冴香は満面の笑みを浮かべ、凛の腕にぎゅうっとしがみついてしまった。
「やだぁ、冴香ちゃん可愛いー!!」
目を輝かせ、冴香を思い切り抱き締める凛。
ちょっと待て!! 何だこの展開は!! 羨まし過ぎるぞ凛の奴!!
「わあっ、凛さんいいなぁ! 私も私も!」
まだ上がっていないのに、ゲームを途中で放り出して、麗奈も移動して来てしまった。
「わーい、麗奈さんらー!」
「きゃあぁ、冴香さん可愛いー!」
「麗奈ちゃん、次私ねっ!」
「わぁい、今度は谷岡さんらー!」
交代で女共にぎゅうぎゅうと抱き締められたり、頬擦りをされたりでご機嫌な冴香。
「ちょっと待てえぇ!! お前ら冴香で遊ぶな!! ほら、冴香こっちに来い!!」
何だよこいつら婚約者である俺を差し置きやがって腹立つ……じゃない! 明らかに酔ってしまっている冴香を何とかする方が先だろうが! そう思いながら手を差し伸べたのに。
「えー? 何らか大河さん怒っているから、嫌れすー。」
冴香は頬を膨らませ、ぷいっと顔を背けて凛にしがみついてしまった。
え、何だよそれ……。
いくら酔っているとは言え、ショックなんだけど。
「ブハハハハッ!! 冴香ちゃん面白過ぎる!!」
「お……お腹痛い……!!」
「だ……駄目だ……笑い死ぬ……!!」
腹を抱えて転げ回る広大に、座ったまま前屈みになって拳を畳に打ち付けている大樹と雄大。敬吾は腹を抱えて倒れ伏してヒーヒー言っているし、新庄君まで必死で口元を押さえているものの、盛大に肩を震わせている。
「笑うなお前らァ!!」
男連中を怒鳴り付けて、凛の腕の中に居る冴香を見つめる。
くそ、落ち着け俺。これ以上冴香に嫌がられたら立ち直れねえ。平常心平常心。
「冴香、怒っていないから、取り敢えずこっちに来い。」
口角を上げ、出来るだけ穏やかに言いながら、再び手を差し伸べる。
「えー? 怒ってないれすか?」
「ああ。怒っていないから。」
これ以上拒否するなよ。頼むから。
胡乱な目を向けてくる冴香に泣きたい気持ちになりながら、優しく宥めるように言うと、冴香は凛の腕からのそのそと抜け出して、俺の腕の中に入って来た。
「ふふ、大河さんあったかぁい。」
俺にぎゅっとしがみつき、相好を崩す冴香。
うわ、くそ、何だよもう、可愛いなこいつ!
さっさと水を飲まさないと、と思うのに、冴香の背に両腕を回したまま動けなくなる。
「大河君ずるーい。次私ー!」
「そ、そんな事言っている場合か。兎に角水を飲まさないと。」
麗奈の言葉に我に返り、冴香を抱きかかえたまま、飲み物を置いてある場所まで移動する。畳の上に胡坐をかいて膝の上に冴香を座らせ、ミネラルウォーターをコップに入れて、冴香の口元まで持って行った。
「ほら、冴香、水飲んどけ。」
冴香からは何の反応も無かった。気分でも悪いのかと心配になって顔を覗き込むと、目を閉じてスースーと安らかな寝息を立てている。
ね、寝やがったこいつ!! あぁでも畜生寝顔も可愛いな!
「あれー、冴香さん寝ちゃったの? 残念。」
麗奈が後ろから冴香の顔を覗き込んできた。
「えー、でも寝顔凄く可愛いじゃない! 抱き締めて添い寝したーい!」
「なっ!? 谷岡てめえぇ!!」
何なんだその発想は!? 俺だってまだ添い寝した事ないのに!!
