第1183話 神学②光の洗礼
みんなしてなんとなく顔色をうかがう。そう、なんか感じた。あれが気のせいなのか、そうじゃないのか。自分の感覚でしかないことなのに、やっぱり他の人がどう感じたかが気になってしまう。
でもこのみんなの反応を見ると、神の力を感じるは、本当のことなのかもしれない。
ふともふさまの方を見れば、ゴロンと横になり、顔を床にぺたっとつけている。真っ白のもふさまの上にとりどりの色のドラゴンちゃんたちがこれまた思い思いの格好でまどろんでいた。もふもふ軍団もそうだけど、ご飯を一生懸命食べているところとか、眠っているところとかをよく見るから、戦うと強い種族ってなんだか信じられない。
後半の授業では、動きませんから安心してくださいとルシオが言った。
ほっとした。
この時点では、神の力を感じたかという問いかけはなかった。
次は本の朗読、だそうだ。けれど、どんなものでもいい、知っている旋律でも即興で作るのでもいいからその文章を歌にして歌ってください、という。
一節以上好きなところまで歌ったら、次の人に教本を渡して、次の人はそこから歌い始めてください。
えー、そんなので神力を高められるものなの?
っていうか、歌う? あれ、神力を高めるどころか、わたしの聖歌になってしまうんじゃ?
っていうか、あれ、さっきは朗読だから大丈夫だった?
神官は聖歌ってわかるもの? わからないもの?
ルシオと目が合うとニコッと笑った。それでピンとくる。
あ、だからだ。
だからルシオが来てくれたんだ。
もしかしたら聖歌って気づく人も出てくるかもしれないから。
知っているルシオが来てくれたんだ……。
男子のほとんどはラップか棒読みに最後の音だけ思い出したように高低差をつけるという歌い方となり、くすくす笑いが絶えなかった。
即興で文章を歌っていくって難しい。でも、楽しい。
うまくいかないところも楽しい。
わたしが歌い出すとドラゴンちゃんたちが起き出して、歌っているわたしのところに飛んできた。そして鳴き声をあげて大合唱。
赤ちゃんたちが気持ちよさそうに鳴くので、かなり長く歌ってしまった。
鳴き声と合わさった音が面白くて、恥ずかしい気持ちも飛んでいって、声を伸ばせるところまで伸ばした。
楽しい、気持ちいい。なんだか笑い出したくなる。
キリのいいところで、ハイっとジョセフィンに教本を渡す。
ジョセフィンが文章を乗せたメロディーはみんなの知ってる、神への祈りの曲だった。その時天井から光が差し込んできた。
横の窓からじゃなくて、天井のある真上から。
ジョセフィンはレニータにバトンタッチ。レニータも声を響かせて歌った。
わたしたちの上で光が踊っている。光が差し込んで。ん?
光でできた小人?が踊ってない?
ドラゴンちゃんたちも気づいたみたいで、近くに飛んでいっている。
この光のひとつひとつが小人だ。水の精霊ちゃんみたいな……ということはこれは光の精霊……。
隣のジョセフィンがわたしの手を握ってきた。
「光が踊ってる。きれいだね。これが神さまの力を感じるってことなのかな?」
神っていうか、精霊のような気が……。
と思って、わたしは答えられなかった。
光の精霊たちはくるくるくるくると周り、踊って、ふとわたしの前にきた子がウインクしてまた飛んでいった。
一回りしたようだ。歌が終わると、余韻を残して光の乱舞が終わった。
ルシオが静かに拍手をする。
「素晴らしい。力を感じる、感覚が研ぎ澄まされていく、そういった感想は聞かれるのですが、これほどはっきりとした光が現れたのは、私も初めてみました。皆さんの楽しさが神に届いたのかもしれませんね」
ルシオがまとめたところにチャイムが鳴った。
「神さまっているんだね」
ダリアがそう笑う。
「わかる。いらっしゃるんだろうとは思うけど接点ない気がしてさー、神殿や教会に行くときだけしか何も思わないけど」
「うん、経本とかよんでると通じたりするもんなんだね」
うーん、惹かれてやってきたのは光の精霊みたいだけどね。
これは後でルシオに伝えておこう。
「あとさー、カミロ神官ってかっこいいよね」
「優しそうで仕事できるってすごいよね」
「神官ってお布施にがめついイメージがあって、なんかこうためらうんだけど。カミロ神官、ありだわ」
「あり、だよね、わかる!」
「シュタインさん、ちょっといいかな?」
ルシオに呼ばれると、みんなに強く叩かれた。
???
「食堂寄って、中庭行ってるね。リディアのも持ってっとく」
「ありがと、お願い!」
みんなで書いた意見書は生徒会が議題にあげてくれて、申請書を出せば食堂以外でも食べられるようになった。
いい案とばかりに殺到したかというとそんなこともない。学園は貴族が断然多い。食堂以外のところで食べるなんて不潔と思うのか、学園内は広いから移動も時間がかかるということもあってか、わたしたちぐらいしかこの制度使ってないんじゃないかな?
わたしは食堂で食べないことにしたので申請をし、天気が良ければ中庭、天気が悪ければ空き部屋を借りたりして過ごしている。移動で時間を取られるのに、みんなもそうしてくれる。
わたしは振り向いてルシオに教えてあげた。
「ルシオ、ありだって」
「? 何が??」
ルシオは首を傾げた。




