第916話 Get up⑦癒しにも攻撃にも
「いや、君のことだ、アリやクイ、それから僕たちにも聖力で傷つけちゃったらどうしようとか悩みそうだから。
マルシェドラゴンを治す時まで聖力を使ってなかったとしても、聖属性は持っていたはずだ。それでも長いこと一緒に暮らしていて、不具合が起こることはなかった。だから大丈夫といえると思う。でもそう口で言っても、君は気にするだろ? だったら、試して結果を出した方がいい」
「試すって?」
「この中にはちょうどいい場所がある。そこで試してみよう。僕も気になるし」
「なるほど」
ロサが言って立ち上がる。
連れられて行ったのは体育館? ゴールはないけどバスケットの試合が4試合同時にできそうだ。
「アリ、クイ、君たちは手加減した攻撃をできる?」
アリとクイは顔を見合わせている。
「だったら僕がやってもいいかな?」
アリとクイが頷く。
「そうだな順番として神力が聖属性の者への攻撃力を試す。もし何かあったら光魔法を使ってもらわないとだからね。その後に聖力での攻撃、だな」
ロサが順番を立てた。
「お遣いさま、お願いできますか?」
もふもふがみんなから離れる。
「え? なんで?」
「ん? 君にだけだと、属性でダメージがいくのか、攻撃力でダメージを受けたのかがはっきりしないだろう?」
「傷にならないぐらいの攻撃です。リディア嬢にはさらにその10分の1にします」
『いいだろう』
アダムは片手をもふもふに向かって突き出すようにした。
「スパーク」
アダムの掌にプラズマと言いたくなる真っ黒な何かが生まれる。その暗い中に光が右往左往していて、真っ白になり弾けた。光の矢がもふもふに向かう。
トスンともふもふに当たり光の矢が消える。
「もふもふ!」
『案ずるな。そうだな、これくらいの威力なら物が当たったぐらいだが、それにしては響くから神属性だというところか』
わたしはみんなにもふもふの言葉を伝えた。
「では、次にリディア嬢。今の威力の10分の1の魔力を飛ばす。
いいかい、最初は魔力を飛ばす。君を狙うわけではない。
そしてその後に同じ威力のもので君を狙って打つ。
怖いならやめておこう。どうする?」
「……やる」
わたしはもふもふと場所を交換する。
もふもふとアダムは差がありすぎるから普通の攻撃は無意味なので省略したそうだ。
ちょっと心臓がどきどきしている。
「じゃいくよ」
アダムが片手をあげた。
その掌に小宇宙ができていく。中では星々がヒュンヒュン飛んでいる。
もふもふの時よりさらに小さいものだけど……。
「スパーク」
星の動きが早くなり真っ白になって弾ける。
コツン。その矢がわたしに当たる。
あれ、痛くない。ただ当たっただけだ。
「当たったのはわかったけど、痛くなかった」
「わかった。次いくよ。今度は少し衝撃があるはずだ。君に狙いを定める」
「わかった」
アダムが片手を上げる。
みんながわたしたちを見守っている。
同じぐらいの小さな宇宙。ヒュンヒュン光が飛んでいる。
「スパーク」
ゴツン!
痛くはない。けれどさっきとは全く違う尖った感じ。
「痛いまではいかないけど、さっきとは違う。なんか尖ってた」
「やっぱりそうか。神力も君を傷つけようとしていなければ、普通の攻撃のダメージと同じだ。ただ君を傷つけようと神力を使えば、君は普通の攻撃よりダメージを喰らう」
アダムはアリとクイに向き直る。
「君たちがリディア嬢に向かって神属性の攻撃をするんでなければ、たとえば攻撃のトバッチリを受けたとしても、神属性だから特にということにはならないということだ」
『そうか、よかった』
『それなら安心。リーを傷つけようと思うことはないから』
アリとクイがわたしの肩に上がってきた。
「では次、リディア嬢、私に聖力をぶつけてみてくれ」
ロサはにこりと笑う。
「リディア嬢、最初は何も思わずに聖力を。次にブレドを傷つけようと思いながら聖力を飛ばすんだ」
ええっ。
「そ、それでロサが怪我しちゃったら?」
「不味そうだったら防ぐから。いいよ、どんときて」
「せ、聖力で攻撃ってしたことないんだけど」
「お遣いさまにコツとか聞いてみたら?」
え。
イザークに助言をもらう。
「もふもふ、聖力ってどうやって使うの?」
『そうだな。リディアは聖力を使えたことがあるだけで、聖力をわかっていないだろう。聖力は聖水に乗りやすい。願いを込めて投げてみろ』
わたしはもふもふの提案をみんなに伝えて、その通りにやってみることにした。
魔法を人に向けてぶっ放すより、ずいぶん穏やかでいられる。
えっとまずは何も考えずに。
聖水をロサに向かって撒く。
「……聖水だね」
そうだよね。
「じゃあ、次はロサへの攻撃って思いを込めるからね」
「わかった」
掌をまるめ、そこに聖水を入れる。ロサをちょっぴり傷つける。そう聖水に思いを込めれば、水面が揺れた。思いが入ったってこと?
他の魔法を使うのと同じような感じだ。
わたしはその聖水をロサに撒いた。
さっきと同じように撒いたのに、水はひとつの塊となってロサに当たる。
「これはすごい、衝撃があった」
「ええ? 大丈夫?」
「あ、全然問題ない。大丈夫だよ」
「リディア嬢、僕にもやってみてくれないか」
アダムが頬を上気させている。君はMかい?
要望にお応えして、攻撃の聖水をアダムにかける。
「本当だ。この水量での目測より衝撃は強い。面白い!」
アダムは興奮している。
『リー、攻撃してみて』
クイとアリにおねだりされた。
攻撃の聖水をふたりに振り撒く。
『本当だー。お風呂では気持ちいいんだから、気持ちで変わるんだね』
とアリが言った。
アオが通訳して、みんなお風呂ではってどういうこと?と興味を持った。
アリたちはわたしがよく聖水風呂にしているんだと話す。
「聖水風呂?」
「神獣のノックスさまもリディアの優しい気持ちが入っているから、聖水入りでも大丈夫だし気持ちいいって言ってたでちもんね」
とアオが言う。
ノックスさまとは仲良くなった神獣さまで、わたしに祝福をくれたそうだ。
「君の聖力も思いの加減で、癒しにも攻撃にもなるってことだね」
と言われる。
ほっとした。アリとクイは神属性。知らないうちに傷つけたりってことがあったら怖いもの。でも傷つけようという気持ちがなければそうはならないらしい。よかった。
この後、みんなが聖水風呂に入ってみたいと言うので、お風呂に癒しの気持ちを込めた聖水を入れた。
余談だけど。神属性の3人も、それから神属性じゃないみんなも、普通のお風呂よりすっごく気持ちのいいお風呂だったと感想をもらった。




