第十九話 秘密を持つのって辛いです!
宿屋が三部屋しか取れず、ラテルは相部屋になる事になってしまいました。
果たして正体を明かさずに一夜を過ごせるのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
豪華な二人部屋の中。
ラテルとソレイユは沈黙の中にいました。
二人きりが気まずいから、だけではありません。
「……随分と皆、僕と同じ部屋を嫌がっていたね……。最後はくじ引きまで持ち出して……」
「あ、その、嫌がっていた訳ではないんだ。ただ誰が一番ラテルの護衛に相応しいかという話で……」
「それくじ引きで決める……? それに昨日一人部屋で泊まる時には、そんな話全然してなかったのに……」
「う、それは……」
口ごもるソレイユに、ラテルは更に苛立ちを強めます。
(何だよ何だよ! そりゃ勇者だからってちやほやしてほしいわけじゃないけどさ! 豪華な部屋に泊まる事より、僕と同室になりたくない気持ちの方が強いなんて……!)
口に出さないもやもやは、ラテルの中の劣等感を刺激し、不安が思わず口をついて出てしまいました。
「……僕、やっぱりお荷物なのかな……」
「! そ、それは違うぞラテル! 同室を譲り合ったのは、その、別の理由があって……」
「……別の、理由……? それって何?」
「……」
俯く兜の中で黙るソレイユ。
表情は見えなくても、ラテルにはソレイユの苦悩が伝わりました。
(僕が女の子って事を隠してるみたいに、ソレイユにも何か秘密があるのかな……)
そう考えると、ソレイユに秘密がある事が安心するような、寂しいような、複雑な気持ちが胸の中に広がります。
許したいような、許されたいような不可解な感情に押され、ラテルは口を開きました。
「あの、さ……、その理由って、ソレイユが人前で兜を取らない事と、関係、ある……?」
「! ……」
ぴくりと震えた後に続く沈黙。
それをラテルは、ソレイユの精一杯の肯定と感じました。
「……なら、さ」
僕も秘密を教えるから、ソレイユも教えてよ。
そう口にしようとしたその時です。
「よぉ! 飯いこーぜ!」
突然開いた扉とエトワルの大声に、二人を包んでいた深刻な空気は吹き飛びました。
「な……! エトワル! ノックくらいしないか!」
「んだよー。仲間の部屋に入るのに何の遠慮がいるんだよ」
「そういう問題ではなくてだな……! 敵ではないという事を証明するためにも事前の声かけは必要で……!」
「あーはいはい。わかりましたよー。いいから飯いこーぜ! な、ラテル!」
「ふぇっ!? あ、う、うん……!」
エトワルの言葉で我に返ったラテルは、自分のしようとした事に激しく動揺しました。
(あ、危なかったぁ……! 今流されて、うっかり秘密をバラすところだったぁ……!)
「めーし! めしー!」
うきうきと食堂に向かうエトワルを見送ったラテルは、ソレイユに小声で、
「あの、さ、そしたら宿の人に衝立か何か借りようね」
「……ラテル……! ありがとう……!」
そう告げるのでした。
読了ありがとうございます。
神は言っている。まだここでバラす定めではないと。
次話もよろしくお願いいたします。




