第276話 呼吸を感じろ(前編)
「リーがダンジョンに行きたがるなんて珍しいな」
「魔法戦で勝ちたいんだ。戦いに慣れておかないと」
そう告げると、ロビ兄に頭を撫でられた。
空っぽダンジョンの地下45階はお気に入りのフロアだ。
森の中のフィールドで、そこまで凶悪な魔物がいるわけでもない。
何がいいかというと、ドロップ品が楽しい、それに尽きる!
普通のドロップはその魔物に関係した何かが出るのだが、この階に限っては何が落とされるかわからない。植物系の魔物を倒してもバターやミルクや肉などの食べ物が出たりするし、宝石や鉱石、糸、布、など予測不能なアイテムがドロップするのだ。
それが面白くて、よくこのフロアを選んでいる。
森エリアだから、果物なんかも収穫できるしね。
もふもふ軍団は狩りがうまい。それぞれも強いけれどチームワークがいいんだよね。よくダンジョンに軍団だけで行っているからかな。すっごいドロップ品を持ち帰ってくれて、それでダンジョンに行ってたことを知ったりする。一番すごかったのが地下5階に行ってきた時かな。地下ダンジョンは下に行くほど魔物が強くなるので、より強い獲物を求めて最深階へと攻略を進めていたはずなのに、5階に行ったというから不思議だった。わけを聞くと5階のストーンゴーレムを倒しまくっていたようだ。倒し方でドロップ品が変わってくるので、誰がすごい倒し方をできるか競っていたようだ。それでものすごい金塊と宝石、鉱石をいっぱい持ってきてくれた。ちなみに1位は、やはりもふさまで、こんな塊で出ることあるんだという大きさの金塊だった。次点がレオ、小さかったが希少価値の宝石で値が高いものだった。競いたかっただけなので、ドロップ品は全てくれる。それで領地の真ん中にいろいろな施設を建てることができた。念願だった冒険者ギルドの支店を置くこともできた。ギルドの支店を置いてもらうにはいくつかの突破しないとならないことがあって、ある程度栄えてなければ候補にもならない。あれは申請やら手続きが大変だったけど、もふもふ軍団に急かされて父さまが頑張った。
もふもふ軍団はいつもわたしたちがドロップ品を遠くまで売りに行くのを気の毒に思っていたみたいで、条件を満たせれば領地にギルドの支店を置けることがわかると、その費用は稼いでくるから早くその体制にするよう言われ続け、父さまが走り回った。ちなみに商人ギルドの支店も置いていて、支店の要はホリーさんが兼任してくれている。ホリーさんは順調に商会での地位をあげているが、ウチの領地の支店長だけは死守すると言って、それを守ってくれている。
「魔法戦を意識するなら、そうだな、組で別れてやってみようか」
兄さまがチーム戦を提案する。そして即座に組分けした。
わたしとロビ兄とレオとクイチーム。
アラ兄ともふさまとアオチーム。
そして兄さまと、アリとベアチーム。
さすがラッキーバード、アオがいるフロアではわたしが触るの同様、いやもっと確実に魔物を倒せばドロップする。だから兄さまはチーム戦としてドロップ品の数で競おうと言った。
チームを意識して戦うように言われた。
漠然として聞こえたが、やっているうちにわかるかなと始めることにした。チームで集まって、話し合いをする。
ウチの組のリーダーはロビ兄になった。攻撃方法はみんな一つに絞ることにする。もちろん本当に危機に陥ったときには何をしてもいいから〝命大事に〟は当然だが、チームで1つの魔物を倒すことを目標とし、慣れるまでは一つの攻撃を確実に繰り出すことにした。
レオは水鉄砲で応戦するといった。クイは電撃攻撃。ロビ兄は剣での攻撃。わたしは魔法タイプがふたりいるので、布での接近戦にした。
どのチームも話し終えたようなので、試合を始めることにした。
兄さまの合図で、チームごとに固まって走り出す。
「木に擬態している魔物がいる。あれに仕掛けるぞ」
