第1165話 課外活動参加への許可(前編)
行脚はお休み。国と世界議会に日程をずらしてもらうって大丈夫なの?って思ったけど、元々わたしが学生なことと、体がそこまで丈夫じゃないとは伝えていたようで、問題なく受理されたようだ。VIP待遇だね。
ダンジョンは迷ったけど、わたしはパス。
もふさまもダンジョンに行ってもらって、わたしだけが残った。
なんと赤ちゃんたちも参加! 少しずつわたしがそばにいなくても大丈夫になっていく。淋しい気もするけど、成長は嬉しい!
午後から父さまに時間をとってもらってる。
父さまに課外活動に参加する許可をもらうためだ。お腹が満たされれば気持ちが落ち着くと思うから、おいしく食べてもらえるよう料理をしようと思う。今日のコンセプトはお酒にあうおつまみだ。
日中は少し暑くなってきたから、爽やかなものがいいね。
トマトンのブルスケッタはマストかな。
ダフラで生ハムみたいなのをいただいたから、これとチーズでパテを作って、ハードパンをトーストするようにして、その上にのせよう。
スモークベアジャケにクリームチーズをのせたやつもおいしそう。
生ハムで果物を巻くのもいいね。
お魚と野菜のアヒージョもどき。
第六大陸でとってきた氷で、ソルベを作ろう。氷はもちろん食べるのではなく冷やすための器だ。
第五大陸でいただいておいしかったと言ったらお土産に持たせてくれた果物。ライチっぽい味。このまま食べてもおいしいけど、父さまにはソルベにする。
わたしはお酒の味はわからないけど、ソルベを氷に見立てて、お酒を注いで崩しながら食べたらおいしそうな気がするんだ。
ライチっぽい「ピチ」の皮をむき、みじん切りにして、さらに潰す。蜜とレモン汁を加えて、冷やしながら何度かかき混ぜる。
「お嬢さま」
ちょっと味見をしてみようと思っているところに声がかけられる。
「学園の教師だというゲラント・オマリーさまがいらっしゃいました」
ええっ。
ルン髭、家にまで来た! なんかすっごく怖いんですけど。
「アルノルト、先触れはなかったわよね?」
「はい、ありません。彼が例の困った人ですね?」
アルノルトに確かめられうなずく。
「わたしは具合が悪くてふせっていると。会うことはできないと言ってくれる?」
「承知いたしました」
アルノルトが振り返り際、うち胸ポケットに手を入れたように見えた。
魔法を使い早めて作ったソルベを味見。わたしはもっと甘い方がいいけど、お酒と合わせるならこれくらいの方がいいかな。アルノルトに味を見てもらって決めようかな?
あれ、そういえば、あれから報告を受けていない。「お帰りいただきました」とかね。
ということは、戻ってない?
まさかごねられてる?
ルン髭は男爵だったはず。最悪なことがあっても、ウチの方が爵位が上。大丈夫だよね?
ドアをそっと開けると、ルン髭と見知らぬ人の声が聞こえ、アルノルトが冷静に対処している。
「医師のところに連れて行ってやると言っている」
見知らぬ声はどこか高圧的だ。
思わず、具合が悪いって言ってるんだから、連れて行ってやるじゃなくて、本当に親切なら医者を連れてくるだろうと思ってしまう。
「お嬢さまはお休みになっております。お引き取りください」
「お前では話にならぬ。シュタイン伯を連れて来い」
埒があかないな。
エプロンを取り、カーディガンを着れば、部屋着で休んでいたように見えないこともない。家の中といってもこの格好で人前にでたことで怒られそうだけど。
「旦那さまは現在こちらにはいらっしゃいません。不在のとき、私は全ての権限を任されております。お引き取りを」
きっぱりと拒否してる。アルノルト、かっこいい!
「これだから平民は! こちらはスギョ公爵さまですぞ! 伯爵ごときの屋敷などいかようにもできる!」
ルン髭はヒートアップしている。
「お嬢さまはお休み中です。誰も取り継がないよういいつかっております。お引き取りを」
ビシッとムチで叩いたような音がした。
「アルノルトさま!」
ビトも一緒だったのか。ビトは焦ったようにアルノルトの名を呼んだ。
「ビト、動かなくていい」
冷静なアルノルトの声だけど、少し揺れてた。
アルノルトに何かした?
そう思った瞬間、玄関へと向かっていた。
「騒がしい、何事です?」
アルノルトが振り返る。左腕を庇っている。
「お嬢さま、お戻りください」
「アルノルト、怪我をしたの?」
「お嬢さま、なんでもありません」
手と頬に赤い線、入ってるよね?
「令嬢はなってないな、使用人のことより客に挨拶するのが先であろう」
「ウチの者に危害を与える人は、お客さまではありません。お引き取りを」
「シュ、シュタイン嬢。気は確かですか? こちらはスギョ公爵さまです。あなたの後援者になってもいいと言ってくださってるのですよ?」
わたしが視線をあげれば、公爵だとかいう人は気持ち胸を張る。
「お引き取りを。オマリー先生、わたしは今までそういったことを全て断っていますよね? 家にまでくるなんて非常識です。このことは学園に抗議します」
「生意気な令嬢だ。私はこの家をどうとでもできるんだぞ?」
公爵だとかいうおじさんがそう言った時、わたしの不快メーターはブチ切れた。
「お好きになさればよろしい。お引き取りを!」
ビトがグットタイミングでドアを開けた。
まさに、ドアノッカーを叩こうとしていたのはヒンデルマン先生だ。
え? なんでヒンデルマン先生?
「ヒンデルマン先生?」
オマリー先生が呆然として、急に現れた先生の名を呼ぶ。
「シュタイン家より教師の迷惑行動の通報がありました。
オマリー先生、シュタイン嬢個人への接触はやめていただくようお願いしたはずですが?」
ヒンデルマン先生がジロッとルン髭を見た。
アルノルトが学園に通報したのか。アルノルト、グッジョブ!
けれど、通報を受け、ウチまでくる時間が超早い! 先生凄い!
「通報なんて……。私はシュタイン嬢の益になることをしに来たのです!」
ルン髭は心からそう信じているかのよう。
「オマリー先生、それは相手がありがたいと思って初めて、益になるかもしれないことになるのです。それもですが、厳重注意を守っていただけなかったとは残念です。学園は生徒に規律を求めます。教師が率先してそれを破るようでは、生徒への信頼も薄れます。よって、ゲラント・オマリー、あなたを解雇します」
と、胸から出した紙をルン髭に突きつけた。




