第26話 くしゃみ
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久しぶりの小説!
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』が、4月25日発売です。
役立たずと言われた第七王子のギフト【料理】は、実はチートスキルだった!?
まだ原始文明の獣人王国を、一流国家にするため、ちいさな料理番が活躍します。
成り上がりあり、モフモフあり、おいしい料理ありのお話のなので、是非よろしくお願いします。
しばし僕たちはクラリスお姉様を囲んで、お茶をともにした。
僕と姉様の共通点は、はっきり言って少ない。
でも、同じセリディア王家として、昔の王宮の話は少し興味深かった。
クラリスお姉様は、実に活発な王女だったようだ。
王家の血筋を引いているからという理由で、王宮の外にも満足に出入りできないことを、昔から不満に思っていたらしい。実際、家令や家臣の目を盗んでは王宮を脱出していたというから驚きだ。なんでも王宮の裏側に、城壁の一部に子どもぐらいなら通れる穴があるらしく、そこから出入りしていたらしい。
そんなお姉様に、嫁いだ時のことを尋ねた。
割と真剣な質問だったけど、クラリスお姉様はあっけらかんとして答えてくれた。
「故国に帰れないかもしれないという思いはあったわ。でも、大手を振って外に出ていけると思ったら、すっごく嬉しかった。それにイケメンだったし」
「指を差すな」
「乱世の梟雄なんて言われてたから、もっと熊みたいな男が出てくると思ってたわ」
「熊じゃなくて悪かったな」
ギロリとセオルド陛下は自分の奥さんを睨む。
その眼光は僕やアリアを叱り付ける時と変わらなかったけど、さすが陛下の奥さんだ。涼しげな表情で、笑顔まで見せる余裕があった。
「ほら。スコーンの粉がついてるわ。お客様の前ではしたないわよ」
「わかった。これぐらい自分でやる。子ども扱いするな」
僕たちはしばし皇帝陛下と皇妃陛下のイチャイチャを見せられることになる。
1つわかったことは、意外とセオルド陛下はクラリス姉様の尻に敷かれているということだ。実際、アリアも同じことを思ったらしい。
「セオルドの意外な弱点を発見だね、ルヴィンくん」
「アリア。それは口に出したらダメだよ」
「お前たち、何か言ったか?」
「「ひっ!!」」
僕とアリアはセオルド陛下の恐ろしさを知っているだけに、反射的に背筋を伸ばす。僕たちが姉様のように、セオルド陛下を手玉に取る日はやってくるのだろうか。あはははは……。
「そ、そう言えばクラリス陛下のお姿が晩餐会にいなかったような気がするのですが、参加されていたのですか?」
アリアの言う通りだ。
一応、出席者の顔は一通り見たけど、クラリス姉様の姿はなかった。
皇妃であるなら、セオルド陛下の横にいてもおかしくないはず。
「まさかセオルド……。綺麗な奥さんを取られたくなくて、出席しなかったとか」
「よし。明日からエストリア産の豚肉に10割の関税をかけよう」
「さらっと怖いこと言わないでよ! そんなことされたら、うちの豚肉が売れなくなっちゃうよ!!」
アリアは途端涙目になり、発言の撤回をお願いする。
余計なことを言ったアリアが悪い。
でも、僕としても気になる。
皇妃が公の場に出ないということは、何か理由があるはず。
もしかして病気とか?
「ヘックション!!」
豪快にくしゃみをかましたのは、クラリスお姉様だった。
くしゃみはそれだけではない。立て続けに三連発放ち、ムズムズと鼻を押さえる。よく見ると、姉様の鼻は随分と赤くなっていた。僕と再会して涙を流した影響なのかな、と最初は思っていたけど、どうやら違うらしい。
グスグスと鼻水をすする姿が、随分としんどそうだ。
「クラリス姉様、まさかご病気を」
「ええ。でも大丈夫よ。人に移すタイプではないみたいだから安心して」
「春にも似たような症状を起こしてな。夏の間は治まっていたのだが、最近またぶり返したらしい。ちなみに皇宮の中にも、似たような症状の家臣がいてな。ひどいものでは、仕事が手に付かない者もいるようだ」
春にも似たような症状……。
鼻がグスグス……。
そしてくしゃみ……。
あれ? もしかしてそれって花粉症では?