「ちょっと大河君、そんな大きな声出したら、冴香ちゃんが起きちゃうでしょ。冴香ちゃんは私達がちゃんと寝かせておくから、今日はもう解散しましょ。」
「あっ、おい待てよ凛!」
凛はさっさと俺の腕の中の冴香を奪うと、麗奈と谷岡を連れて自分達の部屋に戻って行ってしまった。
いっそ皆で一緒に添い寝しようか、なんて頭に来る相談をしながら。
「仕方ないな。じゃあ俺達も寝ようぜ。」
未だに肩を震わせ、笑いを堪えながら俺の肩に手を乗せた敬吾を、俺は拳をギリギリと握り締めながら睨み付けるしかなかった。
くそ、冴香は俺の婚約者だってのに、何であの三人に取られなきゃならねーんだよっ!
***
翌朝、朝食の場に冴香が現れた途端、俺はすぐさま駆け寄った。
「冴香、お前大丈夫か?」
「え? はい。何ともありませんけど。」
不思議そうに首を傾げる冴香に、俺は一安心した。昨夜の酒の影響は、どうやら無さそうだ。
大体、良く考えてみれば、あの時谷岡が飲んでいたのは、最初に作ったウーロンハイ一杯だけだった。あいつだって飲んでいた訳だから、冴香が飲んでしまった量は、残っていた量から考えても、せいぜいコップ半分にもならない筈だ。翌日に残るような量じゃないか。
「あの……、昨夜、何かあったんですか?」
不安げに尋ねてくる冴香に、俺は思考を引き戻される。
「朝起きた時に、凛さん達にも同じ事を訊かれたんです。私、昨夜は皆さんとゲームして、凄く楽しかった記憶はあるんですけれど、途中で寝てしまったみたいで、あまり良く覚えていなくて……。何かあったんでしょうか?」
冴香の問いに、俺は硬直した。
え、つまりこいつは、コップ半分にも満たない量のウーロンハイを飲んだだけですぐ酔っ払い、誰彼構わず愛嬌を振りまいた挙句に寝落ちし、しかも酔っている間の記憶は一切抜け落ちてしまう酒癖の持ち主だと?
性質悪いなオイ!!
「大丈夫よ、冴香ちゃん。別に何もなかったから。」
「そうそう。ええと、昨夜はちょっと眠そうにしていたから、今朝は大丈夫かなって思って訊いただけだしね。」
「そうでしたか。ご心配をおかけしてしまったみたいで、すみません。」
凛と谷岡がフォローしたのは良いが、麗奈と一緒に顔を見合わせて笑みを浮かべている所を見ると、嫌な予感しかしなかった。
そして、その予感はすぐに的中する事になる。
「そう言えばさっき、麗奈さん達からラインが来ていたんですけれど……。」
温泉旅行から帰って来て、一緒に夕食を摂っている時に、冴香が首を傾げながら切り出してきた。
「旅行のお礼を言っていたら、私が二十歳になった時に、一緒に女子会しようって言われたんですよ。麗奈さんと凛さんと谷岡さんの四人で。一年以上先の事なのに、何で今から仰るんでしょうね?」
「なっ……!?」
俺は箸を取り落とした。
冴香が二十歳になったら女子会……そんなもの、酒に酔った冴香を愛でる会に決まっているじゃねーか!!
「冴香、断れ!! そんな女子会、危険過ぎる!!」
俺が思わず声を荒らげると、冴香に思いっ切り怪訝な顔をされてしまった。
「何で危険なんですか? 凛さんが一緒に居てくださるんですから、寧ろこれ以上安全な女子会なんてないじゃないですか。」
「良いから、何か適当に理由を作って断れ!」
「嫌ですよ。それにもう了承の返事を送ってしまいましたし。」
「何!? くそ、じゃあせめてその女子会では酒を飲むなよ! それか、俺も一緒に行くからな!」
「何でお酒の話になるんですか? それに、大河さんが来られたら女子会じゃなくなるじゃないですか。」
「良いから! 兎に角お前、俺以外の奴の前では絶対に酒を飲むなよ!? 酒を飲む時は、俺が一緒の時だけにしろ! 良いな!!」
「何でそうなるんですか?」
「危険だからに決まってんだろ!!」
まるで無自覚な冴香を説得するのは大変だったが、何とか酒に関しては、俺と一緒の時以外は飲まないという約束を取り付ける事が出来た。
だけど安心は出来ない。冴香の二十歳の誕生日まで、後一年と少し。俺は今から、その日が不安で仕方がない。
お酒は二十歳になってから。
(大事な事なので二回言いました。)




