第471話 収穫祭①双子の守り方
学園から王都の家に帰ると、立派な馬車が引きあげていくところだった。
親戚の皆さま、勢揃い! 毎月のイベント化しているからか、慣れたものだ。お茶を飲んでいてもらって、急いで支度をして集まる。
子供たちの用意ができたところで、領地の町の家前に転移して、父さまと挨拶をし、皆さまはカトレアの宿に。
皆さまが祝ってくださるお誕生日会は明日。今日は家族でエリンとノエルの7歳のお誕生日を祝う。わたしたちからのお祝いは、いくつもの秘密にしていたことを打ち明けることだ。これからはダンジョンも解禁だ。もふさま、もふもふ軍団のことも話すのだ。
エリンとノエルにぎゅーっと抱きつかれた。
「姉さま、一緒に散歩しよう」
「そうだ、歩いて町外れの家に帰ろう!」
左右からエリンとノエルに引っ張られる。
わたしは父さまや兄さまたちに、そうすることを告げて、双子と一緒に歩き出した。
もふさまが少し前をトテトテと歩いていく。
「何か話があるんでしょ?」
ふたりは目を合わせている。
「姉さまには先に言っておこうと思って」
「なぁに、ノエル?」
「今すぐじゃないけど、僕、クジャク家の養子に入ろうと思う」
「な、何を……」
「僕たちが家族なのは、変わらないよ」
ノエルが深い笑みで笑った。
この子、こんな大人っぽい笑い方をする子だった?
「姉さま、あたしもいつかはお嫁に行くわ。それと同じよ。ノエルは公爵家にお嫁に行くの」
わたしは手を解いて、ふたりの前に出る。
「どうして……養子に?」
「習っているんだ、転移を。クジャク公爵さまから」
……打ち明けたんだ。
「それで養子の話がでたの?」
「うーうん。後継者がいない話は聞いたけれど、そんなこと言われたことないよ。僕が思ったんだ。遠縁だけど血は繋がっているし、公爵家なら転移の力も、家族のことも守っていける」
「ノエルがそう思って、エリンに話しただけ?」
ふたりが頷く。そうか。
「それに今は、思いついただけなのよね? 考えは変わるかもしれないわよね?」
ふたりは目を合わせている。
「クジャク公爵さまはいい方よ。でも、7歳になったばかりのあなたたちが、そんなことを考えていたら、父さまも母さまも泣いちゃうわ」
「大丈夫だよ。僕たちは離れていたって家族ってことは変わらない。おじさまも6歳の時にこう言ったんでしょ? それで姉さまの婚約者になったんだ」
ノエルはニコッと笑った。
「シュタイン領は姉さまたちが継げばいい。そしたらロビン兄さまも、アラン兄さまも〝ここ〟から離れられないから」
!
「……エリンの未来視で何か観たのね?」
ふたりはぶんぶんと顔を横に振った。その顔が歪んでいる。
「あたしの未来視は確かじゃないし。未来はどんどん変わるもの」
エリンは何かに怯えている。
「どんな未来を観たの?」
できるだけ優しく尋ねた。
「姉さまはシュタイン領にいないとダメなの!」
「そうだよ、ここは姉さまの魔力に満ちているけど、他は危険だよ」
「わたしが他の国に行く、未来を観たのね……」
エリンがびくっとした。
ふと、エリンとノエルがニアを威嚇したことを思い出す。
あの時、すぐ後にアラ兄やロビ兄がガゴチに行くなんていうからふたりのことかと思ったけれど、わたしがガゴチに行く未来を観ていたんだとしたら?
ふたりがニアに突っかかっていたのはアラ兄たちではなく、わたしが行く国だと思ったからでも通じる。
「その未来、すぐかな? 姉さま、もっと大きかった?」
手を取りながら尋ねれば
「……もう少し先だと思う」
そう言ったエリンを、ノエルが心配そうに見る。
エリンは急に顔をあげた。
「姉さま、ガゴチにお嫁にいっちゃ嫌!」
極まったようにエリンが言う。
「エリン!」
ノエルが叫ぶ。お嫁って言った? それもガゴチ?
わたしはエリンの両肩に手を置いた。
「エリン、姉さまは兄さまと婚約してる。未来で、兄さまは?」
エリンはウルウルした目でわたしを見た。けれど言葉が出ないみたいだ。
わたしは隣のノエルを見た。
「ノエルは聞いて知ってるんだよね? それでそんなふうにならないように、守るために公爵家に養子に行くって考えた、違う?」
エリンが泣き出した。滅多に泣くような子じゃない。
「ノエル、その未来で、兄さまはどうしたの?」
「よくわからないけど、悪い人だったってつかまりそうになって逃げて、そのまま。姉さまがガゴチの将軍の子供と結婚した」
「姉さま、ごめんなさい」
「なぜエリンが謝るの?」
わたしは笑えているかな?
「エリンが教えてくれたことで、対策がたてられる」
「え?」
「未来は変わっていくのでしょう? そうならないように回避することもできるわ」
「おじさまは、捕まったりしない?」
「対策をたてるのに、もっといろいろ知りたいわ。わかっていることだけでいいから、教えてくれない?」
それから、ふたりがかりで教えてくれた。
やっぱり兄さまが悪いことをして捕まるのではなく、恐らく侯爵子息だったことがバレて捕まることになり、その疑いをはらすため調べようと逃げたのではないかと思う。
そこからわたしがガゴチに嫁ぐ経緯はわからない。また別の末来視で盛大な結婚式を挙げているところを観たようだ。結婚ってことは早くても4年先のこと。
わたしはこのことを、しばらくの間3人の秘密にしてほしいと言った。父さまには話すつもりだけど、兄さまには言っていいのかわからない。
わたしはわたしたちを守ってくれようとした、末の双子を抱きしめた。
そしてけれど、わたしはまだお姉さんぶりたいのだと。
末っ子を守らせてほしいのだと言った。双子が抱きついてきた。




