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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
17章 わたしに何ができたかな?

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第802話 笑うことを忘れた少女①見つけた

 さっきの子だ。


 看守が案内しているということは、お客さまだったのか。子供なのに。

 確かに、いい服を着ている。わたしたちに支給されているものとはまるで違った。見かけた時は魔力たっぷりの上層部の子なのかと思った。


 銀短髪の少年は、さっきすれ違った時、微かだったけどダークブラウンの瞳を大きくした。見間違いかもしれないけど。それで記憶に残っていた。


「トスカ、とば口を開けて」


 わたしは頷いて、ゴミ袋のとば口を開けてミミに向ける。

 ミミはわたしより年下だが、お姉さんぶりたいみたいで、かいがいしくわたしの世話を焼く。この班に入ったのはついこないだでわたしは新参者だし、年齢は上でも誰よりも体が小さいので、そうなるのかもしれない。


 アリの巣のような地下迷宮。ひとつひとつを小さな部屋のように使っている。住人がいない時に、その部屋のゴミを集めるのがわたしたちの仕事だ。

 組織の中では魔力の量で優劣が決まる。

 魔力のないわたしたちは、この組織の中で最下位の存在だ。


 急に手が伸びてきて顎をつかまれた。打たれるのかと思って体が縮こまる。

 ギュッとつむった目を恐る恐る開けると、わたしの顎をつかんだのは銀髪の少年だった。


「若君、その者が何か?」


「最下層にいるのに、見目がいいじゃないか」


「こいつは最近、この〝アリの巣〟に送られてきたんですよ。可愛い顔はしてますが魔力はねーし、愛想もない。だから親に捨てられたんでしょうね」


 わたしたちの担当である看守は、楽しげに話している。


「親に捨てられたのか?」


 銀髪が手を離した。殴られなくてほっとする。


「そいつの親は組織のいいところにいたんでしょうな。でも仕事に嫌気がさしたのか、組織の金を盗んで、子供を置いて逃げたそうですよ。そのショックでこいつは何も覚えてねーそうだ」


「それで親の借金を背負わされたってわけか」


「けど、魔力もねー。なんもできねーガキだ。だから奴隷商人に引き渡すことにしました」


 え? 決まったのか。ここに送られた時から売るとは言われてたけれど、こんなすぐとは思っていなかった。

 同じ班の子が怯えた表情でわたしを見ている。


「へー、奴隷商人にか」


「気にいったんなら、上に話つけてきましょうか?」


「いいや、見目がよくても魔力がないなら話にならない。それなのに、親が金を盗んだってことは上乗せさせられるんだろう? 気に入ったなんて尾びれまでついちゃ、どれだけふっかけられるかわからないしな。

 それにしても、記憶のない親の借金まで背負わされるとは、気の毒だ」


 銀髪は上から下までわたしを見た。

 記憶のない親の盗んだ金、確かにそうだ。今まで親が盗んだのなら、わたしが返すのは道理だと思っていたけれど、少年のいう通り、わたしにはその親の記憶がない。理不尽な気がしてきた。


 ミミに手を引っ張られ、次の穴に入っていく。そこでのゴミ集めが終わり、また通路まで出ると、さっきの少年がまだいて、看守が上に向かう通路を走っていくところだった。

 ミミに引っ張られ、また違う穴の中に導かれる。


 ムアッとした空気と、こまめにゴミを集めているのに嫌な匂いがする。

 こんな地下に暮らしているからだ。

 外を見られないのも、人は暗い気分になる。

 って、わたしは今まで地下で暮らしていなかったのかな?

 だから地上を恋しく思うのかな?


「奴隷に売られたら死ぬぞ?」


 背中にこそっと声がかかった。

 ま、奴隷に売られようが、どこでお前がくたばろうが、俺にはなんの害もねーけどなと銀短髪は笑って続けた。

 別の看守が向こうから歩いてくる。下層全体を取り締まっている看守だ。


「賭けをしないか?」


 賭け?


「見事、ここから抜け出せたらお前の勝ち。少しばかり助けてやろう」


 少年はかなり先にいる看守に、チラッと目を走らせる。


「そんなことをして、あんたになんの利益が?」


「暇つぶしになる。奴隷になっても死ぬし、買い取られなくても、お前魔力ないんだろ? 早々に始末されるぞ?」


 ここは魔力至上主義だ。

 だから魔力のないわたしや、同じ班の子は最下層で、ゴミ集めという汚れ仕事をするしかない。だから少年のいうことが全くの嘘ではないとわかる。

 ……でも。


「……なぜ焚きつける?」


 わたしは振り返って少年に尋ねた。

 目の前の少年は、わたしをここから逃げ出すように仕向けていると感じたからだ。


「……君の目は、目だけは諦めてないから、暇つぶしに賭けをしたくなっただけさ」


 ふっと笑った。

 それがなんか決まっていて、なんかむかつく。

 そんなふうに言って、絶対逃げられるわけないと思ってるな。

 睨みつける。面白がっているのはわかっているけど、後悔させてやりたくなる。


「若君、この落ちこぼれに何か?」


 やってきた下層の看守が、少年に尋ねた。


「いや、イキがよさそうだと思っただけだ」


 下層看守に前髪をつかまれた。

 短い髪を鷲掴みしてくる。


「このお方に失礼なことは言ってないだろうな?」


 強くつかまれ、痛みで目の奥がじんっとする。


「おい、もうすぐ売るんだ。傷はつけるな」


 後ろから来た看守が嗜めた。中層の看守だ。

 ただ手を離せばいいだけなのに勢いをつけるから、わたしはもっている袋ごと転がって、今まで集めたゴミもばらまいた。


「ったく、使えねーやつはどこまでも使えねーな」


 背中を蹴られる。

 ゴホッと咳が出た。

 縮こまっているミミたちと目があう。

 看守のひとりに腕を持って立たされる。


「何サボってやがる、仕事してこい」


 袋に散らばったゴミを入れて、次の穴に移った。


「あ、こいつだけじゃなくて、お前たちみんな売ることに決まったぞ」


 中層の看守はみんなの顔が歪むのを嬉しそうに見ている。

 本当にここはロクでもない大人しかいない。

 ここでだっていい扱いを受けているわけでもないけど、組織の中ではある。わたしたちは組織の所有するものだ。それが個人の所有物となったら、これより酷い扱いになることは目に見えている。

 ミミはガタガタ震えていて、その姿を見て看守たちはニヤニヤしていた。

 本当に最悪だ。

 


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― 新着の感想 ―
リディア髪ざっくり切られて記憶消されて魔力封じされちゃった??えっリディアだよねこの子?ガインの態度が初対面時のガラ悪だけど… この子がリディアなら魔力封じだとこんな環境じゃしんじゃうから前みたいに…
突然の場面転換に驚き。 彼女が何者なのかはまだ始まったばかりなので断言できませんがガインは何しているんでしょうか?
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