第二十七話 王様になんてなれません!
盗賊退治の褒美に王位を譲ると言われたラテル。
王様の真意とは?
どうぞお楽しみください。
ラテルに王位を譲る。
そんなとんでもない提案に、隣に座るお妃様も横に控える大臣も入口を固める兵士にも、特に驚いた様子はありません。
ラテル一行だけが驚きを口にします。
「何をお考えですかアミーカル陛下! 王位をそんなに簡単にお譲りになるなど……!」
「それに俺様達は魔王討伐の使命を背負ってんだ! おもしれー申し出だが、魔王を退治してからにしてくんな!」
「意味不明」
「ぼ、僕も王様なんて仕事が務まるとは思いません……」
「うむ! それぞれの疑問や不満ももっともである! では説明しよう! 儂は魔法剣士じゃ!」
王様の屈託のない一言に、ラテル一行は皆目を丸くしました。
「ま、魔法剣士って、剣で戦いながら魔法も使えるっていう、あの魔法剣士……?」
「しかも剣も魔法も一流以上でなければ名乗れない名だと聞く……」
「千人に一人いるかいないかの才能に、めちゃくちゃな努力を重ねてようやくなれるってやつだろ……? マジか……」
「驚き」
「故に我が国は平和である! 儂の存在が他国の侵略や魔物の攻撃を防いであるからの! しかし裏を返せば儂が国から離れれば、国の平和が乱れる! そこで!」
王様はラテルを笑顔で見つめ、大きく頷きます。
「盗賊を退治し、その力を示したラテルがこの国を守り、その間に儂がそなたらと魔王を打ち倒す! 故にラテルに王位を譲ると申したのじゃ!」
「え……!」
「それは……!」
「おいおいおい……」
「……」
突然の申し出に、ラテル一行は目を白黒させるしかできません。
「今回の盗賊退治の手際からして、お主達は間違いなく強い! そこに儂が加われば、魔王を一年と待たずに退治する事ができるであろう! 世界は平和になる!」
「そ、それは……」
ラテルは王様の言葉に心が揺れました。
魔法剣士である王様の方が、駆け出し勇者の自分より強い事は明らかです。
(……僕が今から強くなるより、王様が戦った方がきっと早く平和が来るよね……。だったら……)
盗賊退治でもあまり活躍できなかったと思っているラテルは、王様の申し出に頷こうとしました。
その時です。
「お待ちください陛下」
「はいそーですかとはいかねーよ」
ソレイユとエトワルが、ラテルの前に立ちました。
「ソレイユ!? エトワル!? 何を……?」
「ラテル落ち着いて。二人の話聞いて」
リュンヌにそう止められ、ラテルは二人の背中を見つめます。
「ラテルは確かにまだ弱いかもしれません。しかし我々の旅をまとめる勇者はラテル以外に考えられません」
「ほう、それは何故じゃ」
「ラテルは純粋で暖かい心を持っています。それは旅立ってまだ数日の我々を強い絆で結んでくれています。これは旅を乗り越え魔王に打ち勝つ為に必要な力です」
「ソレイユ……!」
「ふむ……」
「それによー王様、一人で完璧である必要なんかねーのさ。旦那が剣、俺様が魔法、リュンヌが索敵。その中心にラテルがいるってのが大事なんだ」
「エトワル……!」
「成程の! よくわかった!」
王様は嬉しそうに膝を打ちました。
「良き絆じゃ! それは儂ではおそらく作り出せまい! その力をもって見事魔王を打ち倒してまいれ!」
「あ、ありがとうございます!」
嬉しさでこぼれそうな涙を堪え、ラテルは大きな声でそう答えます。
「これからもよろしくな、ラテル」
「王様になりたかったか? 残念、逃さねーぜ」
「ラテル。よろしく」
「こちらこそ! よろしくね!」
嬉しそうに笑うラテルに、玉座の間にいた全ての人が、微笑ましさに目を細めるのでした。
読了ありがとうございます。
さて、気さくな国王アミーカルですが、フランス語で『気さく』を意味するamicalから取りました。
戦闘に関しては、世界屈指の実力者です。
まぁこの設定を生かす事はないと思いますが……。
次話もよろしくお願いいたします。




