表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
12章 人間模様、恋模様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

492/1188

第492話 禍根③変装

「じゃあさ、何すると楽しい?」


『いろいろ見たり、聞いたりすると楽しい!』


 そっか。


『なぜ、リディアは学園を休むって言ったんだ?』


「証拠を作るため、かな」


「証拠でちか?」


『何の証拠?』

『何の証拠?』


「傷ついた自分のために何かしたって証拠。自分が自分の味方である証拠」


 みんなが揃って首を傾げた。


「何かがあった時何もしないと、後から何もしなかったって後悔するから。だから何もできないとしても、自分を癒すために時間をとったこと、何かしようとしたことを作っておくの。そうすれば、振り返った時も癒そうとしたけれどって、やることはやったんだって、自分を納得させられると思うの」


 わたしには前世の記憶がある。でも年齢を追うごとに、それは実体験というよりも、本を読んで感じ取った感情のようになってきている気がする。

 全部合わせると、この年齢にしては多く本を読んでいるような感じなのかなと思う。

 そんなわたしの浅知恵だ。


 底無し沼にハマりそうな時の救済方法。

 自分を納得させるのだ。方法は分からずとも、自分を癒そうとした証拠があると。自分のために時間を使った、と。それで浮上できるかは分からないけれど、立ち直りたいという気持ちもある証が残ることになる。

 せめてもわたしはわたしの味方だと、未来のわたしに託すのだ。


 そしてね、こういう時は、自分に優しくして、自分を甘やかすの。

 こういう時……そう辛い決断をする時なんかはね。

 でもさ、どうしようなんていいながらも答えって出ていたりするんだ。

 だから〝辛い〟決断を予感して、底無し沼にハマるような気がしている。

 でも、それを告げるまでは、まだ決まっていないことにできる。

 わたしは3日も〝決まっていない時〟を引き延ばしたに過ぎない。

 状況を考えれば、〝どう〟した方がいいかは一目瞭然だ。

 ただ、そうしたくない自分のために、時間を作った。


 無力感で脱力してる。どうでもいいとも思う。捨て鉢な気持ちにもなっている。頭の中には言葉の切れ端のような感情が残っていて、それらは繋がったり、道筋を立てたり、考えることを拒否している。


 わたしはひとりになりたかった。もふさまともふもふ軍団はいいんだけどさ。誰かの意見は聞きたくない。部屋に籠もれば、ひとりでいられるけれど、ドア越しに〝日常〟が見えている。……見えないところに行きたい。


 王都の家付近に行けば、フリンキーに拾ってもらえる。ルームに入れば、別荘へ飛ばしてもらうこともできる。


 別荘のルーム作り、1番初めはわたしの別荘でいいというので、わたしとエリンの別荘は、すでにルームを作り終えている。でも、みんなで行動を共にしろと言われているところに、ひとりで、しかも授業をサボり行くのは、さすがに気がひける。


 王都を散歩、ぐらいかな。いつも家族と一緒だから行かないような場所、カフェ行ったり、……芝居をみたりしてもいいかもね。知らない人だらけなら、それはひとりと同じだから。


「明日は王都を散歩しようか」


 提案すれば、みんな喜ぶ。けれど


「……護衛つけるって言われてるのに、破ったら怒られるでちよ」


 アオがものすごくもっともなことを言った。


 …………………………。


 けどさ、それって、わたしってバレたらだよね?

 わたしってわからなければ? 

 

「変装するってどう?」


 普通、学生は学園で授業を受けている時間。

 ちょっともふさまに乗せてもらって、王都のどっかに移動。

 赤い髪に翠の目の女の子だったら、わたしってわからないんじゃない?

 わたしってついてるな。もったいない精神でいただいたウィッグが、こんなすぐに役に立つとは。

 わたしはウィッグを収納ポケットから呼び出してつけてみた。


「どう?」


 みんながわたしをマジマジと見る。


『知ってる人にはすぐわかりそうだが、直接知らなければわからないかもな』


 もふさまが言うと、みんな頷いた。


「リディアが、リディアじゃないみたいでち」


 明日は、何もかもお休み!

 よし、明日は息抜きするよ!

 そうと決まればと、わたしはベッドに飛び込んだ。

 それ以上考えることを頭が拒否していた。




 おとなしめのワンピースを着て、赤いストレートの髪をなびかせる。

 もふさまと一緒に歩くのはバレる要素なので、もふさまにぬいぐるみサイズになれるか尋ねた。

 そして、なってくれたのだが、それがめちゃくちゃ、かわいくてかわいくて、かわいくてかわいかった!

 やーん、この姿のぬいぐるみが欲しい! 毛皮をちょうどもらったことだし。セズにイラストを描いてもらって、ぬいぐるみを作りたい。



 寮生が学園に出かけてから、もふさまに乗せてもらって窓から脱出。

 カフェなどが集まっている3地区に降り立ってもらう。もちろん裏路地にだ。

 そこでみんなをカバンに入れる。今日はもふさまもね。

 


 一応マップを出して用心をしながら、街をふらふらした。


 なんでわたし、変装までして外に出ようとしたのかな。

 一人になりたい。日常を思い出すものが見えるところにいたくない。

 その思いもあったけど。

 〝外〟は危険と言われている。

 ……わたしは〝危険〟な目に遭えばいいと思ってるんだ。

 叱られるのでもいい。罰して欲しいんだ。

 よくわからない心の動きだけど、わたしは誰かに罰して欲しいんだと思う。

 たとえ罰を与えられたとしても、だからといってガネット先輩の心が癒されるわけでもないのに。


 歩き疲れたらカフェに入る。

 紅茶を頼む。でも、アルノルトの入れてくれた紅茶の方がおいしい。微妙だ。

 何も考えず、ただ時間を潰す。

 のぼりがあった。


 ジェインズ・ホーキンス最新作、上演中!


 あ、ジェインズ・ホーキンス。女性が見たら惚れずにはいられないと噂の。

 そういえば、チャド・リームの家庭教師もホーキンス、だったな。さすがに役者になって王都に来ていたらそう言っただろうから、別人だ。けど、親戚とかだったりして。


「明日で終わりなんですって」

「違うお芝居になるのかしら?」

「いえ、ジェインズさんの劇団、明日で場所を移すそうよ」

「あら、それは残念だわ。ジェインズさんを見られなくなるなんて」


 着飾ったおばさまたちが、のぼりに気づいて、情報交換している。

 明日で千秋楽ってことか。〝ホーキンス〟って縁ある名前だし、これでも観るか。

 わたしはチケット売り場に並んでみた。


「お嬢ちゃん、何歳? ひとりかい?」


 売り場のお兄さんに首を傾げられる。


「はい、ひとりです。年齢制限あるんですか?」


「いや、ないよ。わりと高いんだけど、大丈夫?」


 お兄さんは屈み込んで、わたしと目の高さを合わせる。

 薄い金髪に青い瞳。少しだけ目が垂れていて、人の良さが溢れ出ていた。そしてイケメン。


「大丈夫です。いくらですか?」


「3500ギル」


 ちょっと驚いたが、大丈夫と言った手前、渋りたくはない。

 3500ギル支払うと、お兄さんはチケットを手渡してくれた。

 そして、舞台を観るのに最適な席を教えてくれた。


 貴族用の個室、2階は埋まっているみたいだが、一般の席は3分の1ぐらい空席だった。なので、教えてもらった特等席に座ることができた。

 わたしは背もたれに背中を預けて、舞台が始まるのを待った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