第1179話 レクリエーション②笑い過ぎ
拍手に包まれたアマディスと入れ替えで教壇に立ったのはマリン。
先生が持ってきた箱の中に手を入れて、ひとつ紙をとる。それを広げた。
「平民は苦手な人とはどうやって接しますか?」
ずっとマリンと一緒にいた人たちには見える。彼女のおでこに浮き上がった透明の怒り印が。仲良しのアンナは胸の前で手を組みマリンがやり切ることを祈っている。
マリンは深呼吸をした。
「平民はというより人それぞれだと思うわ。私は苦手な人嫌いな人にも何が嫌か、はっきり言う」
その通りでゴザイマスネ。マリンさんはもう少し全方向に突っかかっていくのは控えた方がいいと思うんだけど。
「でも貴族ならそうはいかないんでしょうね? それに平民でも大人になったらそれだけではやっていけないわ」
わかってる。マリンの凄いところはいいところも悪いところも客観視できているところだ。だから自分へのマイナス評価となるとわかっている。それでも彼女は怯まない。自分の思いを貫く。
「それから苦手な相手でも、その人との関係で変わってくると思う。苦手だけど付き合っていかなくちゃ、とか。苦手だから離れていきたいとか。苦手だから距離を置いたまま付き合っていきたいとか。結局は、自分がどうしたいかが元になるんだと思う。それによって対応が変わってくるから。
付き合っていかなくちゃと思うなら、どうして「苦手」なのかを追求する。私ならね。離れていきたいなら、距離を置けばいい。微妙な距離加減でいたいならそうすればいい。
ただ先輩として、私は苦手でも一度とことん話してみるべきってアドバイスする。結構あるの、私たちはまだ子供で自分の思ってることを全部は伝えられてないことがあるし。自分の考えていることなのに勘違いしていることさえある。人との温度差とかね。
一方向だけを見て、苦手意識を持つのはとてももったいないと思う。
学園というのは多くの同じ年代の人と会える特別な場所だから。もし、苦手でも嫌いでもいいからしっかり話してみるといいと思う。人には隠れている気持ちがあるものだから。
ええと、答えとしては、好きな人も嫌いな人も、苦手な人も私は言いたいことを言うことにしてる。その性格で爪弾きにされてきたこともあるけど、この学園で知り合った人やクラスの子は私をそんな色眼鏡では見なかった。ちゃんと私を認めて。私の言い過ぎだとか、その考えはおかしいと思うとかしっかり言ってくれる。私はこの学園に来られて良かったと思っているの。以上よ!」
つんとそっぽをむいて、マリンが立ち去ろうとすると、アマディスの時と同じように拍手の渦となった。
マリンもやるなぁ。なんか、みなさまの出来がいいと後で発表するのがとても嫌なんですけど。
ヒックが引いたのは「どの食堂が一番好きですか?」と言うもので、南食堂の大盛りが一番好きだとハキハキと答えた。
チェルシーが引いたのは「平民は卒業後の進路は決まっていますか?」というもの。チェルシーは自分がなりたいから、はいどうぞとならしてくれるものでもないのでわからないけど、自分の中でこうなりたいのはある、と答えた。そう思えたのは最近だと付け加えた。
その時のチェルシーの顔は輝いて見えた。
ああ、わたしの番になっちゃった。
もふさまはわたしの足の上に足を置いて、頑張ってこいと言ってくれてる。
うんと頷いて動くとドラゴンちゃんたちが起きたみたいで、バサっと羽をひろげりする。
わたしは質問箱を引く前に、ドラゴンが苦手な子がいないか先生に尋ねた。事前に聞いていてくれたみたいで、みんな実は楽しみにしていたとこそっと言った。
って。そういう先生の腰が引けているんだけど。
箱から一枚紙を引く。広げると。
うっ。
「どうかしましたか?」
先生に尋ねられる。
わたしは「いいえ」と答え、こほんと喉を整えた。
「質問はどうしたら大きくなれますか?ですね」
大爆笑だ。特にD組のみんな、お腹を抱えて笑ってる。
みんなが笑ったので驚いた赤ちゃんたちが教室を飛び回り、カオスな空間となる。
わたしは手を一回打った。
「はい、静かに。4年生笑い過ぎ。ドラゴンちゃんたちは戻ってきて」
パタパタと定位置に戻ってくる。稲妻ちゃんとクリスタルちゃんは左肩、グロウィングちゃんとブラックちゃんが右肩。ブラックちゃんは頭の上も好き。髪の中に潜ろうとするか首の後ろにいるのが銀龍ちゃんだ。
「わたしはクラスで一番小さいです。5つ下の妹と弟がいますが背はもう抜かされました。家族の中でわたしだけが小さいので、家系的な問題でもなさそうです。
食事はバランスよく、食べている方だと思います。それでも小さいです。
妹や弟より小さくなってしまった時は理不尽だと思ったこともありましたけど、今はだからできることが見つけられたらなと思っています。
どうやったら大きくなるんだろうってわたしも考えたことがあるので気持ちはわかりますけれど、今だからできることを見つけていくのはどうかなって思います」
ぺこっと頭を下げると、ドラゴンちゃんたちが驚いて羽をばたつかせ、その風で髪がとんでもないことになったけど、わたしは負けない。
アイデラにバトンタッチだ。足を踏む出そうとしたら手があがる。
「あの」
わたしはわたしに質問?と自分を指さした。するとその男の子は頷いた。
柔らかい銀髪の品の良さそうな子だ。
「どうやってドラゴンと仲良くなったんですか?」
他の1年生たちも、揃ってわたしを見た。期待の眼差しだ。
「ええと。まず最初に。
このことはあまり話さないようにと国から言われているので、あたりさわりのないことだけ話すことになります」
そういうと、その子は真剣な面持ちでうなずいた。
「この子たちがわたしを慕ってくれるのは、卵が割れて最初に見たのがわたしだからと思います。わたししかいなかったから、わたしを頼るべきって思ってくれたんじゃないかな。
わたしはこの子たちが何を言っているかわからないけど、彼らはわたしの言ってることをほぼほぼ理解してくれていると思います。
今も驚いて飛び立ったけど、戻ってと言ったら戻ってきたでしょう?
どうしたらドラゴンと仲良くなれるか、なれているのか。わたしにはわからないけれど。
……お互いが捕食の対象でなければ、人同士のように、仲良くなりたいって思いがあれば、仲良くなれるのではないかなと、希望的なことを思っています」
そう言ってもう一度ぺこりとすると、質問した子を含めて、みんなから拍手をもらうことができた。今度はドラゴンちゃんたちは驚かず、どこか不思議そうに拍手する子供たちを見ていた。




