第3.5話 トロイント(後編)
朝の日間ファンタジー46位!!
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早速ですが、タイトル変更させていただいております。
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旧タイトル
『役立たずと言われた第七王子、独力でギフト【料理】を極めたら獣人国にスカウトされる~幸せレシピでもふもふ国家を再建します!~』
「…………トロイント」
マルセラさんが呟く。その表情からは先ほどまでの余裕は消えていた。
トロイントは僕でも知っている魔獣の王の1人だ。
魔獣とは野生動物が濃い魔素(魔力の素となる元素)を体内に吸収することによって進化する獣の総称を指す。通常、普通の動物よりも大きく、手強い生物へと進化することがほとんどだ。中には人間並みの知能を持ち、魔術を操る魔獣も存在する。人間にとって、厄介な天敵である。
中でも『王』と称される魔獣は、一国の軍隊すら手を焼く害獣だ。
そんな相手にもかかわらず、アリアは真っ正面からツッコんでいく。大きく拳を掲げると、トロイントの横っ腹に正拳を突き刺した。馬車にいた僕のところまで、拳打の音が聞こえる。それでもトロイントは立っていた。それどころかアリアを蔑むように口を開けて笑う。
「こっちが本命みたいだね。武器を持ってくれば良かったよ」
「感心してる場合じゃないですよ、アリア」
「わかってる。マルセラ、ルヴィンくんをお願いね」
え? どういうこと?
「アリアは逃げないの?」
「放っておくと近隣の里や領地が襲われるかもしれないからね。時間はかかるけど、何とかするさ。大丈夫だよ。ボクはこう見えて強いからね」
アリアはつけていたマントを脱ぎ去る。
それを見て、ふとアリアが見せた本当の姿を思い出した。
そうだ。あの姿になら魔獣の王にでも勝てるんじゃないだろうか。
僕は期待したけれど、アリアは一向にその姿にならなかった。
「アリアはどうして狼の姿にならないの?」
「変身ができるのは、満月が出ている時だけです」
マルセラさんは空席になっていた御者台に飛び乗り、手綱を握る。
「マルセラさん!」
「大丈夫。アリアなら何とかします。とはいえ、ただでは済まないかもしれませんが……」
どうしよう。僕がアリアたちを巻き込んでしまった。
暗殺者たちの目的はアリアたちに対する恨みだけじゃない。僕に流れる血だ。他国にセリディア王家の血筋を渡すぐらいなら、ここで確実に息の根を止めるつもりなのだろう。
僕は客車から飛び出す。
「ちょ! 何をしているのですか、ルヴィン王子」
「え? ルヴィンくん?」
僕に魔獣を倒す力はない。かつて【万能】のギフトを持っていた時ならいざ知らず、今の僕は役立たずの第七王子だ。でも、そんな僕でも必要だと声をかけてくれた人がいる。一緒に行こうと、手を差し出してくれた大事な人がいる。
王宮ではただ失うことしかできなかった。
けれど、もう誰も失いたくない。
「ギフト【料理】発動!」
後になって考えてみると、なんでその時僕は【料理】を発動したのかわからない。アリアの助けになりたくて、ただ無我夢中だった。けれど、この判断が思いも寄らない奇跡を起こした。
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トロイントの解体方法①
トロイントの弱点は目の間にある額です。そこには脳や様々な神経が通っています。強い衝撃を与えると、立ちどころに気を失い、しばらく動けなくなります。その間に解体を始めましょう。
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何が起こったのかわからなかった。
頭に浮かんだのは「トロイントの解体方法」。
そして明確な弱点が書かれていた。
「アリア!」
「わあぉ! びっくりした! な、なんだい、ルヴィンくん」
「トロイントの弱点は、目と目の間にある額です。そこを狙ってください」
さらに追加情報が僕の脳裏に浮かぶ。
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トロイントの解体方法②
トロイントは鼻が利く一方、目は非常に悪いです。嗅覚を麻痺させることができれば、その場から動くことはできなくなります。そうなれば恰好の的です。落ち着いてポイント①に記した額を狙いましょう。
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「マルセラさん、トロイントの嗅覚を麻痺させられませんか?」
「嗅覚? できないこともありませんが……」
唐突に僕に指示され、マルセラさんはキョトンとしている。事は一刻を争う。すでにトロイントは状況を把握し、臨戦態勢を整えようと地面を掻いていた。
「マルセラ、ルヴィンくんの指示に従おう」
「いいんですか、それで」
「知ってるだろ。ボクの勘はよく当たるって」
「……良く当たるって、せいぜい10個中、4個ぐらいの確率でしょ!」
御者台に座っていたマルセラさんが飛び出していく。
懐から取り出したのは例の煙管だ。煙草に着火し、燃やすと大量の煙が上がった。
煙はマルセラさんが操る風の魔術に押され、トロイントの鼻の中へと消えていく。大量の煙を吸ったトロイントは大きくくしゃみをし、さらに悶え苦しんだ。
「今だ、アリア」
「わおぉぉぉおおおんんんんん!!」
無邪気な笑顔を浮かべながら、アリアは飛び上がる。
硬く握り込んだ拳を、僕が指示した額に打ち込む。
先ほどの打音とは比べものにならないほどの音量が森に響き渡った。
脳や神経が詰まった部位を撃ち抜かれたトロイントは足を痙攣させると、そのまま白目を剥いて倒れてしまう。
「やっ――――」
「やったぁぁぁあああああああああ!!」
アリアは僕に抱き付く。
凱歌を挙げることなく、僕の顔はアリアの胸の中に収まった。
「すごい、ルヴィンくん。君ってホント最高だよ!」
「あ、アリア…………くる…………」
息もままならないのに、僕の鼻腔をくすぐったのは煙だった。
「まさかトロイントの弱点を一瞬にして暴くとは……。驚きました」
「ボクは間違ってなかった。ルヴィンくんはホントにすごいんだよ」
「そのルヴィンくん、絞め上げているのはあなたですけどね」
「わあぉおぉぉおおおおおんん! ルヴィンくん、しっかり!」
遠くの方でアリアの声が聞こえる。
良かった。2人とも無事だ。
少しは僕の力が役に立ったなら……嬉し…………い……な。はは……。
本日もう一話更新します。
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