第29話 お化け芋のお団子
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『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』が、4月25日発売です。
役立たずと言われた第七王子のギフト【料理】は、実はチートスキルだった!?
まだ原始文明の獣人王国を、一流国家にするため、ちいさな料理番が活躍します。
成り上がりあり、モフモフあり、おいしい料理ありのお話のなので、是非よろしくお願いします。
王宮の炊事場に戻ると、バラガスさんは早速パウ粉を使った団子を作り始めた。
知らなかったけど、王宮の食品庫にパウ粉は保管されていた。
それだけ獣人の間では、ポピュラーな食材らしい。
「まずパウ粉とお化け芋のすり身を合わせやす」
「お化け芋?」
首を傾げたのは、急遽予定を変更してパウ粉の団子の試食会に参加することになったカリーナさんだ。隣にはグラストさんもいて、ともに首を傾げている。
「里芋のことを、この辺りではお化け芋っていうんです」
諸説はあるそうだけど、里芋を初めて見た獣人がその独特の模様を見て、「お化けの卵だ」といったのが名前の由来らしい。
「確かに妙な模様をしているわね、里芋は」
「お化けの卵には見えないけど……」
「でも、こういう話を聞くの好きよ、私」
2人は名前の由来を知って楽しんでいる。
これもまた異文化コミュニケーションという奴だろう。
バラガスさんの調理は続く。
先ほどのパウ粉と里芋のすり身に少しずつ水を加えて行く。
最初は液状だったものが、次第に餅のように固まっていった。
耳たぶぐらいの硬さになったら、丸めてお団子上になっていく。
僕も、立候補したカリーナさんとグラストさんも団子作りを手伝う。
バラガスさんは手慣れたものだ。
餅みたいになったパウ粉と里芋のすり身を、ギュッと手の中で握ると、親指の上の付け根あたりに空いた空間から丸い団子が出てくる。それをうまく千切って、次々と団子にしていった。
団子を熱湯で茹で、火を通す。団子が浮いてきたら、冷水に入れた。これで団子のモチモチ感がさらにアップするらしい。この辺りになると、団子からほのかに甘い香りがしてくる。ぐぅっと思わずお腹を鳴らしてしまったのは、グラストさんだった。
実は、これで調理は終わりじゃない。
冷水に入れた団子を、今度は網の上で焼いていく。
「焦げ目が付いたら、これで完成だ」
パウ粉のお団子、ご賞味あれ!
焼いた表面から香ばしい香り。さらに甘い香りが鼻腔を付く。
見た目は素朴でも、人間の原始的な食欲に訴えかける色と香りだ。
「そのまま食べてもおいしいですが、うちらはこちらでよく食べてます」
バラガスさんが差し出したのは、蜂蜜だった。
なるほど。素朴な味には合いそうだな。
ちなみにバラガスさんのオススメは「塩」だそうだ。
僕たちはまず何もつけずに食べてみる。
「おお!」
「なにこれ! もっちもち!」
「いい食感だ」
うん。何もつけなくても悪くない。
特にこの食感がいい。口の中でグニッとやわらかく、ほどよく押し返し来る弾力、つるんとした表面もなかなか刺激的だ。噛めば噛むほど、団子の甘みが広がってくるし、今まで味わったことのない団子だった。
ただ素朴な味わいだけど、ひと味足りない。
そこで活躍するのが、蜂蜜というわけだ。
早速、団子に蜂蜜をひとかけ。
白い団子と、黄金色の蜂蜜の色彩がこれまた食欲を誘う。
「むぅっ!」
「おいしい」
「これも悪くない!」
とにかく相性がいい。
団子と蜂蜜の粘り気が咀嚼するたびに攪拌され、渾然一体となっていく。
そうすると団子に蜂蜜が合わさり、甘い蜂蜜味の団子になる。
この食感がないと、これは出ない味だ。
最後に「塩」を試してみたけど、絶妙だった。
団子の粘り気と、塩のピリッとした味が合ってる。
