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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
14章 君の味方

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第601話 生きてる

 兄さまは固まって動けなくなっていた。

 母さまの胸が痛くなる泣き声に、身をすくませて支えている。


 父さまは、兄さまをその上から抱きしめる。

 ふたりは「守ってやれなくてすまない」と泣き続けた。


「それは違います」


 と兄さまは言った。


「守ってくださいます。守ってくださっています。……私の代わりに罰を受けることも厭わないでしょう。だから、ここにいてはいけないと思ったんです」


 兄さまの本心は、やっぱりそこだったんだ。

 わたしも、父さまと母さまは守ろうとすると思う。守らなくていいとどんなに言っても、聞き入れてもらえない。そうしたら……守られる側が守ろうとする側を切り離すしかない。それはすごくよくわかる心理だった。



 わたしたちは兄さまの別荘に到着し、それからルームへと移動した。そこで父さまと母さまを呼び出した。

 兄さまは、マントに包んだわたしを、父さまに渡した。

 父さまはわたしのおでこにキスをする。

 母さまもわたしの髪ごと撫でてくれた。そしてソファーに下ろし、兄さまを抱きしめた。そして長いこと泣き続けた。


 やっとやっと涙も落ち着いてきて、そこからはあっという間に怒られモードになった。

 とにかく眠くならないうちにと思って、大方のあらましと、これからしたいことを話したところで、限界がきてわたしは眠った。




 起きるとサブハウスのわたしの部屋に寝かされていた。

 母さまが着替えさせてくれたんだろう。久しぶりに、服を着ている。

 布団の上に猫ちゃんがいた。


「もふさまは?」


 尋ねると「なーご」と鳴く。

 もふさまが、もふさまたち専用の出入り口から入ってきた。


『リディア、起きたか』


 猫ちゃんは立ち上がりベッドから降りて「なーごなご」とまるで話しかけるようにもふさまに訴える。


『何を言ってるのか、わからん』


 まるでお話ししているみたいだから、もふさまも猫ちゃんの言うことがわかるのかと思って、期待しちゃった。


『領主が、リディアは相手側が動くまで、こちらで過ごすようにとのことだ』


「兄さまは?」


『領主に今後のことを相談している』


 もふさまとお喋りしていると、母さまがお盆を持って部屋にやってきた。

 母さまはお盆をテーブルに置いてから、わたしを起こし、ぎゅーっと抱きしめる。


「この姿のリディアと、また会えたわ」


 ……母さま……。


「わたしも、トカゲと結婚することになるのかと思ったよ」


 と軽口を叩けば、母さまは泣き笑いの顔になった。

 母さま、今日は泣きすぎだね。目が溶けちゃうよ。

 だからわたしはトカゲだった時のことを、面白おかしく話した。

 母さまは笑ってくれていたのに、だんだん雲行きが怪しくなっていき、トカゲ嫌いに見つかったところで鬼の形相になった。

 鳥に咥えられたのは端折り、外に逃げ出したところで兄さまに助けてもらったんだと話を繋げれば、驚いた顔になった。セーフ。


 母さまは具沢山のスープを食べさせてくれた。

 体も拭いてくれてスッキリする。




 夜になると、父さまがやってきた。

 よく見ると、父さまの白髪がさらに増えていた。

 わたしの手をとり、人の姿に戻れて本当に良かったと言った。

 そして、けれど、わたしのとった行動に、これほどがっかりしたことはないと……泣かれた。


 わたしが無茶をしたがるのは、人より魔力が多かったり、属性が数多くある自負があるからだと思っていたと言った。トカゲの姿、それもとても弱い生き物になり、魔法も使えない。わたしはそういう計算ができると思っていたから、その姿で魔法も使えない状態では、隠れるようにしているだろうと疑っていなかった。それが抜け出して、はるか遠い国に行っていたとは、と。


「フランツに会わなかったら、リディアはその場で命を落としていたかもしれない」


 まさしくそうだったので、ギュッと口を結ぶ。


「娘がそんな危機に陥っていることも、どこにいるかも知らない愚かな父親にしたかったのか?」


 わたしは涙で頬を濡らしている父さまに、ただ首を横へと振った。


「農場に行けば、フランツに会えると思ったのか?」


 驚きながら、首を横に振る。


「では、どうして?」


「……怖かった」


「怖かった?」


「トカゲになったことも怖かったけど、呪術を掛けるぐらい憎まれているのが怖かった」


 父さまが、痛みを受けたように目を細めた。


「何もしないでいたら、そのまま本当にトカゲになっちゃって、リディアだったことが、わからなくなるかもしれないのも怖かった。だったら、リディアの記憶があるうちに、トカゲだからできることをしようと思った。そうすればトカゲである意味を持てると思ったから」


「……そうだな、怖かったな……。どうして怖いって言わなかった?」


「……口にしたら、本当にそうなっちゃいそうで。わたしが認めているみたいで、とても口にできなかった」


 父さまは、ゆっくりわたしを抱きしめた。


「そうか、わかった」


 とわたしの頭を、ずっと撫でてくれた。


 わたしの罰は保留になったけど、サブハウスでひとりでの謹慎はマストだった。


 でもそれぐらい、どうでもいいことだった。

 わたしは今、生きている。

 自分を蔑ろにしてきたつもりはないけど、わたしは自分をもっと大切にしようと思った。

 トカゲになって、わたしは〝リディア〟の自分が大切だと気づいた。

 人型に戻れて、本当に感謝した。

 わたしのやりたいことは、人のリディアじゃないとできないこと、意味がないことがほとんどだから。


 だからね、感謝して、わたしを大切にするんだ。

 だけど、脅かしてくる輩がいる。

 少しだけ力が入るようになってきた手を、握りしめてみる。

 まだ弱い拳にしかならないけど……わたしはやり遂げてみせる。

 オババさまも、そう言ってくれたもん。わたしは最後にはやり遂げられるって。

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― 新着の感想 ―
[一言] がっかりとか愚かな父親にしたかったのかとか言われてもなあ…即死呪詛掛けられてトカゲになって元に戻れるのかもわからないままじわじわ心身ともに己がトカゲ化していく恐怖はリディアにしかわからないよ…
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