おりゃーと叫びながら、細長い木に向かってロビ兄が剣を振り下ろした。
その木は怒ったように葉を飛ばしてきた。布に風魔法をのせ、みんなの前で広げて素早く引いて葉を落とす。レオが強力な水鉄砲をお見舞いし、その水が残っているところにクイが電撃をお見舞いした。
プスプスと真っ黒焦げになる。ポンと小気味いい音がして、飾り箱みたいな物がドロップした。彫刻が美しい。
ロビ兄はドロップ品をわたしに預け、そして戦いの総評をした。レオとクイの連携プレイがよかったと。慣れた感じでとてもいい。
わたしの布防御も褒めてくれたが、他の攻撃の妨げになる可能性もあるから慎重にと言われた。難しい。
次は熊のような大きな魔物だった。クイが電撃で相手から自由を奪ったところで、わたしも攻撃した。
わたしの攻撃の仕方は悪くないが、タイミングが半拍遅いと言われた。それはみんなのやることを見て、納得してからやるからそうなるのだと。見終わってから行動するのではなく、隣でやっていることを肌で感じ、相手に息をつく暇を与えずに畳み掛けるように攻撃するともっといいと。
あ、それがわかりやすいように、ひとり1つの攻撃方法に決めたのだと理解する。わたしのためだった。
そういえば魔法戦の最初の授業で仲間を知ること、見た情報を戦力へと変換するのに繋げていくように習ったことを思い出した。なるほどー。今は攻撃方法を知っている状況から始めるけど、本来なら情報を集めて理解し戦いに組み込んでいくまでしていかないとなんだ。攻撃方法がわかっていても半拍遅れているわたしができるようになるのか不安になる。
味方はどんな攻撃をするか分かっているのだから見なくていい、目で追わないように言われる。呼吸で感じるのだと。
呼吸?
それから味方を見ようとせずに敵だけ見据えて、みんなの呼吸を意識した。攻撃を仕掛ける呼吸、避けてフォローにまわる時の感じとか。
わたしには難しかった。そこにいるという気配はなんとなくわかるけれど、呼吸に集中しようとすると、目の前の敵から意識が離れる。
集中力が味方にいってしまって単純な攻撃を受けそうになり、ロビ兄にフォローしてもらったり、もふさまが風のように過ぎ去っていったと思ったら、難を逃れたこともあった。違うチームなのにしっかりわたしを守ってくれている。感謝だ。
頭でわかってもそう行動するのは難しかったが、その後にいくつか魔物を倒すと少しだけ掴みかけたような気がした。
結果として1日では初歩的だという〝呼吸を感じてのチーム戦〟までも到達できなかったが、わたしにしては頑張った方だと思う。
明日からまた学園なので、遅めのお昼を食べながらチーム戦の試合を終えることにした。森エリアのセーフティースペースで、お弁当を広げる。
昨日学園から帰ってきてから、気を鎮めるために作りまくったご飯たちだ。
ドロップ品を出して勝敗を決めれば、アラ兄チームの圧勝だ。もふさまが尻尾を一振りすれば敵の団体も皆倒れる。そこをアラ兄とアオでとどめをさして回ったようだ。役割をしっかりと割り振った攻略法が吉と出た。
次が兄さまチーム。兄さまたちは戦い方のハードルを上げるのに、訓練のように条件をつけた。兄さま→アリ→ベアと順番を決め、敵に攻撃を仕掛けるのは絶対に順番を守らなくてはいけないとしたようだ。前の順番の人がどんな攻撃をするかわからないし、その攻撃でどんな状態になるかわからない。瞬時に状況を把握し、それを汲み取って自分も効率的な攻撃をする。訓練のような戦い方で淡々と倒していったそうだが、それでこれだけ成果を上げてるんだから凄い。
ウチのチームは数は少ない。でもわたしが足を引っ張ったにしては、凄いドロップ品だと思うんだけど! 倒した数は一番少なかったものの、ドロップ品はどれも高価なものばかりだった。
もふさまたちのドロップ品にお肉のいいのがあったので、追加でそれを焼くことにした。




