第二十話 この気持ちって何だろう!?
ソレイユにも秘密がある事を知り、危うく自分が女であろうという秘密を明かしそうになったラテル。
エトワルの乱入で事なきを得たラテルは、夕食後に翌日の盗賊退治に向けて、作戦会議に入ります。
どうぞお楽しみください。
食事が終わった後、四人は二人部屋に集まりました。
翌日の打ち合わせのためです。
全員の顔は真剣で、場を緊張が支配していました。
「……じゃあ作戦会議を始めよう。ソレイユ、お城で聞いてきた情報を教えて」
「あぁ。明日の盗賊退治についてだが、預かった情報によると奴らの本拠地は海際に建てられた塔だそうだ。魔物の増加で放棄したところに入り込んだらしい」
「成程な。元は海からの敵を察知するためのもの、か。いいところに目を付ける盗賊じゃねーか」
「合理的」
エトワルとリュンヌの言葉に、ラテルは首を傾げます。
「え、何で? 魔物が周りにいるところなんだよね? その方がいい理由って何なの?」
「出会わなければ襲われない魔物と、自分達を狙って追いかけてくる兵士。同じ戦うのならどっちが対応しにくいか、という話さ」
「あー」
「んで、塔の見通しの良さなら、軍を動かせば気付かれてとんずらって訳よ。陸から来れば海に、海から来れば陸に、ってな。両面作戦となれば、金がかかるしな」
「だから少数精鋭での速攻が良策」
「成程……」
頷いたラテルが、次の疑問を口にしました。
「そうすると、夜に行くのがいいのかな?」
「いや、そうすると盗賊の主力が塔の外に出ている可能性がある。奴等の活動は主に夜だ。逆に仮眠を取っているであろう昼前くらいが奇襲に最適だな」
「そーだな。バラけて逃げられると厄介だ。一網打尽に俺様も賛成だぜ」
「拘束する縄も必要。城までは運べない。全員縛って塔ごと引き渡すと楽」
「よーし、決まりっ!」
翌日の作戦が決まり、ふっと空気が緩みます。
するとリュンヌがすくっと立ち上がりました。
「では縄を調達してくる」
「あぁ、これだけあれば足りるか?」
「十分」
ソレイユからお金を受け取ったリュンヌが部屋を出ていきます。
続いてエトワルが、
「んじゃ俺様、ここの風呂借りていいか?」
「あ、うん。お先にどうぞ」
「悪いな。じゃ、部屋から着替え取ってくるわ」
と部屋を出て行きました。
残されるラテルとソレイユ。
(うわあああ! さっきは邪険にされてるのかと思ってたから気にする余裕がなかったけど、ソレイユと、男の人と二人っきりで泊まるんだよね!? どうしよう!)
男として振る舞うよう育てられたラテルではありますが、それでも娘の将来を案じるラテルの母は、男女のあれこれについて教えてありました。
(さっき秘密をバラさなくて本当に良かった! 女の人と同じ部屋に泊まると、男の人って無理矢理服を引き裂いて、……あれをこう、するんだよね!)
旅先で身を守るためにと誇張された男性の生態は、それ以外に知識のないラテルにとって恐怖以外の何物でもありません。
(……大丈夫! バレなかったし衝立も借りられたし、大丈夫!)
そう自分に言い聞かせても、動揺は増すばかり。
「そうだラテル」
「ひゃい!?」
「え、あ、すまない。驚かす気はなかったんだが……」
「ご、ごめん、ちょっと考え事してて……。で、何……?」
必死に平静を装うラテルに、ソレイユは頭を下げました。
「衝立の件、ありがとう」
「えっ!? な、何急に!?」
「さっきはエトワルがいたから言い出せなかったが、私が同室を躊躇った理由を追求せず、その上配慮までしてくれた事、本当に感謝している」
「や、やだなぁ! 仲間なんだから当然じゃん!」
自分にも隠し事があるから、とは言えないラテルは、戸惑いながらそう答えるしかできません。
「そうか……。仲間か。……嬉しいよ」
「! こ、こちらこそ……」
兜の中で嬉しそうに笑ったのがわかった瞬間、ラテルの胸に大きな衝撃が走りました。
(な、何、今の!? 正体がバレそうなどきどきとは別の、何かあったかい感じ……)
未体験の感情に戸惑うラテル。
嫌な感じのしないその胸の高鳴りに、
(……え? もしかして、僕、ソレイユの事……)
と考えた瞬間。
「ひゃっほー! 風呂だー!」
「!?」
機嫌良く飛び込んで来たエトワルに、その淡い感情は花開く前に散りました。
目を点にするラテルをよそに、エトワルは浴室へと飛び込みます。
「お! 意外と広いじゃねーか! こんな風呂独り占めなんて気分が上がるな! なぁラテル!」
「……別に」
「? あれ? ラテルも風呂、好きだったよな……?」
出かかったくしゃみを止められたようなもやもや感に、ラテルは八つ当たりに近い怒りをエトワルに感じるのでした。
読了ありがとうございます。
赤い実、不発。
でも好感度は上がっていると思います。
次話もよろしくお願いいたします。




