第1175話 ミネルバ滞在⑧地の祝福
地の精霊としばらく話してみた。というか、心に浮かんだ疑問に精霊がどんどん答えてくれたというのが正しいかもしれない。
精霊と人族の感覚が違う点で、取り違えていることもあるかもしれないけど。
ぷかぷかと発現している精霊たちも精霊に間違いないけれど、本体は別のところにいるらしい。精霊の子供っていうか、分身っていうかを絶えず排出していて、精霊たちは漂って好きなところにいく。すぐに消えてしまう者もいるし、気に入ったところに留まるもの、他種族にも見えるような姿になる者、コミュニケーション能力を持つ者、千差万別らしい。すぐに消えるものの記憶を含めて、本体には全て伝わる、ということらしい。
この地は聖霊がほとんどいなかったので、生命を育むには難しい地だった。だからか、その後に降りてきた地の精霊の安らげる場所でもなかった。
あるとき、ある地の精霊が干からびそうになっていた。それを旅人が一雫の水を与えてくれたという。水はとてもこの地で貴重なのに。その記憶により、近くにいた地の精霊たちはここに集まって祝福を続けていた。生き物には水が必要だから、姉である水の精霊に頼み込んでオアシスを作ってもらった。地の精霊と水の精霊が棲みつき、生命が育めるような地になってきた。
ところが少し前に水の精霊のひとつから辛くて悲しい記憶が流れてきて、この地の水の精霊が弱ってしまった。それに引きずられるように地の精霊も弱り眠っていたという。
『姉を助けてくれて、またこの地に住まう愛し子を、あなたは救ってくれた。あなたに地の精霊の祝福を授けます』
わたしの中に一瞬何か温かいものが、というのが体感だった。
人から見たとき、わたしは発光していたらしい。
地の精霊のシャボン玉は一斉にわたしに向かって「ありがとう」と口にしながらふよふよと飛んでいった。
「地の精霊さまはなんと?」
ミネルバ語で、王さまは言った。鑑定しちゃったところ、最初にひれ伏した人は王さまだったのだ。
「地の精霊さまでした。地の深くで眠っていたそうです。
わたしが蒔いた水、あれ実は第五大陸に使節団として行ったときに、水の精霊さまから水責めというか水の祝福を受け、溺れそうになったのでその水を収納バッグに入れまして。その水を使ったことで、水の精霊の気配を感じ地の精霊さまが起きられたようで……」
「地の精霊さまもあなたに祝福をされたのでは?」
「え? ええ、そんなようなことをおっしゃったような……」
とあやふやに伝えると、今度はわたしにみんながひれ伏した。
え? いや、そんな大層なことをしたわけでも、何かがあったわけでもなく……。
「我ら第四大陸のミネルバは、助けてくださり、そして地の精霊さまに愛される使節団とレディ、あなたに忠誠を誓います」
とまたまたひれ伏してしまう。
い、いえ、忠誠ではなく、友好で十分ですので……。
とにかく顔を上げてもらって立ってもらって、これからどうするのかを話し合う。
寒さが和らいできたと思ったときには、日があがってくるところだった。
夜明けだ。
子供のお腹がくーっと鳴った。
そっか、昨日から何にも食べてないんだ。
とりあえず食事にするかと、ポケットのリストに目を走らせる。
みんなに同じ物というぐらいの数はないので、簡易テーブルを出して、その上におにぎりや惣菜パンをどんどん出していく。飲み物はと考えていたら、それはオアシスのお水でいいそうだ。ポケットの中の主食は全部はけてしまったけど、皆の顔に赤みがさしたからよかった。というか、うまいと絶賛され、すごい勢いで食べてくれた。
朝が始まると、みんな作業のできる短い時間にやることはやらないとと動き出す。女性や子供たちはオアシスから水を汲んでいく。一日で使う水をもらっていくようだ。
わたしたちはそんな様子を見ながら、王さまたちに誘われお城へ戻った。
年配の方もしゃっきりしてるなって思ってたけど、子供たち若い人たちは人離れしている。走るってあれ跳んでない?ってぐらい跳躍してるし、瓦礫とか簡単に持ち上げていように見えるし。女性もね、片手でなみなみと入った水いりのバケツを持って走るわけよ。短時間で活動するためなんだろうけど。パッと見ただけで、相当身体能力高いってわかるレベルだ。
そりゃユオブリアの街に比べれば断然人は少ない。若い人も少ない。
でも、捕らえた敵よりは大勢いるわけで。抗わなかったのかと、疑問に思ってしまった。
少し話していると、世界議会からカードさん、ノエル、そして騎士たちが到着した。
調印式の前に、わたしたちはあったことを話した。
カードさんの要請により追加で騎士たちがやってきて、悪事を働いた人たちがしょっ引かれて行った。
そのときちょうど悪さをした人たちが目を覚ました。
カードさんがどこの誰だか聞いたところ、みんなアネリストから来たと言った。公共語で。
「それは神に誓えますか?」
とアネリスト語で聞けば、みんな言葉がわからなくてきょとんとしてる。
わたしはカードさんに今のはアネリスト語ですと暴露した。
「お前たちは罪を犯すだけでなく、それを他国になすりつけようとしたのか?」
とカードさんは怖い声を出した。そうすると裏切り勃発。
「俺たちはあいつに誘われただけだ!」
と、王城にいたローブの人を指した。
なるほど、鑑定をかけるとウダタ族ではない。彼だけ。
兄さまは焼却場の扉を固定していたのは「神力」だったことをカードさんにこそっと告げた。バッカスか他の組織かは断定できないけれど、そういった惰神具を含んだ事件だということをそっと知らせる。
カードさんはこの大陸行脚でまた不快、そして危険な目に遭わせたと面目ない様子。
純粋なオアシス強奪なら第四大陸の問題だけど、ドラゴンを狙っての乗っ取り計画だったことを鑑みると、この行脚でわたしたちが第四大陸に持ち込んだ迷惑ごとでしかない。ミネルバの皆さんもひたすらわたしたちに悪いと思っているようだけど。
目的だった調印式は無事終えることができた。友好ではなく、書面でも忠誠を誓うと書かれて、慌てて友好で!と書き直していただいた。
ミネルバの王さまは、わたしたちに国を守ってもらったと公言。
焼き殺されそうになっていたのを止めてくれたのも、街に火が放たれたのを消しとめたのも、蛮族を捕らえたのも、土の精霊を発現させたのも、全部ユオブリアの使節団のおかげだと。
なんか土の精霊の祝福を受けたことになってる。あってはいるんだけど……。




