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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
18章 権威に群がる者たちの輪舞曲

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第998話 炙り出し作戦

 リノさまの涙が引っ込んだようだ。


「裏に扇動者がいます」


「ど、どういうことですか?」


「新年会で怖い目に遭われましたね? あの件の詳細は聞かれましたか?」


 リノさまは頷く。


「大体のことは」


「わたしを貶める新興宗教が出てきたことは?」


「聞きました」


「公爵さまが確認も取らずにそんなことを思われているのなら、そう思われるように動いたものがいるはずです」


 目を大きくしている。


「目的は? セローリア家とシュタイン家を仲違いさせることですか?」


 うーーん、考えて思う。ずーっとずーっと先の目的は、わたしが困ったことになる、だと思うんだよね。

 でもその前の目先の目的。


「扇動者はわたしとリノさまを仲違いさせたいのだと思います」


「なぜ?」


「それはわたしにもわかりません。でも、そのままやられているだけって腹が立ちませんか?」


 焚きつけると、リノさまはわたしの手をギュッと握る。


「腹が立ちますわ! ものすごく! わかりました! 思惑なんかに決して乗りません。私たち仲違いなんて絶対しませんわ」


「リノさま、逆です」


「逆?」


「ええ。わたしたち仲違いしましょう。敵の思い通りになってやりましょう。それで何をしたいのか探りたいんです。協力してくださいませんか?」


「わ、私とリディアさまが仲違い、ですか?」


「ええ、演技で。人の見ているところで、わたしたちは通じ合っていることがバレたらいけません。わたしのことを忠告するお友達には、少し寂しそうにして、どんなことが考えられるかとか尋ねて情報を引き出してください。公爵さまにはリノさま自身がわたしと片をつけたいとか言って、何もしないようにしていただけると助かります」


 プッとリノさまが吹き出す。

 え?

 リノさまがわたしを見て、にっこり笑われた。


「リディアさまにかかると、難題だと思うことも、全く違うことになりますのね」


 わたしたちは具体的な仲違いの内容を話し合った。

 もふさまも聖樹さまもコメントは控えるそうだ。

 扇動者の思い描くように乗ってあげましょう。


「本当にリディアさまってすごい方、ですね」


「……それはリノさまです。リノさまはハープの音色に憧れて短い期間で瞬く間にお上手になられました。指を痛めながらも練習を怠らなかった。

 わたしが習う楽器をハープに決めた理由。音色はもちろん好きですが、希少なものだから買うことが難しいと思ったからです」


「買うのが、難しいから、ですか?」


 きょとんと首を傾げる。


「わたしは怠けものなので、地道な練習とか好きじゃないんです。だから練習をしなくて免れられるよう、家に置けない楽器を選んだんです。

 わたしはひたすら好きなことに向き合って、指をボロボロにしながらも何度も繰り返し練習して、会得されたリノさまを本当にすごいと思いました」


 リノさまはうっすら口を開かれている。


「魔法戦の合同授業で、先生に注意されたことは次の授業の時には直っていらした。戦うときの癖って直すのが大変なのに。この方はどんなに練習をされたんだろうっていつも思ってました。なんて頑張り屋なんだろうって」


 リノさまは驚いてから花が開くように笑った。


「……リディアさま、記憶が戻ってらっしゃるのね」


 あ、しまった。


「はい。知られない方が有利なことが多いので、まだ戻ってないことにしてあるんです。内緒にしてください」


 お願いすると、リノさまは頷く。

 そしてわたしに抱きついた。

 え?


「リディアさま、お帰りなさい。それから、仲の悪い演技はしますが、リディアさまのこと大好きです。忘れないで」


 わたしもギュッとした。


「ありがとうございます、リノさま。わたしもリノさまのこと大好きです」


 わたしたちは手を離して笑い合った。

 それからわたしはもう一度聖樹さまにお礼をいって、さらに願いをひとつ取りつけた。リノさまも頷いてくださった。そこはわたしを信じてくださるのだろう。



 戻ってきた。

 アダムが、メリヤス先生が、心配そうにリノさまを覗き込む。

 リノさまは驚いた後、わたしにチラリと目をやって、納得したかのように目を伏せる。


「ご心配をおかけしましたが、もう大丈夫です。ありがとうございます」


 とふたりにお礼を言う。


「リディアさま、お尋ねしたいことがあります」


 お、ここからもう始めるのね。


「はい、なんでしょう?」


「リディアさまは、私の敵になり得ますか?」


「……まさか、そんなこと……」


「妹ぎみに縁談がきたそうですが……」


「お断りしています」


 リノさまは少し顔をあげて唇を噛みしめた。

 メリヤス先生は軽く口をあげ見守り、アダムは変な顔をしている。

 アダムは縁談の相手が誰だか知っている。メリヤス先生がご存知かはわからないけど。

 シュタイン家が第三王子につかないと言ったのに、リノさまが不安げなのは首をかしげたくなるものね。

 リノさまは目を伏せる。それからベッドから起き上がろうとした。


「セローリアさん、顔色が悪いです。もう少し、休んでいかれては?」


 リノさまは上掛けの上に出している手をギュッと握りしめる。


「エンターさま、リノさまがお休みになれるように、わたしたちは出ましょうか」


「……そうですね」


 リノさまとメリヤス先生に頭を下げて、お大事にと声をかけて保健室を出る。


「セローリア公爵令嬢は、何を憂いでいるんだい?」


「もふさま」


 もふさまは頷く。


『会話を拾えるところには誰もいないようだ』


「リノさまと協定を結んだ」


「は? え? いつ?」


 わたしは一応声を潜めてアダムに話す。


「なるほどねー」


 アダムは腕を組んでいる。


「君は本当に頭が回るね」


 アダムは苦笑いしていた。

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― 新着の感想 ―
やっぱり長く会話するとバレちゃうね(笑) 公爵さま下手に関わって暗躍しようとするとリノさま巻き込んで自滅になりそうだから娘を信じて大人しく待っててほしいな。 聖樹さま空間、学園内ならいつでも行けて時…
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