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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
17章 わたしに何ができたかな?

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第856話 逃走劇⑧慣れ

 うとうとしていたみたいだ。

 扉の開く音で、ぼんやりと起き上がる。


『フランツだ』


 クイが教えてくれる。

 フランツが帰ってきた。ご飯だ!

 急にシャッキリした。もふもふも起きて、クイもわたしの肩に飛び乗った。


『あの女が来たぞ』


 あの女?


「アダム?」


 衝立のこちら側でわたしは笑ってしまった。

 上着に話しかけてる。

 いつ気づくか見守ろう。

 奥のお風呂場から水音とアオの〝でち〟が小さく聞こえた。


「戻ったからベッドで休んでくれていいぞ。寝てるのか?」


 フランツが荷物をテーブルの上に置いた。椅子の方は見なかったようだ。

 そこにノックがあり、少しの応答の後、フランツは少しだけドアを開けた。

 そこに体をねじ込ませるようにして入ってきたのは、赤いドレスの女性だった。

 ほんのり甘い香が漂う。

 衝立の横から首を出すようにしてそうっと覗き込むと、あの女性だ。派手な女性が軽くドレスアップしていた。3割増しで色っぽい。強烈なアイメークも、今は優しい感じにしている。


「ごきげんよう」


「……何の御用ですか?」


「お礼のお食事に付きあってくださいな」


「なぜ私が?」


「では、大切な〝妹〟さんでもいいわ」


 フランツが動いた。

 女性が閉じたドアに押し付けられて、その喉にフランツの手があった。


「何が目的だ?」


 凄みをきかせたフランツの声。


「ちょっ、しょ、食事をご馳走するって言ってるだけでしょ」


 哀れに震えている声。

 フランツがスッと手を外す。


「私たちにかかわるな」


 冷たく鋭い警告。


「いやよ」


 女性が可哀想と思いかけていたんだけど、心配なさそうだね。

 うん、鋼のメンタルだ。

 ため息を落とすフランツ。


「なぜ私に興味を持つ?」


「そんなの、あなたがいい男だからに決まってるじゃない」


 女性の声はもう震えてなかった。

 ま、そうだろうとは思っていたけど、フランツがかっこいいから、ちょっかいかけてきてたわけね。


「……そういうのは間に合ってるんで」


「なぁに、妹の前でいいお兄さんでいたくて、自分は恋愛しないっていうの?」


 え?

 この場合、妹=わたしのことで、わたしがいるからナンパにのれないってわけ?

 ……当たってる。今、わたしをユオブリアに無事に届けようと、フランツもアダムも協力してくれてる。だからあんなボン・キュッ・ボン体型の派手な美女に誘われてものれないってわけだ。

 ……わたしってお荷物だな。


「そうではない。私にはもう大事な人がいる。ただそれだけだ」


 ……フランツ、そういう人がいるんだ。

 そっか、そうだよね。もう成人してるんだもの。


「あら、ひとりに操だてしているの? 今時そんなの流行らないわよ。男なら体が火照る時もあるでしょう? 私が体を慰めてあげるって言ってるの」


 これってめちゃくちゃ誘われてるじゃん。

 フランツは断りたかったら自分でも断れるだろうけど、わたしがお兄ちゃんとか声を掛けた方が断りやすいかな?

 あ、でも、若い時男性は溜まるとどこかで聞いた気がするし、ずっと団体行動してたし。子供のわたしにはわからないけど、大人の女性から見て溜まって見えたのかも。だとしたら、断りたくないかもしれないし。やっぱり出ていかない方がいいか。

 ん? 溜まるってなんだっけ? その先はぼんやりした記憶だ。

 ふと思い出すこともあるんだけど、元々の記憶からぼんやりしていることなのか、上辺だけを思い出しかけたのかはっきりしてないことが多い。


「必要ないので、お引き取りください」


 フランツが一歩踏み出して、圧をかけ女性を追い出そうとした。


 !


 女性はそのフランツの胸に手を当てる。

 指先が艶っぽく見えた。


「もしかして、女の肌を知らないの?」


 なっ。

 フランツは動じず、女性の顎を指で上に向かせる。自分から目を離すなというように。

 そうしてもう一歩踏み出したので、女性の足の間に踏み込んだような態勢になる。


「男の熱を知ってるのか?」


 目を離さず、見つめたまま低音で言った。

 離れた場所で見ていたわたしがゾクッとした。

 なんかそこの空間だけ熱気がこもっている。

 なんかいつものフランツと違って、知らない人を見ているようで。

 っていうか、男の色気っていうやつ?

 何それ……。

 へーーーーーー。

 ふぅーーーーーーーん。フランツって慣れてるのね。

 顔はいいし、場数、踏んでるか。


「教えてくれるの?」


 女性がフランツの顔に顔を近づけた。


 !


 あ、あああああわゎゎ!

 ズドンと衝立が倒れた。

 音で振り向いたフランツが驚いた顔をする。


「な、何でそこに!」


「ご、ごめんなさい。どうぞ続きを……」


 わたしはぬいぐるみになった、もふもふとクイをむんずとつかんで、ベッドにまわりこむ。

 見てたの、バレた。

 でも、だって。目が離せなかったんだもん。

 フランツは早口で何かを言って、女性を部屋から追い出して扉を閉めた。


「……トスカ」


「ごめん。声をかけるタイミングが」


「トスカ、こっちを見て」


 うーー。


『どうしたのだ?』


 もふもふがぬいぐるみから生き物になった。サイズはそのままだけど。

 クイもだ。


「あの、ごめんなさい」


「謝ることないよ。声を掛けてくれてよかったのに」


「…………」


「どこから見てたのかはわからないけど、あの人がお礼をと言っていたのを断っていただけだからね」


 えーーーーー、それだけじゃないよね?


「なかなかしつこいから、ちょっと脅す形になったけど」


「わたしに言い訳しなくていいよ」


 わたしは明るく言ったつもりだ。


「守ってもらってばかりで。溜めるのは良くないって聞いた気がするし。わたしは気にしないから、フランツの好きに……」


 目の前にフランツがいて驚く。


「た、溜めるってそれどういう意味かなぁ? そんなこと、君に吹き込んだのは誰? バッカスか? 絶対あいつら許さない……許さない、許さない……」


 フランツが怖い!

 そこにアダムがお風呂から出てきた。


「な、何してる? トスカが怯えているようだけど」


 その言葉でフランツがわたしをマジマジと見た。

 


 


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― 新着の感想 ―
フランツェ…もっと取り付く島もない感じで断るのかと思ってたら…へーほーふーーん?そういう断り方なんだ…? 記憶がなくて良かったね?あったら遊び人疑惑で修羅場だったよ。なくても婚約者バレした時に一騒動あ…
前世側の記憶が強いからトスカは後は若い二人に任せて〜な感じで言ってますね。 フランツはリディアにこんな事言われてショックでしょうし次のバッカスの拠点では大暴れしそうです笑
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