第三十七話 何やらお店が大変です!
船を手に入れるのに必要なペパの種を買うべく、ナフの町に着いたラテル一行。
後は買うだけとなったはずでしたが……?
どうぞお楽しみください。
ナフの町に入ったラテル一行は、アフェリの案内でペパの種を売る店を目指します。
「もうすぐ着きます!」
「これでペパの種を買って戻れば船が買えるんだね! 楽しみだなぁ!」
「あぁ、そうだな」
「とっとと済ませよーぜ。んで、楽しい船旅だ」
「船楽しみ」
「あ! あの正面の、店が……、あれ?」
アフェリの指し示した店から、何やら怒鳴るような声が聞こえてきました。
見ると店の前で中年の男と若い男が何やら言い争っています。
「お願いしますお義父さん! 僕にアンジェを助けに行かせてください!」
「黙れサンセル! お前にお義父さんなどと呼ばれる筋合いはない! 娘は儂が助けに行く!」
「相手は屈強な盗賊ですよ!? お義父さんに何かあったらアンジェが悲しみます!」
「お前なら勝てると言うのか!? 冒険者でもないくせに生意気をぬかすな!」
言い合いを眺めたソレイユが溜息をつきました。
「どうやらあの香辛料の娘が盗賊にさらわれたようだな。この状態ではペパの種を買うのは難しそうだ」
その言葉にエトワルはアフェリを肘でつつきます。
「おい、他に店はねーのか?」
「えっ、あ、あるにはあるんですけど、その、ここが一番大きな店で、他だと船を買えるほどの量は難しいかなー、と……」
「自信満々で案内してこの失態」
「あ、あたしが悪いんじゃないですよね!? 盗賊の動向なんてわからないですし! ねぇラテル君!」
「……」
「ら、ラテル、君……?」
アフェリの必死さにも気付かない様子で、ラテルは店の前でなおも言い争っている二人を見つめていました。
「……助けよう」
「え? ら、ラテル君、何を……?」
「あのお店の娘さんを助けに行こう!」
「え、え、で、でも相手は屈強な盗賊って……、うわっ!?」
混乱するアフェリの肩をソレイユがぐっと引き、ラテルの横に並びます。
「ラテルならそう言うと思ったよ」
「ソレイユ……」
それにエトワルとリュンヌも続きました。
「ま、俺様達は魔王を退治する勇者一行だからな。盗賊くらい軽くひねってやろーぜ」
「エトワル……」
「どこまでもついて行く」
「リュンヌ……」
四人は頷き合うと、店へと足を踏み出しました。
「あの、すみません!」
「何だ! 今取り込み中……!? き、騎士様に魔術師、それに暗さ」
「斥候」
中年の男の言葉に、リュンヌがすかさず訂正を入れます。
「……し、失礼……。ではあなた方は冒険者の方々ですか……?」
「いえ、僕達は魔王を退治するために旅をしている、勇者なんです」
「な、何と……! それは渡りに船! どうか盗賊にさらわれた我が娘をお助けください!」
「はい! そのつもりです!」
「なのでその盗賊の居場所などわかる限りの情報をいただけますか?」
「勿論です! さぁ立ち話もなんですからこちらに!」
中年の男に案内され、店の中へと進むラテル一行。
「……くっ」
「……」
サンセルと呼ばれていた若い男の悔しそうな表情をリュンヌは横目で見た後、素知らぬ素振りで店へと入って行くのでした。
「あ、あたしはどうしたら……」
呆然とするアフェリをその場に残して……。
読了ありがとうございます。
さらわれた娘アンジェは、無邪気を意味するフランス語ingénuから。
若い男サンセルは、誠実を意味するフランス語sincèreから。
お義父さんはまだ出ていませんが、頑固を意味するフランス語entêtementからアンテトです。
次話もよろしくお願いいたします。




