第1156話 キメリア滞在②ゴールドのアクセ
歓迎の晩餐会を開いてくれるそうだ。
わたしたちは、王さまとそう話すこともなく、謁見の間を後にした。
やはり続き部屋を用意してもらいお茶を飲んでいると、晩餐会の時の服を用意したと運んできてくれた。
うっ。やっぱりビキニにパレオなのね。
侍女たちはオレンジ色と黄色の布で作られていたけど、わたしのは真っ白だ。アサネリヤで作られている。風は通すけど、それは生地が薄くて透けるということもない。でもこの漂白したような真っ白さ、特別なものだね。
これは見せたら父さまも母さまも卒倒するだろう。
羽織るものも用意されていて、これも真っ白の布で、端にリングがついていた。
ああこれを指輪みたいに通して羽織るのね。落ちないように。
わたしはチビだからパレオが腰からではなく胸から使っても足まで隠すことができる。前に布を持ってきて、首の後ろで紐を結ぶ。背中は羽織もので見えないし、これくらいの露出は仕方ない。
アクセは全部ゴールドだ。
手首にはゴールドのゴージャスなブレスレット。イヤリング、これもゴージャスすぎるだろ。耳たぶが伸びそう。
親指と人差し指と小指用の指輪。中指には羽織のリングを通すから指輪してないのは薬指だけ。
もふもふ軍団はキンキンキラキラだと喜ぶ。ドラゴンちゃんたちもだ。
ドラゴンがキンキンキラキラしたものが好きと聞いたことがある。
だからドラゴンの宝はすごいって。
聖歌のお礼とくれる品々もすごかったもんな。
わたし、歌うだけなのに。
珍しいものや人族には価値のあるものばかり。
どれも見てるだけでキレイなものだったのは共通していたように思う。
着替え終わり、さて、と隣の部屋に行くと、待ち構えていた侍女さんたちは、わたしのパレオの巻き方を可愛いいと絶賛した。
着替えは流石に自分ですると辞退した。待っていてくれたんだね。
兄さまたちは……。王さまと同じような格好だ。やはり真っ白なストンとしたワンピースをきて、ウエストのところを緩くベルトを巻いている。
ゴールドのアクセというのは決まりごとのようだ。
けれど、同じものはひとつもなく、趣向が凝らされている。兄さまは繊細なデザインのものが多い。
みんなわたしから視線を外す。
褒めろとは言わないけれど、あからさまに視線を外されると少しだけ傷つくんですけど。
「ちょっと、3人とも失礼じゃない?」
メイドさんたちが出て行ってから抗議すると、ガーシが笑う。
「いち姫、似合ってますよ。坊ちゃんたちは恥ずかしがってるだけです」
「いち姫、本当によくお似合いですよ」
シモーネが褒めてくれた。ちょっと嬉しい。
わたしが嬉しくなったのがわかったのか、ドラゴンちゃんたちがはしゃぎだす。
「ほら、坊ちゃんたちも。貴族の間では、着飾った女性に言葉をかけるのは当然のことでは?」
「リディー、とても素敵だよ。ただ目のやり場に困るだけだ」
兄さまはうっすら頬を赤らめている。そうね、確かに薄着だし、露出してるからね。
「フランツの意見に賛成だ」
アダムは兄さまに便乗した。
アダムに肘打ちされ、イザークがわたしを見る。
「意外に胸があって驚いた」
え?
「な」
「なっ!」
兄さまが顔を引き攣らせ、アダムがイザークの口を塞ぐ。
イザークはアダムの手を解きにかかっている。
「なんだよ、急に?」
「イザーク、お前はリディーを見るな」
兄さまが怖い声を出す。
「なんだ、そりゃ?」
言いがかりをつけられたと憤るイザークに、兄さまが眉間にシワを寄せ詰め寄り、アダムがふたりを取り持とうとしている。
ノックがあり、見張でもある世界議会の騎士さんが、案内人が来てくれたと伝えてくれる。
会場に行く時間となったようだ。
侍従は腰からパレオを巻いたような格好で、上は何も着ていない。
おおっ。ところ変われば、だね。
これ他のユオブリアの貴族女子だったらぶっ倒れるぞ。
兄さまにエスコートされる。いつもより薄着なので、手を組んでいるだけでもなんだか恥ずかしい。いや、わたしが意識しているからだけなんだけど!
お城の中は船が通れるほどの水路はないけれど、人二人が並んで歩けるような水路はあって、水の音が絶えず聞こえてくる。
もう夕方らしいけど、全然明るい。日はかなり翳ってはきている。
外でパーティするみたい。テーブルと椅子があり、もうご馳走が並んでいる。
いくつかの結界が張られていて、ひとつは虫除けだと教えてもらう。
おおう、ありがたいけど。ご当地ならではって感じで色々違ってきていて面白い。
ここも第六大陸と同じで、食事は手でするのが一般的らしい。
王さまが50代ぐらいかな。王子殿下たちが30代、その子供たちがまだ小さい。
子沢山とは聞いたけど、うん、角ばった顔が多い。
でもみんな朗らかで、明るい感じ。
わたしたちを主にもてなしてくれたのは王太子殿下と王太子妃殿下。まだ成人していないわたしたちにも優しく接してくれた。
王族はやっぱり真っ白のものを身につけている。王太子妃殿下はナイスバディーで、胸がデカって引くほどだ。
絶えずみんなのお皿の上に気を配って、説明しながら美味しいものをいっぱいいただいた。もふさまにもゴージャスなゴールドの首飾りを付けさせて、専用の侍女をつけ、次々と食べ物をくれている。
小さなお子さまたちはドラゴンが気になるようだ。
そこには純粋な興味だけなので、ドラゴンちゃんたちも歩み寄って仲良くなったりしていた。
「それにしても本当に水が豊富なのですね。それに美しいです」
さっき見せてもらったのは演奏に合わせた噴水のショー。そこに光を当てたりして、幻想的なものを作り上げていた。
「創世記の後日譚をご存知ですか?」
わたしたちは顔を見合わせる。恐らく創世記の後半のことだよね。
「大地が6つに割れた、そのことですか?」
アダムがためらいなく聞き返す。
王太子殿下は、大きくうなずいた。
「お若い使節団だと思いましたが、やはりご存じで、優秀な方々なのですね」
ああ、そっか。後半は王族とか神官の上層部に留められることだから、それを知っているかどうかで、立ち位置を計れることでもあるのね。