僕には前世の記憶がある。
はっきりとは覚えていないけど、そういう病気が流行っていたことは覚えていた。所謂、植物の花粉に端を発するアレルギー性鼻炎という奴だ。
なるほど。皇妃陛下が晩餐会でくしゃみばかりすれば心配する人もいるし、お祝いムードも盛り下がるかもしれない。だから、晩餐会を辞退したのだろう。
でも、さすがにこのままじゃ可哀想だ。
何か良い方法はないかな?
僕が考えると、突然目の前に文字が浮かぶ。
レシピだ。僕のギフト【料理】が発動したのだ。
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花粉症に効く薬のレシピ
グルト草の茎を1房
レバンの実を1個
スミス草の根を1本
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これは良さそうだ。
どれも貴重な魔草だけど、この帝都なら揃えることができるかもしれない。
「クラリスお姉様。僕にお任せください。姉様の病気を治してご覧にいれます」
次の日――――。
本来なら、エストリア王国に帰る予定だったのだけど、アリアにお願いして日にちをずらしてもらった。
僕はその日アリアとフィオル、そしてバラガスさんと一緒に帝都の薬屋を回る。
少し骨が折れたけど、なんとか【料理】が要求する魔草を揃えることができた。
「良かったね、ルヴィンくん」
「はい。でも、さすがセオルド陛下が作り上げた帝都です。何でも売ってますね」
「そりゃあね。大陸の要だもの帝都は……。色んな国や地方から人や物が集まってくるんだよ」
いつかエストリア王国も、獣人や人族が垣根なしに共生する国にしたいなあ。
そのためにはまず獣人たちがとても素晴らしい種族であることを知ってもらわないといけない。だから、エストリア王国に生きる数少ない人族として、僕の役目は重要なんだ。
「ところで、ルヴィンくん。なんであんなものを買ったんだい? 最初聞いた時はびっくりしたよ。そんな食べ物もあるんだね」
アリアはバラガスさんが抱える荷物を覗く。
そこには魔草以外にも、帝都で見つけた珍しい食べ物が入っていた。
「すっごく身体にいいんだよ。アリアにも食べさせてあげる」
「え? いいよ。なんか変な匂いがしそうだし」
アリアは眉間に皺を寄せるのだった。
皇宮に戻り、僕は花粉症に通じる薬を煎じる。
出来上がった薬を、早速クラリスお姉様に飲んでもらった。
しばらく目に見えて、何も起こらなかったけど、次第にお姉様の表情が変わっていった。すんすんと鼻を動かし、やがて大きく鼻で息をする。
「治ったかも」
「本当か?」
様子を窺っていたセオルド陛下は、腰を浮かす。
クラリスお姉様自身も信じられず、唖然とながらも新鮮な空気を体内に送り込む。
心なしか赤くなっていた鼻の色も、元に戻っているような気がする。
我ながら驚くべき効能だ。前世にこの薬があったら、僕は億万長者になっていたかもしれない。
「ありがとう、ルヴィン。すごいわね、それがあなたのギフトの力なのね」
「はい。僕のギフトは【料理】だけになりましたが、この力は色々なものを作ることができます」
作るだけじゃない。
ギフト【料理】は、僕の人生すら導いてきた。
【料理】がなければ、エストリア王国は未だに毎年餓死者を出すような劣悪な環境だったかもしれない。
「そう。あなたはちゃんとあなたの居場所とやるべきことを見つけたのね」
「はい。僕は女王陛下の料理番ですから」
僕はアリアに振り返る。
アリアも僕の方を見て、にこやかに笑った。
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