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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
13章 いざ尋常に勝負

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第517話 わたあめ

 応接室へと戻った。


「ショック療法だったわけ?」


 ありがたいと思いつつ、どうも素直にお礼を言えなくて、そんな風になってしまった。ロサとアダム。王族という刷り込みからか、よくしてもらっているのに、ふたりにはいつもぞんざいな態度になっているよなーと思う。


「私も、リディア嬢と同じようになった時があったんだ」


「わたしと同じ?」


 ……そうだったんだ。ロサはわたしが食べられなくなったことを、とっくに知っていて、自分の時のことと重ね合わせたのだろう。


「毒を口にして酷い目にあって、それから食べ物を一切受けつけられなくなった」


「毒?」


「5日間生死を彷徨い、食べ物を口にするのが怖くなって……」


 わたしなんかと、比べものにならないぐらい、マズいやつじゃん……。


「その時ばあやが、何も食べなかったら死んじゃいますよって、この口が曲がりそうになる飲み物を作ってくれたんだ。本当に栄養価は高いんだ。他のものを食べなくても、これを取っていれば、体は動く。でもこの味だろ? 最初、騙されて口にしたけど、私は吹き出した。その時、こうやってチョコレートを口に入れてくれたんだ」


 ロサは笑った。


「あの不味さの後だ、余計においしく感じただろう? それにあまりの味にびっくりしちゃって、頭に考える隙を与えないんだと思う。口の中が他の何かを欲っしてるから、私も食べられたんだと思う」


 そんな辛い話を笑って言えるのは、ロサの強さだ。いや、強くなっていったんだろう。


「……ばあやさまは、今どちらに?」


「もう歳だったから、2年前に亡くなった」


「……そう」


「ばあやが風邪をひいた時に作ったんだよ、これを。半分嫌がらせで。だけど、飲み干されちゃってさー。私の作るものなら、なんでもおいしいって……」


 ばあやさまとロサの絆を感じ、けれど、ばあやさんはもういなくて……、鼻の奥がツーンとした。


「リディア嬢はなんの菓子が一番好きなんだい? 知っていたら、チョコレートではなくて、それにしたんだけど」


 そういえばわたしは、何が一番好きなんだろう?

 チョコレートも好きだし。ケーキもクッキーも……。

 いろいろなお菓子を思い浮かべ、最後にそういえばと〝それ〟は浮かんだ。

 多分、一番好きってわけではない。

 絶対に食べられないんだろうなと思ったから、口からその名前がこぼれたのだと思う。


「わたあめ」


「わたあめ?」


「雲みたいに、白くてふわふわしてて、甘いの」


「聞いたことないな。リディア嬢はどこで食べたんだい?」


「あ。食べてない。本で読んだの。ザラメっていう大きな結晶の砂糖をね、綿菓子機に入れるとふわふわって雲みたいのがたなびいてきてね、それを棒に巻きつけていくの!」


「わたがしき?」


 ロサが首を傾げる。


「これくらいの円形の器具で。中央の部分にね筒があってね、そこにザラメを入れるの。熱くして砂糖を溶かすの。筒には小さな穴が空いていて、液体になった砂糖が外に出る。器具の中は風がぐるぐる回っているから、急激に冷やされるのね、多分。それがね本当ふわふわの甘いのになるのよ」


 なんで急にわたあめを思い出したんだろう。今まで特に思い出したこともないのに。

 わたあめのことが載っている本の記憶があった。……そうだ、文化祭でわたあめを作って売りたくて調べたんだ。結局、人気の飲食店の枠には入れなかったからできなかったけど。


「よし、わたあめとやらを作ろう」


「え?」


 我に返る。そんなの無理だろう。


「ザラメとは砂糖の大きな結晶と言ったな。おそらくザラメンで代用できるだろう。その熱して風でぐるぐる回す器は魔具作りの得意な、お前の兄を巻き込めば良さそうだ」


 ロサは護衛に侍従を呼ばせた。目に入ったもふさまの尻尾が左右にブンブンして床を叩いていた。

 ロサは侍従に魔具を持ってこさせて、伝達魔法でいくつかのところに鳥を飛ばす。


 アルノルトがお茶とグレーンをもってきてくれた。

 もふさまの前にもグレーンを山盛りだ。

 手持ち無沙汰だったので、手に取りなんとなく食べていた。

 アルノルトを見上げると、彼はとても嬉しそうに頷いてくれた。

 あ、わたし食べられてる。


 しばらくすると、外が少し騒がしくなった。

 なんだ?と思っていると、アラ兄とロビ兄が駆け込んできた。


「リー!」


「リー」


「お帰りなさい、アラ兄、ロビ兄」


 あれ、今日は平日なのに?

 ふたりがわたしの顔にペタペタと触れてくる。


「何?」


 ふたりはロサにすごい視線を向けた。


「リーの一大事って、趣味、悪いですよ?」


「ごめん、ふたりは私からの手紙だと断りそうだから」


 ロサは軽やかに笑っている。

 そう言われて、バツが悪そうなのは双子の方だった。

 ふたりはソファーにどかっと座った。


「それで一大事というぐらいなんだから、おれたちが必要だったってことですよね? なんなんですか?」


 どうやらロサはわたしの一大事と言って、双子を呼び出したみたいだ。


「魔具を作って欲しいんだ」


「魔具?」


 ふたりはわたしをちろっと見た。

 アラ兄が真顔になる。


「……リー、グレーン、食べれたの?」


 アラ兄が、お皿で気づいたのか呟く。


「さっき、ロサからもらったチョコレートとグレーンは食べれた」


 ふたりとも瞳をうるうるさせる。

 え、ちょっと待って。


「ふたりとも、何泣いて……」


「あー、よかった。リーがずっと食べられないままになったらどうしようって、本当に怖かったんだ!」


 寄ってきたアラ兄とロビ兄に、ガバッと抱きしめられる。

 苦しいが、心配をかけていたので言いにくい。

 ロサが咳払いをした。


「麗しい兄妹愛ですね」


 双子の腕が緩んだ。


「魔具って、リーが欲しいものなんだね?」


 アラ兄がズバリ言う。


「食べたいもので思いついたの」


「……そうか。その魔具、作るよ!」


「オレも協力する」


 わたしは覚えていることをアラ兄たちに話した。

 確か、砂糖を熱して液体にし、冷まして最小の繊維みたいな結晶にしたはず。遠心力で飛ばしていた。

 熱すのと冷ますのとそれから風の遠心力で飛ばす。3つの工程がいるね。

 ん? 冷ますのは風の温度が熱くなければ、勝手に冷めるか。

 でも熱する筒の周りは風も温まってしまうだろうから、その風が温度が高くならないようにしないとで、やっぱり3つのアクションが必要っぽい。

 現在の魔具は1つの魔石につき、ひとつの工程を取り入れるのが普通だ。

 ただ本当はいくつかのことを術式にすれば、ひとつの工程とすることができ、ひとつの魔石で作ることができる。アラ兄たちはもうその〝式〟を編み出せる。

 けれどそれをロサの前で使っていいものかと悩んでいるみたいだ。


 王宮から届いたものを、ロサが見せてくれた。

 ザラメで間違いないだろう。ザラメンっていうのか、覚えておこう。


「アランの魔道具に関する考察、読んだよ。素晴らしいね。あれを書けるアランなら、3つの工程を〝式〟にもうできるんじゃないか?」


 ロサはお見通しだ。


「この魔具を売らなければいいんじゃないか? リディア嬢のために作るお菓子のための魔具だろう?」


 とロサは言った。

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