第二十五話 やっぱり同室はどきどきです!
盗賊を退治して帰還したラテル一行。
しかし宿の部屋がエトワルと一緒になり、ラテルは戸惑います。
ラテルは秘密を守ったまま、一夜を過ごせるのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
夕食は、宿の主人が盗賊退治の報を聞きつけていて、料理人が腕によりをかけた御馳走が並びました。
「勇者様! 盗賊を退治してくださって、本当にありがとうございます! 心ばかりですが、どうぞお召し上がりください!」
「うわー! すっごい御馳走!」
「これは豪勢だな。また美味しそうな匂いが食欲をそそる」
「よーし! 食うぞお前ら!」
「いただきます」
相変わらずソレイユは鎧兜のまま食事をし、エトワルは食べ物が仮面をすり抜け、リュンヌも覆面を一瞬ずらして消すように食べるので、異様な食卓に見えます。
しかし商路を脅かす盗賊退治は、泊まっていた行商人達にとっても悲願だったので、ラテル一行の不可解さよりも感謝の気持ちが先に立ちました。
「勇者様! お飲み物をどうぞ!」
「わ! ありがとうございます!」
「騎士様はお酒などいかがですか?」
「いや、この後も鍛錬があるのでな。気持ちだけいただくとしよう」
「魔術師様は良い飲みっぷりですね!」
「おうよ! どんどん持ってこーい!」
「斥候様は何を飲まれますか?」
「水」
こうしてラテル一行は、心ゆくまで歓待を楽しむのでした。
そして、夜が更けました。
「……」
「……」
豪華な二人部屋で、ラテルとエトワルは沈黙を重ねます。
部屋付きのお風呂をリュンヌ、エトワル、ラテル、ソレイユの順に使い、
『手で持って帰るのが面倒なのでな』
と、風呂上がりなのに鎧兜をつけたまま出ていったソレイユを見送ると、
「……」
「……」
お互い目を合わせず、それでいて何かを言いたそうな、奇妙な空気が流れていました。
(……さっきの、『一緒に泊まるならラテルがいい』って、どういう意味だったんだろう……。僕が女ってバレてたら大変だし、ちゃんと聞かないと……!)
「……あの、さ」
「っ」
沈黙に堪えきれず、ラテルが口火を切ります。
「きょ、今日は本当にありがとね! エトワルのお陰で盗賊をぱぱっとやっつけられた!」
「お、おう! そうだろう!? 俺様は最強だからな!」
「う、うん! エトワルが仲間になってくれて本当によかった!」
「……」
喜ばそうと思ったわけではなく、それはラテルの素直な気持ちでした。
しかしそれを聞いてうつむくエトワルに、ラテルは自分が何か悪い事を言ったのかと不安になります。
「あ、あの、ごめん! 何か僕、嫌な事言った……?」
「あ、いや、そうじゃねーんだ! 仲間ってのは勿論嬉しいんだが、これは俺様の問題で……」
「……そう……」
「あ……」
「……」
「……」
エトワルの言葉に壁を感じて黙り込むラテル。
再び沈黙が場を支配します。
その重い空気を破って声を出したのは、
「……俺様は、さ……」
言葉に覚悟を込めたエトワルでした。
「こんな仮面してるところから分かると思うんだが、誰にも言えねー隠し事がある……」
「えっ、そうなの!?」
「は!? おまっ、俺様の仮面を何だと思ってたんだ!?」
「え? 格好いいからかなって……」
「……はぁ……」
エトワルは深々と溜息をつきます。
それは呆れのようでもあり、安堵のようでもありました。
「あー、まーそんな訳で、俺様はまだラテル達に言ってねー事がある」
「……うん」
「でもそれは俺様自身の問題で、仲間であるラテル達にもまだ話せねーんだ」
「……そうなんだ」
「ただ魔王を倒したら、話せるようになる、と思う、多分……」
「わかった!」
「だから今は……、ってお前そんなにあっさり……」
驚くエトワルに、ラテルは嬉しそうに笑顔を向けます。
「だって『秘密がある』って言うだけでもどきどきするでしょ? でも僕を仲間だと思うから言ってくれたんだなって思ったら嬉しくて!」
「お、おう、そ、そうか。お前結構大物だな……」
「えへへ、そうかな……」
エトワルにも秘密があると知り、自分だけが秘密を持っている訳ではない事に喜んだラテルは、
「それに僕にも秘密があるから」
「え?」
「あっ」
うっかり口を滑らせてしまいました。
(しまったぁ……! 『何で隠してたんだ!』とか言われるかなぁ……。いや、それはお互い様だし……。でも『秘密って何だ!』って聞かれたらどうしよう……!)
しかしエトワルは、愉快そうに笑います。
「あっはっは! 成程、ラテルが俺様を仲間と思ってくれてる証ってか! そーだよな! 人間誰しも秘密の一つや二つ、あるもんな!」
「あ、う、うん! そうだよね!」
「じゃあ魔王を退治したら、お互い暴露大会といくか!」
「……! そうだね! それもいいかも!」
「じゃあそれまでは」
すっとエトワルが手を出しました。
「この事は二人だけの秘密だぜ!」
「うん!」
ラテルがその手を握り返し、どちらともなく笑い合います。
「さってと! すっきりしたところで寝るか!」
「うん! じゃあこの衝立を立てて……」
「お、良いもんあるじゃねーか。俺様も手伝うぜ」
「ありがとうエトワル! ……うん、これでよし!」
「じゃあおやすみラテル」
「うん、おやすみエトワル」
こうして二人は柔らかい寝台で、ぐっすりと眠ったのでした。
読了ありがとうございます。
ラテルが純粋すぎて、秘密がどこまで守れるか不安になってきました……。
バレたらタイトル的にこの話は終わりなんだけど……。
頑張ってラテル!
次話もよろしくお願いいたします。




