第31話 番犬の頭脳
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エストリア王国の国費がなくなった。
その一大事に僕を含めた幹部たちが、会議室に集結する。
テーブルの中央に座ったアリアは、終始しゅんとした様子で項垂れていた。
代わりに話を始めたのは、秘書官のマルセラさんだ。
白鼬族の彼女もアリアほどじゃないけど、こちらも落ち込んでいるように見える。
「アリア女王はとある獣人にお金を貸していました」
「とあるとは? 我々も知っている獣人ですかな?」
騎士団長のリースさんが鋭く目を光らせる。
マルセラさんは1度眼鏡を上げてから、慎重に言葉を口にする。
「ゼファです」
「ふむ。聞いたことない名前ですな。その方はどの――――」
「アホ! 元『番犬』の団員やんけ!」
相変わらず鳥頭をかますリースさんに、サファイアさんは容赦なくツッコミを受ける。どうやら、リースさんと僕、フィオナ以外は全員知っているらしい。
「えっと……。バラガスさん、ゼファさんって?」
「ゼファ・イーグレット。元『番犬』の参謀だった獣人ですよ、料理長」
「え? そんな人が……?」
「むしろ、だからだな。そうだろ、御嬢」
バラガスさんが確認すると、アリアは力なく頷く。
よっぽど信頼のおける仲間だったのだろう。
そんな人にお金を取られた。アリアが落ち込むのもわかる気がする。
「マルセラさん、もう少し詳しく教えてくれるだか」
「アリアが『番犬』の心臓なら、ゼファは言わば頭脳。荒くれ者の多い『番犬』の中でも1番頭が回り、その戦術的なセンスはセオルド皇帝陛下もお認めになるほどでした」
「セオルド陛下が……!」
「時々、何を考えているかわからないところがありましたが、団員たちからは信頼されていました。勿論、アリアやわたくしも含めてです」
次第にマルセラさんの声のトーンは落ちていく。
アリアと同じように責任を感じているのだろう。
ゼファさんにお金を借りる時、多分アリアは秘書官であるマルセラさんにも相談したはずだ。マルセラさんがどう返事したかはわからないけど、責任の一端は自分にあると思っているに違いない。
「終戦後は、エストリア王国の政に参加せず、1人大陸を放浪していたようです。そこで、つい数カ月前にふらっと我が国にやってきまして」
「お金を貸した。でも、期日までに返金されなかったというわけですだな」
「その通りです、フィオナ殿」
「脇が甘いですだよ。元『番犬』とはいえ、女王のポケットマネーならまだしも、国のお金を渡すなんて」
口調はきつかったけど、落ち込む2人を見たフィオナなりの激励なのだろう。
「それでいくら取られただ?」
「えっと……。ルヴィンくんのための学校を設立する資金として貯めていたお金を丸々……」
「すぐそいつを捜すだ! 見つけたら、そいつを鍋にして食ってやるだ!」
フィオナは髪を逆立て、怒りに燃える。
目が血走っていた。ゼファさんを見つけたら、本気で鍋にするつもりなのだろう。
「そうしたいのは山々だけど、どこにいるかわからないんだよ」
「以前の寝床ももぬけの殻でした」
「元々放浪癖が強いヤツだからな。今頃、国外にいるかも」
お手上げらしい。
けれど、フィオナは諦めない。
眼鏡を鋭く光らせ、諦めムードの獣人勢の方を睨む。
「相手は大量のお金を持ってるだ。そんなものを持って、国外をうろつくなんて自殺行為だよ。腕っ節はわからねぇだけど、野盗に奪われるリスクがあるだ。勝手知ったる国内でいる方が可能性は大きいだ」
「しかし、エストリア王国も広いですよ。ほとんどが森ですし。どこに潜伏しているか」
「木を隠すなら森だよ。犯罪者を捜すなら、犯罪者が集まりそうなところに徹底的に調べればいいだ」
エストリア王国の版図は半分以上が森に覆われているため、獣人だけでなく、エストリア国外から来た犯罪者が身を隠す場所としても知られている。それがエストリア王国の治安を悪くし、観光業を推進する上での問題になっていた。
王宮の周りにはさすがにないけど、森の奥――特に魔獣が棲む場所なんかには、犯罪者たちが作ったコミュニティーがあることは、僕も伝え聞いている。
「ゼファが見つかるかどうかわからんけど、犯罪コミュニティーに手を入れるのにエエ機会ちゃうか、団長? 最近のあいつら、随分と調子乗ってまっせ?」
サファイアさんが手を上げて、同意する。
「そうだね。ここで落ち込んでいても仕方ない。今は一刻も早くゼファを見つけて、お金を返してもらわないと」
「そう簡単に見つかるもんですかね」
バラガスさんは懐疑的だったけど、結果が出たのは3日後のことだった。
リースさんたち騎士団が、通報のあった犯罪コミュニティーに突入したところ、ゼファさんらしき人を見つける。
すぐに王宮に移送され、僕は初めてゼファさんと対面することとなった。
肩甲骨まで伸びた長く白い髪。
同じく肌も白く、まるで雪原を想起させる。
細く鋭い形のケモ耳があり、耳たぶにはピアスがぶら下がっていた。
時折、腕には美しい白の羽毛がびっしりとついていた。
「白鷺族……? この人が……」
「初めまして、ルヴィン王子。噂はかねがね。なんでも【料理】というギフトを操るとか」
「僕のことを……」
「知ってますよ。あんたは少し自分の知名度の高さを理解するべきだな」
そう言って、ニヤリとゼファさんは笑う。
今から何が起こるのか、理解しているのだろうか?
「自己紹介しましょう。オレはゼファ……」
ゼファ・イーグレットだ。以後お見しりおきを、王子。
目と嘴を光らせるのだった。