味としては淡泊だけど、いくらでも口の中に入れられそうな中毒性がある。
「いいわね。これ持って帰って、家族にも食べさせてあげたいわ」
「私は帰りの馬車でも食べたいぐらいだよ」
カリーナさんも、グラストさんもパウ粉の団子『パウ団子』を絶賛している。
その反応を見て、バラガスさんが僕に耳打ちした。
「料理長、いい反応じゃないスか? これをお土産にしては?」
「味はとってもいいだけどね。問題は日持ちするかだよ」
「その心配はいりやせん、料理長」
「え?」
「パウ粉には天然の保存効果があるんですよ。そのまま置いてても乾燥するだけで、カビたりしやせん」
「それは凄い」
「天然由来の成分――特に樹液にはそういう成分が含まれていることが多いわね」
生物学を学んでいるというカリーナさんが説明してくれた。
「恐らく森の高い湿度から幹を守るため抗酸化成分を自ら分泌してるんでしょう。自ら水を弾くような特性を作って、樹木を湿気から守っているんだわ」
エストリアの森の湿度が高いことは周知の通りだ。
なるほど。森の木にとっても、この湿度はかなり過酷な環境化なのだろう。
そのために自分で水を弾く成分を作るなんて。
自然の力って凄いなあ。
「料理長、これはお土産になりますか?」
「なるね。もう少し改良が必要だけど、1度アリアに提言してみるよ。もちろん、バラガスさんのお手柄ということも伝えておくね」
「よっしゃ! 頼んます。たまには元料理長として、威厳を見せないとね」
バラガスさんは胸を張った。
「そうなると、味はどうなるのかしら? 塩……。それとも蜂蜜かしら。私は断然蜂蜜ね。モチッとした食感と、この蜂蜜の爽やかな甘みが最高だわ」
「いいや。塩だよ、カリーナ。この素朴な味わいはやっぱり塩しかない」
「わかってないわね、グラスト。断然、蜂蜜よ」
「塩だよ、塩」
カリーナさんとグラストさんは顔を突き合わせ、睨む。
蜂蜜! 塩! と喧嘩を始めてしまった。
弱ったな、こういう展開になると思ってなかった。
「ご両人、落ち着いて。どっちの味でも楽しめるようにすればいいんじゃないですか?」
「それはいいアイディアだと思うけど、心情的に納得できないわ」
「確かに。蜂蜜が使われなかったら、勿体ない」
「言ったわ、グラスト。それなら蜂蜜か塩か、どっちがいいか他の人にも訊いてアンケートを取りましょうよ。ねっ! ルヴィンくん。良い案だとは思わない」
「アンケートですか?」
いい案だと思う。話題性もあるし、獣人の方たちも協力してくれるだろう。
それにバラガスさんのアイディアも悪くない。2つの味を販売すれば、お客様のニーズにどちらも対応できるからだ。
(でもなあ……)
僕はやっぱり首を捻ってしまう。
「そもそも料理長はどっちの味がお好きで?」
「甘い蜂蜜と、団子の味わいと一緒に食べる塩。どっちもいいと思うよ。でも、どっちも味に欠点があるんだよね」
「欠点? そうですかい? どっちもうまいと思いますが」
「味が単調なんだ」
僕はズバリ言った。
「蜂蜜も、塩も調味料としてみた時は優秀だ。でも、味のパーツに過ぎない。確かに素朴なパウ団子には合ってるかもしれないけど、もうひと味足りない気がする」
お土産にして認知してもらうためには、長い時間がかかる。
一過性の味では、国を代表するお土産にはならないのだ。
「難しいのね、お土産を作るって……。なら、いっそ蜂蜜と塩を混ぜちゃえば」
それはカリーナさんが何気なく放った一言だった。
瞬間、僕の頭の中に浮かんだイメージに、ギフト【料理】が反応した。
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蜂蜜と塩を合わせたソースの提案
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そうか。これがあったな。
そろそろアレができあがっている頃だし。
試しみる価値がありそうだ。




